第041話 セーフエリア


 特にこれと言った障害もなく、二階層を易々と突破すると、次の階層へと足を進めた。


 そして次に飛び込んできた景色は…………。


「ん?今度は……なんだ?」


 三階層はレンガのようなブロックで外壁が作られた、巨大な一室だった。

 

「ふむ、か。」


「セーフエリア?」


「ほれ、あの奥に階段が見えるだろう?」


 ラピスが指差した先には確かに下へと続く階段がある。


「ダンジョンにおいて、このように降りてきてすぐに階段がある場所は、魔物も出てこない安全な場所。通称セーフエリアと呼ばれているのだ。」


 どっかりと、ラピスは地面に座ると大きく息を吐き出した。


「ここならば魔物は出てこない。というわけで……カオル、飯だ!!」


「はいはい、わかったよ。」


 ちょうど俺も腹が減ってきた頃だったしな。


 収納袋から俺はカセットコンロと鍋、そして温めるだけにした料理の入った袋を取り出すと、鍋でそれを温める。


 すると、辺りに良い匂いが漂い始め、ラピスもヒクヒクと鼻をひくつかせていた。


「うむうむ……空腹をくすぐるよい香りだ。」


「空腹って、さっき俺のお菓子食べただろ?」


「あれは別腹というものだ。」


「別腹ね。」


 別腹ってのはホントに使い勝手のいい言葉だな。まったく誰が考えたんだか……きっとたくさん食べる人が言い訳で考えたんだろう。


 そんなことを思いながら、お皿にバターで炒めたご飯と、熱々のカレーを盛り付け、カレーライスを作り上げた。


「おぉ!!これまた美味そうだ。もう食ってもよいか!?」


「あぁ、でも熱いから気をつけ――――――。」


「おかわりなのだ!!」


「はえーよっ!?」


 俺が話している最中に、ラピスは早くも皿に盛られていた大盛りのカレーライスをペロリと平らげてしまい、おかわりを要求してきた。


「そんなに早食いして……ちゃんと味わって食べてるか?」


「美味いからこそこんなに食が進むのだ。不味ければ食わぬだろう?」


「ん……確かに。」


 そう話すラピスに思わず同意してしまう。あまりにも正論過ぎた。

 彼女におかわりを盛って、俺もカレーライスを食べ始める。そんな俺の姿を見てラピスはとあることが気になったらしい。


「そういえばなのだが、カオルは自分で作った料理を食って何を思っているのだ?」


「何って?」


「例えば、それこそ美味いとか……。」


「ん~、それならまぁ普通に美味いと思って食べてるぞ?ってか、俺が味見して美味いって感じたものしかこんな風に振る舞ったりしない。あえて自分で美味しくないと思ったものを出す意味はないからな。」


「その言い草だと逆におぬし、不味いものも作れるのか?」


「やる気になれば作れるさ。まぁそんなの誰も食べないし、食材に失礼だからに作らないけどな。」


 別に不味い料理を作るのは簡単だ。入れる調味料の量を過剰にしたり、本来やるべき下処理などを行わない等々……方法は色々ある。

 だが、食材を頂き調理する側の俺達料理人には、調理する一つ一つの食材を最高に美味しくするがある。

 それを疎かにしているやつは料理人とは呼べない。ただのだ。


 そんなことを話ながら食べ進めていると、三回のおかわりを経てようやくラピスが満腹になったらしい。


「ぷふぅ……満足だ。」


「あれだけ食べて満足じゃなかったら困るさ。普通の量でも俺より多いのに、それを三回おかわりしてるんだからな」


「我の胃袋は人間のようにちっぽけではないからな!!むははははっ♪」


 体は人間でも、臓器はドラゴンってか?人間の姿になるならそっちの方も人間に合わせてくれると助かるんだがな。


「それで?もう先に進むか?」


「いや、セーフエリアにたどり着いたということは最終層まではもうすぐ……。下手したらこのすぐ下やもしれん。お互いに魔力も体力も消耗しているし、一旦ここで回復を待った方がよいだろう。」


「そうか、なら休めるように寝床は作っておくよ。」


 収納袋からキャンプ用のテントや寝袋等々を取り出すと、それを組み立て簡易的な寝床を作り上げた。


 テントを組み立て終わると、ラピスが早速中に入っていった。


「お~……悪くない。寝床もふかふかだし、快適だの。」


「奮発したんだから当たり前だろ?」


 できる限りダンジョンの中でも快適に過ごしたい。その一心で買い集めた高級なキャンプ用品だ。

 まぁ、それでも金額的に白金貨一枚にも満たなかったんだけどな。


「奮発したというわりには一つ屋根の下に寝そべらなければならぬのだな。」


「我慢してくれ。もし一緒に寝るのが嫌なら俺は外で寝る。」


「誰も嫌とは言っておらん。おぬしが変な気を起こさねばの話だが。」


 にやにやと笑いながら、ラピスは自分の体をきゅっと抱き締めた。そんな彼女の姿に思わずため息がこぼれる。


「はぁ……誰がお前に変な気を起こすか。」


「な、なんと!?失礼なやつだ……我の魅力的な体に欲情せんというのか!?」


「するわけないだろ。それと、魅力的な体ってのはそんなにちっぽけじゃないぞ。それじゃ先に寝るからな。」


 そして俺は寝袋にくるまった。そして目を閉じると……。


「むぐぐぐぐ、バカにしおって……これでもかっ!!」


「おいっ!?何して―――――。」


 突然ラピスは俺の寝袋のファスナーを開け放つと、一緒の寝袋に入ってきたのだ。


「おいラピス……何のつもりだ?」


「カオル、おぬしは我という一匹のメスに対して散々侮辱の限りを尽くしおって、無事に眠りにつけると思っておるのか?」


「別に侮辱したつもりはないんだが……。」


「い~やっ!!我は先の言葉を侮辱と受け取った!!こうなれば、おぬしが我に欲情するように手を尽くさせて貰う!!」


「はぁ……手を尽くすのは構わないが、寝る邪魔だけはしないでくれよ。」


「むっふっふ♪一匹のメスとオスがこうして密着している状態で寝れるものなら寝てみ―――――。」


「(。--)――――zzZ」


「こ、こやつ……我が話しておる間に寝おった。なんという肝っ玉の持ち主、いやこれはただ鈍感なだけか?」


 

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