第25話 日常


 5月もそろそろ終わりを迎え期末テストの日が近づく中、俺はすっかり元通りになった日常を送っていた。


「そういえば、みんなの学年別ランキングって見てないよね?」


 学食でお昼ご飯を食べ終え、雑談に花を咲かせていたところで橋本が唐突にそう言った。

 確かにランキング戦が終わった後も臨海学校やら何やらでゆっくり見る時間がなかったな。


「ランキングがだいぶ前に公開されたし見てみるか」


 如月が自分の端末を取り出してランキング詳細をタップする。


「やっぱり上位はSクラス連中が総なめだなぁ」


 如月の言う通り上位はほとんどSクラスの生徒で埋め尽くされていた。

 しかし、


「見て、一つだけAクラスの人がいるよっ」


 橋本がそのことに気づいたようだ。

 たった一つ、10位のみAクラスの生徒がランクインしていた。それ以外は全てSクラス生徒だったため、やけにそれが目立っていた。


才上さいじょうりゅう。戦闘力S、サポート力A+、協調性A-。10位も納得の評価がされているようね」


 卯月が冷静に分析をする。

 ランキング順位は、戦闘力、サポート力、協調性がSからC-の10段階で評価され、その総合点で順位が確定する。端末では30位まで確認する事が出来る。


「み、見て!一ノ瀬さんが30位にいるよ」


 朧がいきなり端末を向けながら叫んだ。


「ほんとだ!すげぇな一ノ瀬さん!」


 朧と如月が驚いた通り、我らがCクラスの一ノ瀬がなんと30位にランクインしていた。

 戦闘力A+、サポート力A、協調性C、か。

 ランキング戦で小野寺が言っていた、Aクラスを圧倒するほどの力があるというのは本当みたいだな。

 ちなみに俺は120人中60位とど真ん中の順位だった。まあ順位なんてどうでもいいが。


「やべっ、もうすぐ午後の授業始まるじゃん!」


 気づけば授業5分前になっていた。

 全員で教室に急いだ。











「席につけ、授業を始める」


 5限の授業は社会だった。

 この学園では、国数英社理の教科を担任が担当する。

 5教科を担当できるなんてこの学園の教師はどれだけのハイスペックなのだろうか。まぁもしかしたら、それがこの学園の教師になれる条件だったりするかとしれないがな。


「早速だが基礎の確認をする。加藤、異能が発現したのは何年だ?」

「え!?……え、えーと、確か2000年……っす」


 唐突な質問に戸惑いながらも正解の回答を出す加藤。


「正解だ。異能は、悪魔神サタンによって突如現れたヴァイスへの対抗手段として神から授かったものだ。それから100年の月日が流れたが、未だ異能というものの詳細は解明されていない」


 確かに、普段から自分たちの生活や命のために使うことが当たり前になっているものだが、異能はまだ謎が多いものだ。世間では当たり前になっているものでも、異能に対してまだ恐怖心を抱いている人間は少なくない。


「研究者の間からはこんな説がある『実は異能は数千年前からあったのではないか』というものだ」


 それは聞いたことがある。しかし、その説は証拠や根拠不十分としてまったく当てにされていなかった説のはずだ。


「異能についてはこれからも研究者の間で一生議論されるものだろう。そこでだ、お前たちにはこの時間で異能について今一度考えてもらいたい。将来お前たちの仕事道具となるものだ、隅々まで追求して損は無いだろう」


 この時間をそれに使うのは分かったが、何故八重樫はその前にあんな説の話をしたのだろうか。


「グループを作って話し合ってもらう、メンバーは好きに決めてもらって構わない。決まった後、グループごとで発表をしてもらう」


 自由なグループ決めか、それはありがたい。

 俺たち料理当番メンバーは即座に集まる。


「ていうか、さっきの先生の話した説で思い出したんだけどさ」


 集まるなり唐突に如月がそう言った。


「中学の時にハマってた漫画がそういう設定だったんだよなあ」

「異能が昔から存在していたってやつか?」

「そうそう。で、本当の悪は味方だと思っていた神様だったってやつなんだけど」

「結構ありがちなやつじゃない?」


 確かに、敵が本当は良い奴で、味方だと思っていたやつが悪いやつという設定の作品は多くある。そんなに珍しい話ではないな。


「結末はどうだったんだ?」

「それがよー完結せずに連載休止になったんだよなあ。再開の見込みも分からずじまいでよ」

「……そうか」


 後でそこまでだけでも読んでみるか。


「あ、あの……」

「そろそろ……」


 椿と朧が困ったような声をあげる。

 見れば、卯月が不機嫌そうな顔をしていた。


「……話し合いを始めてもいいかしら?」

「「「……はい」」」


 少し無駄話をしすぎたようだ。

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