第9話 作戦会議
「確認しておきたいんだが」
「何かしら?」
「このチームのリーダーは卯月、てことでいいんだよな?」
リーダー。それはチームに必要不可欠なものだ。統率が取れていないとせっかく練った作戦も意味がなくなる。チームを導く責任感と、的確な指示をすることのできるリーダーシップがなければ不可能な仕事だ。
それを踏まえた上でこの中だと一番は卯月が適正だな。
「まあそうね。今のところは私でいいわ」
「今のところ?」
「ええ、基本的な指示は私がやるわ。けど、いざとなった時は時崎君、あなたが指示をするのよ」
「何故俺が?」
「なんとなくよ」
「おい」
「別に難しい事じゃないでしょ?副リーダーみたいなものよ。リーダーが不在の時はあなたがやるの」
「独裁者だな……。椿の意見はいいのか?」
「わ、私は全然問題ないよ!?戦略とか作戦とかよく分かんないから……2人に任せるよ」
「だそうよ」
「……了解した」
卯月の指示を丸呑みして楽する作戦が台無しだ。
だが、リーダーが不在の時に俺が代役としてリーダーになるだけで、大半は卯月が担ってくれる方針だ。そもそもリーダーが不在になることはそうそう無いから俺がリーダーの仕事をすることはほぼないだろう。
つまり、結果オーライ。卯月に全部任せて俺は楽しよう。
「それじゃあ作戦だけど─────」
卯月の作戦は至ってシンプルなものだった。
というよりそのままの戦略だった。
俺が『加速』で敵の注意を払いながら近距離で戦い、卯月がその援護、さらにその2人を援護するように椿が後ろで待機、といった感じだ。まるでマニュアルかのような作戦。そして俺の負担が莫大なことは確定なようだ。
俺の能力はそう大層なものではないと言ったのだが聞いてはくれなかった。
「で、私の指示はこれだけ。後は試合中に時崎君の指示を待ちましょう」
「ちょっと待て、丸投げしたな?」
「頼りにしてるわ、副リーダーさん」
「頑張ってね、時崎君!」
「……俺は何でもできる超人じゃないぞ」
このチームは本当にこれで大丈夫なのだろうか。というか、俺は代役じゃないのかよ。
そんな心配などしても時間の無駄か。
……順位は真ん中ぐらいでいいか。
嫌々ながらも俺は適当にランキング戦の方針を決め、ここでの作戦会議は解散となった。
それから数週間の月日が経ち、遂にランキング戦当日を迎えた。
皆いつもと変わらない朝を過ごし、それぞれの志を持ちながら会場へ向かう。
会場である訓練施設には既に何人もの生徒で溢れ返っていた。ネクタイの色を見るに観戦目的の上級生も多くいるのだろう。
1年生の顔には、早くも緊張の色が見え始める。
そういえば、現役のプロソルジャーたちも今日観戦に来るんだったな。
「いよいよね」
「そうだな」
右隣の卯月も、隠しているが表情から緊張しているのが分かる。
「こ、恐いなあ。大丈夫かなあ……」
そして、左隣の椿もまた緊張で倒れそうだった。不安の声を漏らす度に俺の裾を掴んでは離し、儚げな瞳を向けてくる。
「問題ない。適度な緊張は必要だからな」
「そうなの?」
「ああ。人間はリラックスしすぎると本領を発揮することが出来ないんだ」
「あら、それは残念」
「卯月もそれくらいの緊張なら大丈夫だぞ」
「う、うるさいわねっ!」
隠していた事実を指摘され、卯月は頬を赤らめながら反発した。
その光景を見て、椿は楽しそうに微笑む。
リラックスしすぎも良くないが、緊張しすぎも良くないからな。
とりあえず、気長に頑張りますか。
───────いよいよランキング戦が始まる。
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