第28話 文化祭3
今日で文化祭当日まであと3日となった。
今日から3日間は文化祭準備期間となり、朝から夕方までみっちり文化祭の準備をすることができる。
もちろんCクラスも絶賛準備中だ。
今は屋外組と屋内組で分かれて準備を進めており当日までの完成を目指す。
ちなみに俺は屋内組に配属された。
「どう、似合う?」
「いいんじゃないか」
今は届いたメイド服のサイズを確認中だ。実際に着た橋本が優雅にポージングをとっている。
「なんか微妙な反応な気がする……」
「悪い、褒めるのが下手なんだ」
「下手すぎでしょ」
しょうがないだろ、他人を褒めるという経験が少ないんだ。
これは本当に俺が褒めるのが下手なだけであって、橋本のメイド服は想像以上に似合っていた。
「じゃあ、次はちゃんと褒めなさいよ」
「次?」
「ほら出てきなさい。椿ちゃん、卯月ちゃん」
橋本は廊下を見ながらそう言った。
俺は廊下の方に視線を向けると、顔を赤らめながら椿がメイド服姿で登場した。
「椿も着てたのか」
「う、うん。……どう、かな?」
「そ、そうだな……。……似合ってるぞ」
いつも下を向いてあまり注目はされていないが椿はかなり顔がいい方だ。さらに、普段は強調されない体のラインがメイド服により露わとなり、見違えるように可愛くなっている。
「ほ、ほんと!?」
「あ、ああ。見違えるほど似合っている」
「良かったね、椿ちゃん」
「うん!」
椿が満面の笑みを見せる。
ヘタしたらその笑顔だけで数百人の男は虜にできるな。
「あれ、卯月ちゃんは?」
そういえば、橋本は卯月の名前も呼んでいたな。
「そ、それが……」
椿が気まずそうに廊下の方を覗いた。
俺も続いて覗くと、隠れてこちら側を窺っている卯月と目が合った。
目が合った瞬間即座に隠れてしまったが、一瞬目にした感じ卯月もメイド服を着ているようだった。
もしかしたら恥ずかしさで隠れているのかもしれない。
「何隠れてんのあんた」
見兼ねた橋本が卯月を呼びに行く。
「か……隠れてないわ」
「明らかに隠れてるでしょ」
「だ、だって……こんな格好初めてで」
「私だって初めてだよ。それに、卯月ちゃんめちゃくちゃ似合ってるから大丈夫だって!」
「ほ、本当に?」
「うんうん!時崎くんも絶対褒めてくれるって」
「うーん、でも……」
それでも行きあぐねている卯月を、橋本は手を引っ張って無理やり教室に入らせる。
「お、おお……」
ようやく卯月のメイド服姿を拝むことができた。いつものクールで冷静沈着な卯月とは真逆で、顔を赤らめながら恥ずかしそうにスカートの裾を掴んでいる姿は何とも言えない可愛さを引き出していた。
「な、何よ」
「い、いや……」
「ほらほら旦那、しっかり褒めなよー」
「……恥ずかしいのか?」
「あ、当たり前でしょ!」
「そうか……。なんというか……これがギャップ萌えってやつか?……可愛いと思うぞ」
「……っ!」
俺の言葉で、卯月はより一層顔を赤くした。褒めた俺すら顔を赤くしてしまいそうだ。
「可愛い……そ、そうなんだ。私、可愛いんだ……」
「良かったですなー奥さん」
「な……!も、もうサイズチェックは済んだし着替えてくるわっ」
「えーもうちょっと着てようよー」
「椿さん、行くわよ」
「あ、ま、待ってよ卯月さん」
女子3人組は揃って更衣室に向かって行った。
危なかった。萌えで心臓が止まりかけた。メイド服を着ただけでこんなにも人の印象や見た目は変わるのか。あれは一種の兵器だな。
一旦深呼吸。
……さて、仕事に戻りますか。
飾り付けにチラシ作り、弾幕の設置にタイムスケジュールの創作、と仕事は山ずみだ。
さっきの萌えを力に頑張りますか。
「はあ……」
一通りの仕事を終え、俺は中庭のベンチで水を飲みながら休憩していた。
俺がゆっくりしているこの間も学園内は準備で騒がしい。
この騒がしさも文化祭という感じがしていいなと思っていると、向かいのベンチに橘が座っているのが見えた。大分疲労していたのかうたた寝をしている。
俺は話でもしようかと橘の隣に座ろうとするが、丁度橘は本格的な睡眠に入ってしまった。立ち上がってしまった手前戻るのも何かと思い、俺は橘が起きないようそっと隣に座る。
数分後、橘はゆっくりと目を覚ました。
「ん……んんっ……。あ、あれ、私寝ちゃってたのね」
橘は目を擦りながら現状を確認する。
「熟睡だったな」
「ひ、ひゃあ!?と、時崎くん!?」
「すまない、驚かせるつもりはなかったんだが」
「な、何でここに?」
「中庭で休憩していたら寝ている橘が見えてな。外に女子1人が無防備に寝ているのも危ないと思って」
「あ……そ、そうなんだ、ありがとう」
「かなりお疲れのようだな」
深く眠りに入っていたのが見て分かったため、かなり多忙な毎日を送っているのだろう。
「もうすぐ本番だから」
それでも無理していい理由にはならないと思うが。
「もっと俺たちを頼っていいんだぞ?」
「もう十分すぎるぐらいに助かってる。それに、私が進んで選んだ仕事だから」
「そうか」
さっきまでのウトウトしていた目が嘘のように今はキリッとしている。
「それじゃあ、私は仕事に戻るわ」
「そうだな、俺も戻るとしよう」
橘が立ち上がったのを見て俺も立ち上がると、橘が俺の顔をまじまじと見だした。
「何だ?」
「なんか……あなたって不思議な目をしてるのね」
「そうか?」
「上手く言えないんだけど……真っ直ぐなのにどこか濁ってる感じがする」
その橘の言葉を俺は知らないフリをした。
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