第023話 実力試験?
リルの姿が目の前から消えたかと思えば、次の瞬間にはラピスの首もとへと向かってクナイが迫っていた。
ラピスはそれを見向きすらしないが、クナイが当たる直前……ふっと笑う。
「ふん、くだらん。」
「うぇっ!?」
突如としてラピスの首もとを瑠璃色の鱗が覆うと、リルの持つクナイを簡単に砕いてしまったのだ。
「そんなちゃちな武器で我に傷をつけられるわけなかろう?ほれ、他に手はないのか?」
「あはは……困ったなぁ~。これじゃ傷一つつけられないか。なら…………。」
手にしていた木製のクナイを手放し、手を腰の後ろに回すと鈍く光る金属でできたクナイを抜いた。
「コレならどうかな?」
「あくまでも実力を見るだけ……ということではなかったか?」
「それなら、私のことを挑戦者って言ったのは誰かな~?」
ニコリとリルは笑うと、その手にしていたクナイが紫色に妖しく光る。
「さぁ……楽しもうかっ!!」
そして手にしていたクナイをラピスに向かって投げつけた。真っ直ぐにラピスへと飛んでいたクナイは、途中で一つから二つへ、そして二つから四つへと倍に……倍にと増えていき、終いにはラピスの目の前に超大量のクナイが迫っていた。
しかしラピスの表情は崩れない。
「ふっ、ただ数が増えた程度か。」
「これだけだと思ったら大間違いだよ。」
彼女は両手を自分の胸の前でクロスさせると、まるで呪文のようにポツリと呟く。
「
「ん?」
リルがそう呟いた瞬間、まるで操られるようにクナイがラピスのことを360度隙間なく取り囲む。
「これで逃げ場はないよ。降参するなら今のうちだけど?」
「やるならとっととやってみろ。我はここから一歩も動かん。」
「なら遠慮なく行くよっ!!
そうリルが叫んだ次の瞬間、ラピスへと向かってその大量のクナイが一斉に放たれた。
ドドドドド……とまるでマシンガンのように放たれるクナイ。その衝撃からか、ラピスのいた回りには砂埃が舞っていた。
並みの人間であれば原型を留めているとは考えにくいほどの攻撃だが、ラピスがあの程度でやられるとは考えにくい。
あまり心配せずに傍観していると、砂埃の中から瑠璃色の大きな翼を生やしたラピスが現れた。どうやらあの大きな翼で体をくるんで身を守っていたらしい。
そしてもちろんのこと、ラピスの体には傷一つない。
「ふむ、今ので終わりか?」
「えぇ……あれで無傷なの?」
無傷でケロッとしているラピスの姿に、思わず呆気にとられるリル。
ラピスはおもむろに足下に落ちていたクナイを拾い上げると、手を大きく振りかぶった。
「投げるのならこのぐらいで投げ付けねば殺せぬだろう?……フンッ!!」
「ふぇ―――――?」
ラピスの投げたクナイは音を置き去りにして、リルの背後の壁に大きなクレーターを作り突き刺さった。
「うむっ!!」
俺は、満足そうに大きく頷くラピスのもとに歩み寄ると、彼女の頭をつかんで無理矢理お辞儀させた。
「んぎっ!?」
「うちのラピスがすみません……。」
「あ、あはは……い、いいのいいの。元々は私が言い出したことだし……ね。」
若干表情をひきつらせながらもリルはそう言ってくれた。
「んぎぎっ……こ、これカオル!!この手を放せ!!お主馬鹿力過ぎるのだ!!」
「お前はやりすぎなんだよ!!まったく……。」
パッと手を離してやると、ラピスは瞳に涙を溜めながら俺のことを指差してきた。
「それを言ったらお主もだろう!?この建物を破壊しておったではないか!!」
「うぐっ……そ、それは……。」
前までは痛いところを突いてきた側だったのだが、今日は逆に痛いところを突かれてしまった。
「むっふっふ、どうやら我の言葉に手も足も出んらしいなぁ~。ん?カオルよ?ほれほれ、いつもの威勢はどうしたのだ?」
べしべしと叩いてくるラピス。流石に少し調子に乗りすぎだな。
俺もお前の弱い言葉は知ってるんだぞ?
「ラピス、今日の飯……ホントに抜きな。」
「のぉっ!?ままま、また冗談なのだろう?わ、我は騙されんぞ。」
「俺の目を見ても冗談だと思うか?」
「う、うむむむむむ……。」
本気で言っている俺の目を見たラピスはみるみる顔が青ざめていく。
「こ、この話は不毛だ。なかったことにしよう。な?カオル?なっ?」
「……まぁ良いか。でも飯を作るかどうかは気分次第だぞ。」
「な、なんとな!?」
今にも泣きそうになっているラピスに背を向けると、俺はすっかり置き去りにされていたリルに声をかけた。
「えっと、このまま俺の実力試験もやりますか?」
「あ~……一応やっとこうかな。うん……。」
ラピスに散々やられて心が折れつつあるリルだったが、ギルドマスターとしての責務はしっかりと果たすつもりらしい。
「それじゃあ……行くよ?」
「いつでも……。」
そしてリルが動き出そうとした瞬間に時間が止まった。
それから数分後、闘技場の真ん中でガッカリと項垂れるリルの姿があった。
「しくしく…………キミ達、規格外すぎるよ。」
「な、なんかすみません……。」
ポロポロと涙を流しながら苦笑いするリルに思わず俺は謝ってしまった。
「うぅ……ジャックのヤツも酷いことするよ。ギルドマスターの私より強い新人を二人も連れてくるなんてさ。」
「あ~……えっと。」
対応に困っていると、次の瞬間……彼女は先ほどの涙が嘘だったかの状にケロリと笑う。そして俺とラピスの手を引いてきた。
「はいっ!!実力試験はこれで終わりだよ。そろそろアレもできてるだろうし、戻ろっか?」
まるでピエロのように次々に表情を変える彼女にすっかり振り回されてしまうのだった。
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