第7話 隠し事

 学園での最初の1日が終わり、学園での最初の朝が始まった。

 1階の食堂でそれぞれ朝ご飯を済まし、学園の準備をしてから寮を出発する。もちろん俺は、料理当番メンバーと共に登校した。

 学園の玄関付近に来ると、先輩である2年生や3年生の姿が多く見られた。

 この学園はネクタイによって学年が分かるようになっており、1年生が青、2年生が赤、3年生が緑となっている。


「人めっちゃいる!先輩達の姿初めて見たけど、やっぱ俺たちとはオーラが違うな」


 学年やクラスは違えど、同じソルジャーに対する希望を抱く同志達の姿に如月は興奮が抑えられないようだ。


「オーラってなに?」

「橋本分かんねぇのか?あの佇まい、キリッとした表情、凛とした立ち姿、なんかかっこいいよなあ」


 かっこいいかどうかは分からないが、確かに先輩達の中にはかなり異能を高めている者が多いようだ。

 頑丈にしたり、滑らかにしたり、柔らかくしたり、人それぞれだな。


「それより、早く行かないと遅れるわよ」

「え?まだ30分もあるけど……」

「早く本が読みたいだけだろ、卯月」

「あらバレた?時崎君は鋭いわね」

「いや分かるだろ……」

「よーし!誰が1番早いか競走だ!」

「よーいドン!」

「あ!ずるいぞ橋本!」

「ぼ、僕だって男だから負けないぞー!」

「子供ね」

「あ、あはは……」


 子供っぽく争う3人に、流石の椿も作り笑いを浮かべた。







 学園の授業は、思っていたよりも普通なものだった。

 この世界や異能の過去を学ぶ『歴史』の授業、海外に行っても問題ないよう『英語』の授業、ソルジャーの事務的な仕事も行えるよう『数学』の授業、どれも普通の高校のような授業内容だった。

 しかし、次の授業だけは異なる。


「ソルジャー訓練の授業、か」


 この学園のみに存在する特別な授業。

 異能の鍛錬を目的とし、ソルジャーになるための基礎的なものを学ぶ授業だ。きっとみんなこの授業を待ち望んでいただろう。

 休み時間を過ごすクラスメイトの面々は、まだかまだかと待ちわびていた様子だった。


「席につけ」


 時間のチャイムが鳴ったところで、担任の八重樫が教室に入ってきた。

 その冷たい口調は相変わらずだな。


「これからソルジャー訓練の授業を始める。といっても、今日は実践的な訓練ではなく、1種の告知のようなものをする」


 告知?ソルジャー訓練に関することか?


「入学して早々だが、4月末に個人の技能を審査するランキング戦というものが行われる。これは、第1線で活躍しているトップソルジャー達も集って観戦するものだ。将来のためのアピールの場ともなるだろう。詳細は端末に掲載されている。各々確認するように」


 ランキング戦か……。互いに競走し、切磋琢磨を目的としたこの学園に相応しいイベントだな。

 端末を確認すると、ランキング戦についてのルールや趣旨が詳細に掲載されていた。

 まず、ランキング戦は3人1組のチームに分かれて行われる。近距離戦闘型、遠距離戦闘型、サポート型の異能を持つ生徒が1人ずつで構成される。戦闘力、サポート力、協調性が個人別で点数化され、その総合点で学年別にランキングされる、とのことだ。


「このチームメンバーはクラス内のみでの編成ですか?」

「そうだ。しかし、2年生以降は他のクラスメイトともチームを組むことが出来る」


 小野寺の質問に八重樫は丁寧に答えた。


「今日のソルジャー訓練の授業はランキング戦のチームメンバーを決めるための時間だ。残りの時間はクラスで好きに使って構わない。しかし、この授業内でメンバーを決めきるように。決まったら代表者が紙にでも書いて明日中に私に渡してくれ。では、後は自由時間だ。好きに使ってくれ」


 そう言い終わると、八重樫は教室を出て行った。

 徐々にざわつき始める教室。

 早くチームを組まなければ孤独と思われてしまうことを恐れているのか、欲しい人材がいて焦っているのか。どちらにせよ、まずは整理しなければならない。ランキング戦というものを。

 いつも通り小野寺が教卓の前に立ち、皆を落ち着かせながら話し合いが始まった。

 俺は如月に呼ばれ、料理当番のメンバーと集まって話を聞いていた。


「4月末に行われるランキング戦は将来のためのアピールはもちろんの事、恐らくクラス制度にも大きく影響されると思うんだ」


 そう、そこが重要だ。八重樫は言及しなかったが、このランキング戦はクラス変動に影響する重要な行事だろう。


「このランキング戦を有意義にする為にも、みんなで協力し合った方が良いと思う」

「そうだね。ルールにも協調性は点数項目の1つだし、チームだけでなくクラスの協調性も中には含まれてるかもしれないしね」


 小野寺の意見に太田が賛同する。

 それと同時に、この2人が言うならとクラス内も小野寺の意見に賛成の雰囲気だった。


「でも、みんなの意見も尊重したい。何か他に意見のある人はいるかな?」


 当然手が挙がる様子はない。この空気や雰囲気を壊す強者はこのクラスにはいないようだ。


「1つだけいいか?」


 すると、俺の隣にいた如月が手を挙げた。


「もちろんいいよ。如月君」

「俺も小野寺の意見に賛成だが、とりあえず個人個人好きなようにチームを組んでもいいか?」

「そうだね、とりあえず各々でチームを決めようか。話し合いはそれからだね」


 その掛け声の元、クラスメイトが一斉に動き出す。チームを組むよう声を掛けたり、誰かいないか探したり。

 俺は料理当番メンバーで集まっていたため、そんな苦労は強いられなかった。これも如月のお陰だ。

 メンバーは俺と卯月と椿の3人で1チーム、如月と橋本と朧の3人でもう1チームとなった。さらに幸いなことに、異能も近距離、遠距離、サポートが綺麗に1人ずついた事だった。これならもうこのチームでほぼ決定だろう。

 1クラス30人で男女は15人ずつ、異能も近距離戦闘型、遠距離戦闘型、サポート型の3つがそれぞれ10人ずつと学園側も計算の元、このランキング戦は行われる。ハブられるといった事は最初からなかったようだ。


「それにしても、何で生徒をランキング付けなんてするんだろう?」


 ふと、椿がそんな疑問を口にした。


「推測だが、生徒の競争心を煽っているのだろう。クラス制度と同じで、順位の高い者にはそれなりの報酬があるのだろうが、報酬というより互いに高め合うことを重視していると考えられる。この学園は互いに競走し、切磋琢磨を目的としているからな」

「そっか。でも……1番下とかになったらどうしよう」

「別に1番下だからといって弱いわけではない。この学園のレベルが高いからと思った方が良いと思うぞ。それに、伸び代があると捉えることもできる」

「う、うんっ。ありがとう時崎君っ」

「ああ……そんな大層なことは言ってないが」


 椿はネガティブになってしまう癖が付いているようだな。慎重なのはいい事だが、ソルジャーにその癖は邪魔になるかもしれないな。

 椿のためにもランキング戦はビリは避けるか。


「それより、私たちの異能を確認し合わない?今のところ系統しか分かっていないわ」

「そうだな、友人に隠し事はなしだ」


 隠し事……か。

 人間誰しも人には言えない秘密がある。どんなに信用できる友人でも、最も尊敬している人間にも言えない、そんな秘密を抱える人間はそこら中にいる。俺もその1人だ。

 俺たちは自分の異能についてを包み隠さず話し合った。俺は例外だ。

 如月は『逆境』近距離戦闘型、卯月は『操作』遠距離戦闘型、椿は『幸運』サポート型、橋本は『波動』遠距離戦闘型、朧が『分析』サポート型、そして俺が……、


「俺は『加速』近距離戦闘型だ」


 またも俺は隠し事をする。

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