第021話 ハンターズギルド


 ジャックの薦めで魔物ハンター達が集まるギルドへと足を運ぶべく城を出ようとしたとき……。


「お~い、カオルどこへ行くのだ~?」


 背後からラピスに声をかけられた。


「魔物ハンターのギルドに行くんだよ。」


「ま、魔物ハンターだと!?ま、まさか我のことを討伐するつもりではなかろうな!?」


 顔を青ざめさせながらラピスは言った。


「そんな事するわけないだろ?第一にラピスはもう契約で、城のお手伝いをすることになってる。それだけでも身の安全が保証されていると思うが?」


「うむむ、確かにそうなのだが……。それならばどうして魔物ハンターなんぞのところに行く?」


「次にアルマ様が欲する食材を採りに行くにはレベルが足りないんだよ。」


「ほぉ、レベルとな。」


 ここで俺はふと気になった。


「そういえばラピスはレベルはどのぐらいあるんだ?」


「我のレベルか?む~……いくつだったかの~。100から先は数えるのを止めた故正確なものはわからん。しばらくレベルも上がっとらんし。」


「ひゃ、百!?」


 レベル100と言えばジャックよりも遥かに上だ。まさかラピスがそんなに強かったとは思わなんだ。


「そういうカオルのレベルはいくつなのだ?」


「22だよ。」


「ぶふっ!!22だと!?」


 思わず吹き出してしまったラピスは、笑いをこらえて口元を押さえている。


「なんだよ、そんなに可笑しいか?」


「可笑しいにきまっておろう?カオルは態度こそ大きいが、レベルはずいぶんと可愛いものだの~。ぷくくくく♪」


 ここまで馬鹿にされると、流石に癪に触るな……。少しお返ししてみるか。


「ラピス、今日のご飯抜きな。」


「な、なんとな!?」


 そう口にした瞬間ラピスの顔色が一気に青ざめていく。そして彼女はすがり付くように俺にくっつくと、涙を流しながら訴えかけてきた。


「カオル~、ほんの冗談なのだぁ。飯抜きは許してほしいのだ~!!」


「まぁ、気分次第だな。」


「そんな殺生なぁ~……。飯抜きなんて、我は餓死してしまうぞ?」


 大袈裟だな。一日二日飯を抜いたところで死にはしないさ。まぁ、そんなひどいことをするつもりは毛頭ないがな。


「ふっ、冗談だよ。契約にある通り飯はしっかり作ってやるさ。」


「よ、よかったのだ~。」


「っと、ほれ着いたぞ。」


 そんな会話をしていると、あっという間に目的地の目の前に着いてしまった。


「ここが魔物ハンターのギルドか。意外と綺麗な建物だな。」


 外観は良いが中はどうかな?


 木製の大きな扉を開けて中へと入ると、強烈なアルコールの匂いが鼻をついた。


「むぅぅ、カオル……鼻がツンとするのだ。」


「アルコールが揮発してる匂いだ。苦手なら鼻をつまんでいた方がいいぞ?」


「わかった。」


 ラピスは片手で俺の服の裾をきゅっと掴みながら、空いている方のもう片方の手で鼻を摘まんだ。


「このアルコールの匂いの原因はあれか。」


 どうやらこのギルドは酒場と一体化している場所のようで、酒場には真っ昼間から酒盛りをしている男達が集まっていた。


「ラピスしっかり着いてこいよ。」


「うむ。」


 一先ず受付らしいところへと向かう。そしてそこにいたフリルのスカートを身につけた女性に声をかけた。


「すみません。」


「は~い、ハンターズギルドへようこそ!!初めての方……ですよね?」


「はい、ハンターの登録をしに来たんですが。」


「登録ですね。では誰かからの推薦状とかはお持ちですか?お持ちでないのならこのまま手続きを進めますけど。」


「あっと……これでいいですか?」


 城から出る前にジャックに手渡されていた一枚の紙をその女性に手渡すと、彼女は目を丸くして慌て始めた。


「あっ、あっ……ギルドマスターを呼んで参りますので少々お待ちくださいっ!!」


 パタパタと駆け足で女性はどこかへと行ってしまった。


「ラピス、少し待つようだ。」


「むぅ……我はこんな臭いところ早くおさらばしたいぞ。」


 ラピスとそう話していると、酒場の方から酔っ払った大柄の男が此方に近付いてきて、ラピスに詰め寄った。


「お~う嬢ちゃん、可愛いねぇ~。あっちでオレに酒注いでくんね~か?」


「うっ……臭っ。お断りだ!!」


 男の放つ酒気に鼻を曲げながら拒絶するラピスだったが、その様子を見ても男は彼女にさらに詰め寄った。


「そうつれねぇこと言うなよ~。一杯だけでいいからよ、なっ?」


 そしてラピスに手を伸ばそうとした男。俺はその男の手がラピスに届く前に掴んだ。


「そんなに酒を注いでほしいなら俺が行こう。」


「あぁ?男なんざ興味ねぇよ、痛い目に遭いたくなかったら黙ってその手を離しやが…………っ!?」


 男は躍起になって俺の手を振りほどこうとするが、俺もさらに力を籠めた。


「~~~っざけんな!!離せっ…………うぉぉぉっ!?」


 男が思い切り力を籠めたところでパッと手を離してやると、よろよろとよろめきながら無様な姿を晒しながらもこちらに怒りのこもった視線を向けてきた。


「てめぇ……調子こいてんなァ。」


 ギロリと俺のことを睨み付けてくると、男は酒場の舞台を指差した。


「おい、ヒョロガリ野郎……彼処でヤろうや。彼処はどれだけ殴ろうが、武器で切りつけようがお咎めなしだからな。」


「つまり、俺がどれだけお前を殴っても良いってことだな?」


「へっ、言ってろよ。勇気があるなら上ってきやがれ。」


 普段ならこんなやっすい挑発には乗らないのだが、少しこいつにお灸を据えてやりたくなった。


「ラピス、ちょっとここで待っててくれ。」


「う、うむ。」


 ラピスに受付の前で待っておくように言うと、俺は酒場の舞台の上へとあがる。すると、先ほどの男は他にも何人か舞台の上で待機させていた。


「……そいつらは?」


「審判だ。決着には審判が必要だろ?」


 審判が三人も必要か?どう考えても伏兵だろうが……と突っ込みたくなったが俺はのどまで上がってきたその言葉をぐっと飲み込んだ。


「まぁいいか、ほら……そっちが売ってきた喧嘩だ。。」


 そしてちょいちょいと挑発してやると男の額にビキリと青筋が浮かんだ。


「調子づきやがって……ボコボコにしてやるよォッ!!」


 男はポケットに手を突っ込むと、両手にメリケンサックのような物をはめて殴りかかってきた。

 なるほど、舞台に上がってからずいぶんと余裕そうだと思っていたが、それは武器が使えるからだったのか。


「死ねやァッ!!」


 男の大きな拳が目の前に迫ったその瞬間、時の流れが極端に遅くなる。危険予知が発動したのだ。

 しかし、本当に死の危険が迫っている時のように完全に動きが止まっているというわけではない。ゆっくりと……ゆっくりと男は動いていた。そして周りの景色も同じように。


 ということは、命の危険はないが喰らえば怪我をする程度ということかな?


 いつもならこの時間の中で避ける動作をとるところだが、今日は少し試したいことがある。この時の流れのなかで……攻撃を加えたらどうなるのか、それを検証しよう。


「さて、一発思いっきりいかせてもらうか。」


 グッ……と握る手に力を籠めると、俺は思い切り男の腹に拳を叩き込んだ。その瞬間に時間の流れが急速に元に戻っていく。


 緩やかになっていた時間の流れが元に戻ると同時に、形容しがたい爆音が酒場に鳴り響き、それによって生じた衝撃波で酒場にあったテーブルや椅子、果てには人までも大きく吹き飛んでいく。


 そして俺の拳を食らった男は審判として立たせていた男三人を巻き添えにギルドの壁を突き破り、通りまで吹き飛んでいた。


 辺りが騒然とするなか、二階から一人の女性が降りてきた。


「あちゃ~……遅かったか。」


 酒場の惨状を目にして頭を抱えながら、彼女は此方に歩み寄ってきた。


「キミが噂の魔王様のお気に入りだね。どうやらうちの子が迷惑をかけたみたいで、ごめんよ。」


 俺は酒場の舞台はから降りると、彼女にペコリと一礼した。


「すみません、いろいろ壊してしまって……これは後でしっかりと……。」


「あぁ、これ?いいのいいの、修繕費は全部アイツらに払わせるからね。」


「でも壊したのは俺……ですよ?」


「あはは、キミは何も心配することはないよ。悪いのはアイツらなんだよね?なぁ、諸君?」


 チラリと彼女が酒場で飲んでいた人達に視線を向けると、彼らは一斉に首を縦に振った。


「ま、というわけさ。さて、事情はなんとなく書面を見てわかってる。私の部屋で話そうか。あと、そこのお連れさんもね。」


 そして俺とラピスは彼女に連れられてギルドの二階へと案内されるのだった。

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