第4話 Cクラス
学園長との無駄話を終え、クラス分けが貼られている学園の玄関に向かう。既に自分の教室に移動している者や、友人と一緒に同じクラスになれた喜びを噛み締めている者も多くいた。
全然クラス分け発表されてるじゃねぇか嘘ついたなあの学園長。
「えーと、俺は……あった」
数多く連なる名前の中からようやく自分の名前を見つけた。
この学園では、SABCの1クラス30人の4つのクラスに分けられる。
「Cクラスか」
1通りクラスメイトの名前を見渡してみるが、もちろん知っている人間などいない。
これからの行先が不安になるが、とりあえず教室に向かった。遅れた分を取り返すためにも、これから多く試練が俺を待っているだろう。
教室に着くと、中は既に友達作りで賑わっていた。というか、ほぼグループ作りが完了していた。
なんという事だ。やはり学園長に時間を割いたのは間違いだったか。完全に出遅れてしまった。
俺の席は窓際の1番後ろとかなりラッキーな席だったが、友達作りのスタートダッシュはアンラッキーな形となってしまった。
これからどう挽回しようかと考えていた矢先、教卓の前に立った1人の男子が皆に声をかけ始めた。
「みんな、ちょっといいかな?」
その掛け声で、俺を含め教室内の全員が一斉に教卓に目を向ける。
声の主は、イケメンという言葉が1番に相応しいほどに爽やかすぎる人だった。妬ましいほど目鼻立ちは整っており、身体もモデルのようなすらっとした雰囲気がありつつも、かなり筋肉質なのが窺える体型だった。
「クラスメイト全員が集まったことだし、自己紹介とかしたいんだけど、どうかな?お互いに最低限名前ぐらいは知っておきたいと思うんだ」
ナイスイケメン。これは遅れた分を取り戻せるチャンスだ。
「イイじゃん、それナイスアイデア!」
「私も賛成ー」
「俺もー」
イケメンの意見にクラスの面々も賛同の声が上がる。
「ありがとう。じゃあ言い出しっぺの僕から─────
お手本通りの自己紹介。表情や言葉遣い、視線の向け方が上手い。そして率先して自己紹介を提案してくるリーダーシップ、男女共に人気が出そうだな。
「次は私いいかな?」
小野寺の自己紹介が終わった直後、俺の隣の席の子が自ら席を立ってそう言った。
黒髪のショートボブに桃色の紐のリボンを付けた、小動物のような癒し系女子という印象の女子だ。
「もちろん。あ、それと、自分の異能は言っても言わなくてもどちらでも大丈夫だよ。自分の異能を言いふらしたくないって人もいるだろうしね」
それはありがたい配慮だ。
「うん、分かった。じゃあ改めまして─────
彼女は礼儀正しく深くお辞儀をした。
イケメンに続いて今度は美少女が現れたことでクラスのテンションは男女共にうなぎのぼりになった。早くもこのクラスで良かったと感慨深くなっている者もいた。
「じゃあ次はアタシー」
その後も自己紹介は続き、何かとテンションの高いギャルや如何にも校則などに厳しそうな高圧女子、女の子みたいな男の子など、多種多様なキャラのクラスメイトにこれからの学園生活に俺は不安と高揚が隠せないでいた。
「最後は────君だね」
小野寺の言葉でクラスの視線は一斉に俺に向けられる。
遂に……遂に来てしまったか。俺のターンが。1発爆笑を狙って人気者になるか、余計なことはせず普通にいくか。
これからの学園生活やその人のキャラクター、クラスの立ち位置が大きく決まるこの自己紹介イベント。失敗は死を意味する。
ようやく自己紹介の方針が決まったところで、俺はゆっくりと席を立ち、全員に顔が見える形で始めた。
み、みんなの視線が多いな……。……あれ、何言おうとしてたんだっけ。
「え、えーと──────
《しぐれ》です。趣味は……アニメ観賞、ですかね。異能は……そんな大層なものではないので言いませんが、えー……少しでもクラスのためになればと思っています。よろしくお願いします」
ぎこちなく何の面白みも無い自己紹介。先程決めた方針は一切現れず、明らかに絡んだら面白くない人間だと思われただろう。
ぱらぱらと乾いた拍手が鳴る。
俺の学園生活早くも終了のお知らせ。
ていうか、そもそも自己紹介なんてしたことなかったわ。何をいけると思っていたのか。
「よろしくね、時崎君。一緒に頑張ろう」
俺を気遣っての事なのか、先陣を切って小野寺が口火を切った。なんて優しい男なんだ。好きになってしまいそうだ。
「これで全員の自己紹介は終わったね。お互いに助け合いながら、楽しい学園生活を送っていこう」
クラスのまとめも小野寺が率先してやった。これはもうクラスのリーダー的存在は小野寺で満場一致だろう。
「あの……時崎君」
一先ず自分の自己紹介が終わり、安堵しながら小野寺の言葉を聞いていると、突然隣の席の太田が何か探るような目で俺に話しかけてきた。
「……何だ?」
「あの、気のせいだったら申し訳ないんだけど、私たち……どこかで会ったことない?」
「え?いや……」
急いで過去の記憶を探るが、太田との面識は一切ない。こんな可愛い女の子と会っていたら忘れられるわけがないため、過去に会ったことはないことになる。
「ないと思うが……」
「そ、そっか……ごめんね。急に変なこと聞いちゃって。隣の席同士、これからよろしくねっ」
「あ、ああ……よろしく」
クラスメイトの女子との初めての会話。勘違いから始まってしまったが、まあいいか。太田もルックスからクラスの人気者になるのは目に見えてるし、仲良くなって損はないだろう。自己紹介は失敗しても、これから巻き返せるチャンスはいくらでもあるはずだ。
それより、さっきのは何だったのだろうか。俺みたいな平凡な顔は世の中には5万といるだろうし、それと間違えたのかもしれない。何て悲しい現実なんだ。
そんなことを考えていると、突然教室のドアが開いた。
「お前たち、席につけ」
黒のスーツをきっちりと身につけた短髪の女性が、入ってくるなり強い口調でそう言った。
それに少し戸惑いながらも、クラスの面々は席についていく。
「Cクラスの担任となった
まじかよ。何だか堅苦しい学園ルールだな。
「まずはこの学園について理解してもらおう。これからある物を配る」
すると、大きめのダンボールを持った作業員が教室に入ってきた。
その中からスマホの様なもの取り出し、1人1台ずつ配っていく。
「その端末を指で触れると資料が出てくる、まずはそれに目を通せ」
端末からは、いくつかの項目に分けられたこの学園の詳細が出てきた。
「初めに、この学園は全寮制だ。1クラス1棟の寮で共に生活してもらう。もちろん、自炊や洗濯、掃除などもお前たちで話し合って決めてもらって構わない」
一緒に住むのか。それも1クラス1棟。かなり金がかかっているんだな。
「また、学園の敷地内からは特別な理由がない限り出ることは許されない。だが安心しろ。この学園の敷地内にはあらゆる施設が備わっており、東に娯楽施設、西に訓練施設、南に寮、北に学園となっている。東の娯楽施設で生活に必要な物は全て揃えられるはずだ」
やはり国が運営しているだけあって施設は巨大規模だ。ソルジャーという職業が如何にこの世界で大事か分かる。
「次に、クラス制度についてだ。この学園では互いに競走し、切磋琢磨することを目的とした特殊なクラス制度が存在する」
クラス制度?もしかして、SABCのクラスの振り分けが関係しているのか?
「Sクラスのみ学食無料や娯楽施設での金銭消費半額、また、Sクラスで卒業した場合はプロ入りが確定事項になるなど、様々な恩恵を受けることが出来る」
なるほど。つまり、Sクラスを目指せということか。1番下の俺たちCクラスには遠い道のりになりそうだ。
「クラスの変動は学園の上の者が判断するため何も言えないが、努力を惜しんで行ける道ではないことは確かだ」
もしあの学園長が決めているとなれば、勘と遊び心で決めているかもしれないな。
「大まなか学園の説明は以上だ」
しかし、Sクラスのみがプロ入り確定事項か。切磋琢磨が目的とはいえ、他の人材が勿体ないとは思わないのだろうか。
「先生。質問いいでしょうか?」
小野寺が手を挙げた。
「いいぞ」
「Sクラスのみがプロ入り確定事項とおっしゃいましたが、それはつまり、他のクラスはプロ入りが絶対に不可能ということなのでしょうか?」
いい質問だ小野寺。
もし本当にそうだとしたら、かなり狭き門だぞ。
「いや、そんなことはない。Sクラスのみが何の試験も無しにプロになることができるという意味で、他のクラスのにもソルジャー試験をクリアすればプロになることは可能だ」
その言葉を聞いて、クラスの何名かは安堵の息を吐いた。
「ありがとうございます。僕からは以上です」
「そうか。他に質問のある者はいるか?…………いないのなら、今度は訓練施設の説明に移る。場所を移動する、廊下に並べ」
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