第3話 傲慢

 学園行事は楽しいものが多いが、入学式などの式の行事は退屈というイメージしかない。

 既に式が始まって10分。今は学園の生徒会長が新入生に向けて何か話をしているようだが、内容はあまり入ってこなかった。この学園に入学した誇りやどうたらを大切に、ということだけは覚えている。

 寝ている生徒や私語をしている生徒も少なからずおり、本当にソルジャーにふさわしい人材が選考されたのかと疑いたくなる程だ。俺を含めて。

 退屈だった入学式が終わり、今から自分の教室へ移動という時に、ポケットにしまっておいた携帯が鳴った。

 マナーモードにし忘れてしまったことに少し焦ったが、内容を確認した途端そんなことも忘れてしまった。

 これからの用事に思わずため息が出る。




 俺はメールの内容を元に、差出人から指定された目的地に到着した。

 学園長室と書かれた木製の両開きの扉を前に俺はもう一度ため息をつき、ノックを3回してからゆっくりと扉を開けた。


「遅かったね。待ちくたびれたよ」

「これでも早く来た方ですよ」


 広々とした机に、無駄にでかい椅子に居座っている男がいた。

 もちろんこの学園の学園長である。

 白のスーツに白の中折れ帽子を身に付け、作り笑いを奇妙に浮かべている。年齢は不明だが30代前半といったところか。


「どうだい、この学園の雰囲気は?」

「まだ来て2時間ちょっとしか経ってませんよ」

「第一印象を聞いているんだ」

「そうですね……自由な学園だなと思いました」

「気に入ってもらえたかな?」

「いえ、これからの日本が不安になりました」

「ハハッ。確かに入学式の生徒の態度を見れば無理もないだろう。しかし、それでも彼らは私によって選ばれた存在だ。彼らはまだ開花する前の蕾にすぎない。この学園はそのための水であり、肥料であり、光なのだ」

「そうですか」


 何か頭良さげな言葉を並べていたが、彼の頭上を知ってか俺の心に響くことはなかった。


「どれだけ不良品な生徒であろうと、この学園で必ず生まれ変わると私は信じているんだ」

「つまり直感で選んだと?」

「まあそういうことだ」

「そうですか」


 正直今の日本がこれからどうなろうと、この学園長がどういう理由で選考をしようと俺には関係のない話だ。


「それより、俺をここに呼んだ用件は何ですか?」

「ああ、それなら今済んだよ」

「え……?」

「君にこの学園の印象を聞きたかったんだ」

「入学式後の友達作りの時間を割いてまで来た意味がないですね」

「まあ、そう言うな。おそらくまだクラス分けは発表されてないと思うから、今からでも間に合うさ」


 そんなことで呼び出された俺の身にもなれ。メールか何かでよかったんじゃないか?

 とにかく、この人と話すのはもう御免だ。早々に退散しよう。


「なら、用は済んだようなのでこれでおいとまさせていただきます」

「ああ。楽しい学園生活を送りたまえ」


 学園長は再び作り笑いを浮かべながらそう言った。

 何度見ても見慣れない。人を侮るようなその瞳。全てを見透かしたような表情。異様な空気感を放つ立ち姿。

 初めて見た時も……いや、この話は後にしよう。


「やはり……あなたは『傲慢』な人だ」

「そうかい?私が『傲慢』なら……君は『強欲』だね」


 その言葉を最後に、俺は学園長室を後にした。


「これから楽しみだ」


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