第18話 臨海学校1
あっという間に2週間が過ぎ、臨海学校当日がやってきた。
朝一に玄関前に集合し、宿舎行きのバスに乗り込む。
しかしその前に、八重樫から急遽とある連絡をされた。
「突然だがグループ分けを行う。方法はクジでも各々でもなく、こちらでランダムに決めさせてもらった。今からそのグループ分けの詳細を端末に送信する。確認してくれ」
グループ分け?どういう事だ?
俺たちは言われた通り端末を確認する。
グループは6人1組の5グループに分かれていた。そして不幸なことに、料理当番メンバーは綺麗に1人ずつ分かれていた。
マズイなこれは。日頃、当番の5人以外とはあまり会話をしていない俺にとってこれは大問題だった。
近くにいた朧と椿も困惑している顔をしていた。
「今回の臨海学校はそのグループで大半を過ごしてもらう。異論、反論は認めない。さあ、バスに乗れ」
まじかよ。
どうやら最低2日間はこのグループで過ごさなければいけないらしい。どこまで共同なのかは端末にも書かれていなかった。はて、どうしたものか。
「綺麗にバラバラになったわね」
変な偶然だといつの間にか隣にいた卯月が言った。
「ああ、非常に参った」
「そうね。私も知り合いがいないわ」
「僕もだよ……」
「私も……」
皆不安な声を吐露していく。
「何言ってんだよっ、友達増やすチャンスだろ?」
「そうだよっ、元気にいこー!」
俺たちの中でも陽の部類に入る如月と橋本は物怖じしていない様子だった。そのポジティブさは素直に感心する。
他4人は先に思いやられてため息をつくばかりだった。
「こればっかりは頑張るしかないな」
「そうね」
俺は腹を括ってバスに乗り込む。
なんとバスの席もグループごとに分かれているようだ。俺のグループは右側後方と1番いい位置なのだが、如何せん話す相手がいない。
俺が窓際の席に着くと、隣にグループメンバーの加藤が座ってきた。
「よっ!よろしくな」
「あ、ああ……よろしく頼む」
いきなりの軽い挨拶に少し驚いてしまった。
赤髪の短髪に少し乱れた身だしなみ、ヤンキーと言われても差し支えない男だった。だが決して圧や怖さといったものはなく、ただ単に明るく元気なやつといった印象だ。
しばらくしてクラスメイト全員が座り、バスが目的地に向かって出発した。
「なあ、自己紹介しねぇか?」
グループメンバーが座ったことを確認して、加藤がそう提案した。
約1か月前に俺らは1度したのだが、この機会にやり直すのも悪くないな。
周りのグループも同じことをしているようだった。
「じゃあまずは俺からだ!」
真っ先に声を上げたのは加藤
「次は私がしますね」
次は、このグループで唯一俺が話したことのある太田が名乗り上げた。太田の紹介はするまでもないだろう。
「じゃあ次は私ねっ」
と、続いたのは
「次は僕がしましょう」
丁寧な口調で始めたのは、
残ったのは俺含めあと2人。
「あんた先やる?」
「あ……いや、先どうぞ」
「あらそう」
残ったもう1人は
「最後は時崎くんだね」
太田が笑顔でそう言った。視線が俺に一気に集まる。
しまった。何だか最後のトリみたいで期待の目が寄せられている。……先にやっとけばよかった。
「着いたぞ。ここが今回の宿泊先だ」
約2時間バスに揺られ、ようやく宿泊先に到着した。
外観は至ってシンプルで、そこら辺にありそうな旅館のような雰囲気だった。
言い忘れていたが、今回はクラスごとで全く場所が異なるらしい。おそらく上のクラスはもっと高級な宿舎で、見晴らしのいい場所で臨海学校を過ごすのだろう。だからといって別に妬むとかは一切ないのだが。そういったところも上のクラスを目指す指標となるのだろう。
「言っておくが、部屋もグループごとで男女共同だ」
八重樫のその一言でクラスが少しザワつく。
それもそのはずだ。思春期真っ只中の高校生が男女同じ部屋なのは何かと問題がありそうだが。これも経験なのだろうか。
「おいおいまじかよ!やったな時崎っ」
「い、いや俺は別に……」
興奮した加藤が肩を組んできた。
「だからとって変な気は起こすなよ。もし起こしたら……それは言うまでもないな。清く正しい高校生活を期待している」
「う、うっす……」
八重樫の脅しに、加藤は分かりやすくげんなりしていた。
分かりやすいやつだな。
「……そう落ち込むな。女子と同じ部屋ってだけでもう十分だろ?」
「……それもそうだな!」
切り替え早。
「荷物を部屋に置いたらもう一度ここに集合しろ。早速訓練を始める」
波乱の臨海学校はまだ始まったばかりである。
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