第10話 ランキング戦1

 

 午前9時。1年生ランキング戦が始まった。

 運動会のように開会式などは行われず、それぞれチームのタイムラインが端末に送信され、それにしたがって進行していくようだ。

 俺たちの1回戦は9時半頃。如月たちは9時に1回戦目ということで、3人で観戦に行くこととなった。

 仮想空間装置トリガーを中心に円状に並べられている観戦席から適当に選び座っていく。

 どんな戦いをするのか今から楽しみだな。


「結構人いるね」

「そうだな」


 この9時に行われる試合は、ここに限らず別の施設でも多く行われている。しかし、ここの会場にはかなりの人が集まっていた。


「どうしてかしら?」

「……考えられるのは如月チームの誰かが有名人か、相手のチームの誰かが有名人かの2つだ」

「この試合で観衆に期待されている人物がいるってこと?」

「そういうことだ」


 如月たちか、もしくは相手か。

 相手ならかなりの強者と見ていい。厳しい戦いは避けられないだろう。


「あ!来たよ!」


 椿の言う通り、登場口から如月たちが登場した。

 如月は気合いに満ちた瞳を、橋本は観衆に手を振り、朧はちぢ籠って如月の後ろの背後霊と化していた。

 朧がかなり心配だな……。性格からしてもあまり戦いを得意とはしていないだろうし、この観客の多さは予想外だろう。


「相手チームも来たわよ」


 その反対の登場口からは如月たちの相手となるチームが現れていた。

 その瞬間、観衆がざわつきだした。

 なるほど、あっちが目当てか。


「なかなか手強そうね」

「そうだな。特に先頭の男は頭一つ抜けてるな」


 俺は1番先頭を歩く男に目を付けた。

 海外の血が混じっているのだろう。日本人離れした大柄に、はち切れんばかりの筋肉。背も2メートルはあるな。

 他の2人も相当な手練だ。不気味な長髪の女に優雅な金髪男子。

 端末で確認すると、Aクラスのチームで、筋肉男子は縦倉たてくら、長髪女子が浅野あさの、金髪男子は金澤かなざわ、という名前だった。


「初戦がAクラスか、かなり運が悪いな」

「大丈夫かな、如月君たち……」

「まあ、俺たちに出来ることは応援か祈ることだけだ」

「いつか戦う相手かもしれないし、しっかり見て情報を取っておきましょう」

「そ、そうだねっ」


 もうすぐ試合開始時間となるため、両チーム仮想空間装置トリガーに入り準備を始める。

 戦場となるマップはランダムで『森林』となった。

 仮想空間装置は実践でのあらゆる事態を想定し、様々なマップが存在する。森林はもちろん、住宅街、街中、浜辺、学校などがあり、天候も自由に変えることが出来るが、今回の試合は変わりのない『晴れ』のようだ。

 仮想空間装置の機械音と共に、両チームが仮想空間に転送される。

 その後の様子は施設上空にある巨大なモニターに映し出されていた。

 腕を組んで待つ如月に、腰に手を当て余裕の表情を見せる橋本、酷く脅えている朧がはっきりと見える。

 相手チームもやる気満々で、朧以外は臨戦態勢のようだ。

 画面上でカウントダウンが始まる。

 5……4……3……2……1。


 ———ゼロ。


 第1試合が始まった。

 まず最初に動いたのはAクラスチームの縦倉だ。全速力で木々を駆け抜けていく。異能なのか、それとも持ち前の身体能力なのか、とんでもない速さで走っている。

 しかし、方向は如月たちとは全くの別方向だった。当てずっぽうで探しているのかもしれない。


「如月君たちは動く気配がないわね」

「作戦か何かの話し合いをしているようだな」


 如月たちは初期位置から1歩も動いていなかった。


「どうするのかしら?」

「相手の能力が分からない以上、作戦の立てようもないはずだが」


 そうしている間も相手チームは強引な捜索を続けていた。

 マップの大きさは無限ではないため、見つかるのは時間の問題だなと思っていた矢先、金澤が如月たちを発見した。


「ようやく見つけた」


 すると、金澤は何処からかフルートを取り出し、演奏し始めた。

 異能の類だと想定し身構える如月たちだが、その音色が如月たちに害を与える気配がまったくしなかった。

 しかし、演奏してからものの数秒、縦倉と浅野が合流した。


「なるほど」

「音色を操る異能かしら?」

「おそらくな。演奏で敵がここにいるって伝えたんだ」

「ってことはあの人はサポート型?」

「まあそうなるな」


 対峙してしまったが、いつかは戦わなければいけない。むしろ相手の能力が1人知れただけでも大きなアドバンテージだろう。


「時間が惜しい。早くケリをつけるぞ」

「分かりました」


 落ち着く暇もなく縦倉と浅野が一斉に飛び出す。


「いいか?さっきの作戦通りに行くぞ!」

「で、でも、あまりに如月君の負担が大きよっ」

「俺の事は気にしなくていいんだよ、朧!お前は相手の動きを見ることに専念しろ」

「わ、分かったっ」

「橋本はその援護だ!」

「あいえいさー!」


 如月も同じくして飛び出す。


「正面から真っ向勝負!?」


 卯月が驚いたような声を上げる。

 それもそうだ。如月と縦倉が1体1でやり合ったら如月に勝ち目はほぼ無いと言っていい。実力の差は一目瞭然だからだ。


「おらぁっ!」


 縦倉の強烈な右ストレート。


「くっ……!」


 それを如月は正面からガードした。

 しかし、完全にはガードし切れず、如月は後ろの大木まで吹っ飛ばされてしまう。


「浅野、金澤、こいつは俺がやる。お前らはそっちをやれっ」

「はい」


 完全に2つに別れてしまった。これではなお如月は分が悪い。


「金澤君、強化を」

「あいよ」


 金澤がまたもフルートを奏でる。

 強化……か。

 かなり厄介なサポート役だな。


「いきますっ、捕縛!」


 今度は浅野が橋本に飛びかかる。

 それと同時に、浅野の長髪がさらに伸び橋本に襲いかかる。


「な、何これっ」


 橋本は一瞬臆するが、すぐさま右の平手打ちで空気を押し出し、『波動』を作ってガードした。


「なるほど。面白い、そして強い能力ですね」

「あなたもね」


 両者が睨み合う中、朧は橋本の後ろから1歩も動いていなかった。

 しかし、それは怯えているわけでは無さそうだ。

 日頃隠れていた右眼をさらけ出し、瞬き1つせず縦倉の戦闘を凝視していた。

 あんな朧は初めて見る。画面越しでも分かるほどの集中力だ。


「その少年、何かありそうですね。さっきから瞬きもしてない」

「さあ、どうだろうね」

「その子がキーマンとみた。今すぐ捕まえてあげますっ」


 浅野の髪が伸び、朧を捕えようとするが、またもそれを橋本がガードする。


「そうはさせないよ」

「……まるで騎士ですね」


 ランキング戦は早くも白熱した雰囲気をみせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る