第3話 つぶやき

これはあくまで、俺の独り言だから。

気にするな。

たいして重要なことでもねぇし。


独白というか、ぼやきというか……そんなもんだ。

軽く聞き流してくれてかまわないから。



俺は一度、あいつに捨てられた。

それなのに、簡単にまた信用してしまった。


また捨てられるかもしれないのに。

笑えるよな。

だけど、お前なら信用できるって思ったんだ。

捨てられることすら、受け入れられるかもしれないな。

なぜだかは、分からない。

理由なんかない。

お前の顔を見た瞬間、声を聴いた瞬間、俺の心がそう思った。

ただそれだけだ。


お前になら、裏切られてもかまわないし、捨てられてもかまわない。

それでお前を恨むこともない。


きっと、お前はそんなことはしないだろうけど。

だから……時間が俺たちを別けるまで、お前と一緒にいさせてほしい。


それが俺の今の願い。

そして飼い猫全ての願いだと思う。



いくら俺が喋れるといっても、しょせん猫だ。

決定権はなく、全てはお前たち人間にかかっている。

俺たちの生き死にでさえな。

俺たちにできるのは、せいぜい暴れ引っ掻き、力いっぱいの抵抗。

それでさえ、人間にとっては些細なものだろう?


……悪い。怖がらせてしまったか?

そんなつもりはなかったんだが。


お前の心に余裕があるなら、覚えておいてくれないだろうか。

さっき俺は言ったよな。

お前たちにも、俺たち猫にも自由や権利はあると。

人間と猫に大差ないと。


お前たち人間の判断一つで、俺たち猫の生死すら左右されるんだ。

俺の知り合いの中にも、飼い主から虐待を受けているやつがいる。叩かれるやつや、ごく少量の餌を気まぐれにもらえるだけのやつ、病院に連れて行ってもらえないやつ。

そして、たくさんの仲間が飼い主に捨てられて、一生を台無しにされた。

俺みたいに拾われて大事にされるやつもいる。もとから大事に大事に可愛がられているやつも大勢いる。


なぁ、考えてみてくれ。もし、生まれた時から衣食住そろっていて、何不自由なく育っていたやつが、ある日突然外の世界に出されたらどうなるか……。

そんなやつは、自分で食べ物をとることもできない。

誰も食べ物の獲り方なんか教えてくれない。分けてくれることもない。

どうすればいい?

飢え死にすればいいのか?

空腹に耐えて、骨を皮だけになるまで痩せ細って、それでも弱々しくも生にしがみついて生きる。


だけどな、いずれは死んでしまうんだ。

捨てられちまった猫ってやつは……。


もうどれだけ仲間がいなくなったかなんて分からない。

あとどれくらい仲間が残っているのかも分からない。


たくさんの仲間が、捕まって殺されたと聞いた。

なぜだ!?

おかしくないか?


自分たちが捨てたくせに、自分たちの都合でまた捕まえて……あげくには殺すのかよ。

よく考えたら、捨てられちまった猫には、急激に死が近くなるな。

捕まって殺されるか、飢えて死ぬか。

まあ、上手に生き残るやつもいるし、捕まっても他の猫たちと一緒に暮らせる場合もあるらしい。

でもな、大半のやつは捨てられたら苦しい道を進むことになるんだよ。

生きるために必死に必死に生きるんだ。

生きたいために生きるんだ。


わけわかんねぇよな。

どんなに苦しくっても生きるしかない。

人間の中には、苦しすぎて自分で生を絶つやつもいるんだろ?

そんなことをするのは、人間くらいだ。

俺たちは自ら命を絶つなんてことは考えない。

猫に限らず、人間以外すべての生き物がそうじゃないだろうか。

生きてるから、生にしがみつく。

与えられた命を精一杯に生きようとする、それが本能じゃないのか。



俺も、お前と出会っていなければ……死んでいたかもしれないな。

そう思うと、とても恐ろしい。


死んだ先に、何があるかも分からないし、何もないかもしれない。

真っ暗かもしれない。

新しい光が見えるのかもしれない。

そんなところに行きたいとは思わないな。

どうせなら、生きていられる時を大切にしたいよな。

お前とこうして、一緒にいられる時を楽しみたいな。


お前は、どう思ってる?

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