第022話 ギルドマスター


 彼女の後についていくと、ギルドの二階にある彼女の執務室へと案内された。


「適当に座ってくれて構わないよ。今お茶を淹れるね。」


 ラピスとソファーに腰かけると、彼女がお茶を淹れてくれた。そして彼女は俺たちの正面に座ると自己紹介を始める。


「さてとまずは軽く自己紹介をしよっか、私はリル……このハンターズギルドのマスターをしているよ。」


「カオルです。」


「ラピスだ。」


 お互いに自己紹介を終えると、彼女ジャックが渡してくれた書面を手にしながら言った。


「ジャックからの書面は見たよ。レベルアップのためにハンターになりたいんだってね?」


「はい。」


「そっちの女の子もそうかい?」


「我は違う。我はカオルの付き添いだ。」


「おや残念……。キミも登録すれば彼と一緒に依頼をこなせるんだけど。」


「それが我にとって何の得があるというのだ?」


「そうだね、例えば……報酬を山分けしたりとか、一緒に遠出して魔物を討伐しに行ったりとかできるかな。」


「それは……もしや……。」


 ラピスは少し考えるそぶりを見せると、こちらをチラリと見てくる。そしてニヤリと笑うとリルに向かって言った。


「気が変わった。我もそのハンターとやらに登録しよう。」


「おぉ!!そうかい?ならこの書面に名前を……。」


 そう言ってリルは此方に2枚の紙を差し出してきた。


「本当なら実技試験とか、実力を図るために色々テストをするんだけど……君達なら大丈夫でしょ?なにせ酒場の男どもでも相手にならなかったみたいだからね。」


 あはは……と笑いながらリルは言った。


「それはそうと……本当にあれは大丈夫なんですか?」


「あぁ、心配には及ばないよ。酒場の舞台は勝った者が正義って決まってるのさ。だから敗者は全てを背負うことになる。キミもアイツらに決闘を挑まれてで受けたんだろう?」


「ま、まぁそうですが……。」


「そしてキミは勝った。だからキミに責任は何もないんだよ。安心すると良い、私が保証する。まぁまぁそれよりも名前を書きたまえよ。」


「あ、は、はい。」


 そして彼女に渡された紙に名前を記入すると、リルはにこりと笑ってそれを回収する。


「はい、これで登録は完了だよ。後は受付の子に証明書を作らせるね。」


 ぱちんと指を鳴らすと、俺とラピスの名前が記入された紙がどこかへと消え去ってしまう。


「さて、証明書ができるまでの間……少し時間があるね。」


 スッとリルは席を立つと、此方を見つめて笑った。


「それまでの間……キミ達の実力を少し見せてくれないかな?」


「えっ?」


「さっきキミ達は実力試験は免除って言ったけど、ギルドマスターとして、やっぱり一人一人の力は確認しておかないとね。そ・れ・に~私相手に良い結果を残せたら、手強い依頼とかも回してあげるよ?どうどう?」


 う~ん、確かに手強い依頼というのはレベルアップという目的からしてみれば魅力的な話ではあるが……。


 俺が悩んでいると、リルはラピスに近付き彼女の耳元で何かボソボソと話し始めた。すると、ラピスの顔色が突然変わる。


「おいカオル!!やるぞ!!」


「えぇっ!?」


「どうせ待っている間は暇なのだ。こやつの相手をしていれば多少暇潰しにはなるだろう?ん?」


 なぜか食いぎみになっているラピス。どうやら先ほどリルに何かしら唆されたらしい。


「はぁ……わかった。」


「おぉ!!それじゃあさっそく闘技場に行こう!!こっちだよ、着いてきて。」


 俺の手をとり、ブンブンと振り回したリルはそのまま俺のことを引きずって闘技場という場所へと連れていく。


 それはギルドの地下にあるらしく、どんどん階段を下っていった。


 そして階段を降りきると、中世のコロッセオを思わせるような大きな闘技場が目の前に現れた。そこでは武器を装備した人達がせっせと訓練に励んでいる。


「たまにここで腕自慢を集めて各党大会とかやってるんだけど、使わないときはこうやってギルドに登録してる子達の練習場になってるんだ。いろんな武器があるからね、結構評判良いんだよ?」


「そ、そうなんですか……。」


 呆気にとられていると、リルは一人闘技場の中へと入っていき練習中の人達に声をかけた。すると闘技場の中で練習に励んでいた人々は続々と観客席の方へと上がっていく。


 そして闘技場の中にリル一人になると、彼女は此方を手招きする。


 それに従って中へと足を踏み入れると、観客席でざわめきが起きた。


「あっ!?お、おいアイツ……さっき酒場で……。」


「あぁ、ドーラン達をぶっ飛ばした野郎だな。」


 ざわざわと俺について話す声が聞こえる。そんな声に耳を傾けていると、リルが笑いながら話しかけてきた。


「あはは、すっかりキミもこのギルドで人気者だね。」


「嫌な意味でですけどね。」


「まぁまぁそう言わずにね。ちなみにキミが片手間で倒しちゃったドーラン達だけど、このギルドでもまぁまぁレベルが高い方だったんだよ?」


「そうなんですか?」


「うん、確か……レベル40?とかだったかな。」


 意外にあいつら結構レベル高かったのか。だが、ジャックやアルマ様と手合わせするときと違い、レベルは上がらなかったな。

 一瞬で終わらせてしまったのがいけなかっただろうか?


 そんなことを考えていると、リルと俺達の前にガラガラと木製の武器が運ばれてくる。


「好きなのを取りなよ。私はこれで行くけどさ。」


 リルはその武器の中からクナイのようなものを両手に持った。


 しかしながら俺はあいにく武器の心得なんぞない。


「あいにく武器の心得は無くて……素手でも良いですか?」


「えっ?武器使えないの?」


 俺の言葉に思わずキョトンとするリル。


「確かキミ……レッドキャップもたくさん倒してくれたんだよね?」


 彼女が言っているのは黒い森で倒したレッドキャップのことだろうか?


「えっと、黒い森のヤツですか?」


「そうそれ、あの時も素手でやったのかい?」


「えぇ……まぁそうですね。」


「まったく規格外だね。……そっちの女の子は?」


「む?我も要らんぞこんな玩具。」


 ラピスも武器をとることは拒否。まぁもとの姿はドラゴンだからな。武器なんか使ったことはないだろう。


「二人とも素手か……まぁいいけどさ。」


 そして少し呆れながらも、両手に携えたクナイを構えると、リルは眼光を光らせながら言った。


「それで、どっちからやるんだい?私は二人同時でもいいけど?」


 その言葉に反応したのか、ラピスからプチンと何かがキレる音がした。


「一介の人間が……我相手に余裕を持つか?よかろう、カオル……手を出すな。我が先にやる。」


「あははっ、まさかキミが先か。」


「一度身の程というのを教えてやろう。先に一つ間違いを訂正してやる、勝負を挑むのは我ではない。!!」


 普段とは別人と見間違うほどのオーラを放つと、ラピスはリルのことを挑発する。


 それと同時にリルの姿が目の前から消えた。


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