第29話 文化祭4
いよいよ文化祭準備も佳境を迎える。
そのせいか、学園内はより一層騒がしくなっていた。
「その椅子とテーブルはこっちに移動させておいて」
「看板は準備できてる?」
「チラシの枚数足りてないかも」
「材料の発注は昨日私がやっておいたわ」
俺たちCクラスも小野寺と橘を中心に最終準備に取り掛かっていた。
内装はほぼ完成状態、屋外の屋台も設置済みだ。
俺の分の仕事は終わり、どうしたもんかと手持ち無沙汰になっていると、
「なあ時崎、他のクラスの偵察行かね?」
同じく手持ち無沙汰になっていた如月がそんな提案をしてきた。
確かに良い機会かもしれないな。普段は競うべき相手だからと交流をしてこなかったからな。他クラスとの交流なんてランキング戦以来だ。
「休憩ついでに行ってみるか」
「そうこなくっちゃ」
こうして2人で他クラスの出し物を見に行くことになった。
俺たちがまず出向いたのはBクラスだ。
前情報によるとお化け屋敷を出す予定らしく、教室に近づくにつれゾンビや幽霊といった看板や張り紙が散りばめられており、かなり本格的なお化け屋敷が予想される。
「なんかドキドキするな」
「Bクラスのお化け屋敷が怖そうだからか?」
「それもあるけどさ。俺たちって他クラスとあまり交流なかっただろ?だからなんか緊張しててよ」
「引き返すか?」
「バカヤロウ。行くに決まってんだろ」
如月が俺の胸をドンと叩き、俺に付いてこいと言わんばかりの顔をした。
まずは少し離れた位置から外装を観察。黒いカーテンや赤い手形の付いた窓、幽霊の写真などが飾られ、今にもゾンビが出てきそうな空気が漂っている。今は行き交う学生たちの雑音で多少恐怖は和らいでいるが、静寂と雰囲気があれば間違いなく最恐のお化け屋敷だろう。
如月はドアの隙間から中を覗こうとしていた。
傍から見たら不審者だなこれは。
「あれ?時崎くんじゃん!」
そう俺に話しかけてきたのはBクラスの柏木だった。
手を振りながらこちらに近寄ってくる。
「ランキング戦以来だな」
「お久ー!ここで何してるの?」
「他クラスの出し物を見に来ただけだ」
ここは変に誤魔化すより事実を言った方がいい。
「へぇーそうなんだ。あ、よかったら中見てく?」
「いいのか?一応敵対する身ではあるぞ」
「いいのいいの。確かに競うべき相手だけど、私そういうの苦手だからさー。文化祭なんだなら楽しんでいこうよっ」
「ランキング戦の時は競争が苦手というタイプには見えなかったが」
「それは、時崎くんみたいな面白い人が相手だったから私も真面目にやったの!」
「そういうもんか?」
「そういうもん!ところで、そっちの人も連れ?」
そう柏木が指さしたのは、未だにドアから仲を覗き込んでいる如月だ。
俺たち2人の存在の気づき、ようやく覗きを止める。
「おうよ。Cクラスのムードメーカー如月 隼人だ。よろしく!」
「私は柏木 明里だよ。よろしくね、覗き魔くんっ」
「ち、違うっ。これは」
「あははっ、分かってるって。ちょっとからかってみただけ」
その反応に、如月は少し苦い顔をした。
「時崎、あれだな。な、なんか……橋本みたいだな、柏木さんって」
「同感だ」
俺も薄々は感じていた。
「どうする?中入る?」
「ど、どうするよ時崎?」
「せっかくの機会だ。行ってみよう」
「そ、そうだな。よしっ行くか」
「いらっしゃ〜い」
柏木を先頭にBクラスにお邪魔する。
中は既に3分の2が机やら椅子やらで迷路のような道ができていた。窓には遮光を目的とした黒い厚めのカーテン、本番ではおそらく点滅させる予定の電球の数々、所々に恐怖心を煽るような飾りもしてあり中も完成度が高いことが窺える。
「柏木さん、そちらの方々はどなたですノ?」
柏木に話しかけていたのは、銀髪に縦ロールの髪型をしたお嬢様系の人だった。
「リーダー!紹介するね、Cクラスの時崎くんと如月くん。うちのお化け屋敷に興味があるみたいで」
「Cクラス?」
俺たちが下のクラスと分かった途端睨みつけるような目を向ける。
「それでこの人がBクラスのリーダー、
この子がBクラスのリーダーか。
「それで柏木さん。どうしてこの方々を中に?」
「だから、私たちのお化け屋敷に興味があるんだって、いいよねリーダー?」
「そんなのダメに決まってるわ」
「え!どうして!?」
「柏木さん、今回の文化祭は祭りではなく競争ですノよ?敵に塩を送るような真似をしてどうするノ」
まあ、これが当然の反応だ。ましてや1クラスのリーダーがそんなことを無視するわけがない。
「すまんな。敵場視察とかではなく純粋にBクラスのお化け屋敷が気になっただけだ。邪魔なら早急に退出する」
「あなた馬鹿なノ?気になるなら当日に客として来ればいいだけのこと。わざわざこんな堂々と偵察しないでくれる?」
「結果ではなく過程が気になったんだ。本当に純粋な好奇心で見たかったのだが、そちらを不快にしてしまったのなら謝罪する。申し訳ない」
元々休憩ついでの暇つぶしだったのだ。これ以上相手を煽るような姿勢をとるわけにはいかない。ここは冷静に引くとしよう。
「失礼する」
「あ、時崎くんっ」
2人でBクラスの教室を後にする。
「ごめんね、リーダーかなり敵対心が強いの忘れてたよ」
「いや、柏木が謝ることじゃない。あれが普通だ」
「じゃあ私は変人ってこと?」
「そういうことだ」
「もうちょっとフォローしてくれてもいいじゃん!」
柏木と少し雑談した後、もうすぐ休憩時間を過ぎるということでお互い別れることとなった。
「やけに静かだったな、如月」
「いや、お前があの美川さんとまともに話せてるのがおかしいんだよ……」
「ランキング戦ではAクラスを相手にしてたお前が何を今更」
「あいつのオーラが見えねえのか?」
「オーラ?」
「あれはAクラスを普通に超えてるぞ。何でBクラスにいるのか分からないくらい」
「そ、そうか」
真剣な眼差しの如月は貴重だな。それほど美川の存在感が凄まじかったのだろう。俺には一切分からなかったが。
「他のクラスも見て行くか?」
「俺はパスする。Aクラスのリーダーなんかのオーラ見ちゃったらやる気なくしそうだ」
珍しく弱気の如月に俺は少し感心してしまった。
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