第40話大将戦
ウラヌス学園で大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはサラとエルザの三人で挑み、決勝戦まで進む。
だがエルザとサラは、謎の異変に襲われて、敗退。
二人の想いを受けて、オレは大将戦に一人で挑むのであった。
『それではこれより大将戦を行います!』
司会者のアナウンスが響き渡る。
もはや勝負は決まっていた。
だが修練の場でもある選抜戦は、最後の一試合まで行うのだ。
「おい、審判。オレは“今大会の大将の権利”を行使して“勝ち抜き戦”への移行を申請する」
審判団に向かって宣言する。
選抜戦には特殊なルールがあった。
基本的には三対三の団体戦。
だが最後の大将だけは自己申告で、勝ち抜き戦に移行をできるのだ。
「おや、本気ですか? 今から三連勝するつもりですか、あなたは?」
審判長の司祭長は、呆れた顔で訊ねてきた。
何しろハリト団は、今のところ二連敗中。
つまり勝利を勝ち取るためには、大将であるオレが三人抜きをする必要があるのだ。
「ああ、本気さ。それに三人抜き、だと時間がかかる。だから“三対一の変則マッチ”でいいぞ。特に問題はないだろう?」
「ほほう……正気ですか、あなたは?」
「ああ、最後くらいは、オレに花を持たせてくれ」
「なるほど、そういうことですか……面白い余興になりそうですな、これも」
オレの提案に、司祭長はいやらしい笑みを浮かべる。
よし、引っかかってくれた。
(これで……策は通った)
今のオレの頭の中は、怖いくらいに冷静。
大事な娘であるサラと、仲間であるエルザを、卑怯な手で傷つけられた。
だからこそ冷静沈着に、司祭長を騙してやったのだ。
『えーと、これより大将戦を行います! なおハリト団側からの提案で、三対一の変則マッチとなります!』
神官長からの報告を受け、アナウンスが響き渡る。
大将戦に特殊ルールが適用されたと。
直後、会場は今までないくらいにザワつく。
「おい、負けている方が、勝ち抜き戦を申請だとよ⁉」
「本当か? 二連敗して自棄になったのだな……」
「しかも三対一の変則マッチとは、最後に面白い余興になりましたな……」
観客席の誰もが、オレの無謀さを冷笑していた。
今までウラヌス学園の選抜戦で、大将が三人抜きした記録はない。
しかも三対一は誰が見ても、圧倒的な不利な条件。
オレが自殺行為の玉砕だと思っているのだ。
そんな中、全く違う反応の一団もある。
「ハリト……頼むぜ……」
「オレたちの仇を討ってくれ……」
「ウラヌス学園の代表として、奇跡を起こしてくれ……」
それはクラスの連中。
天に祈るように、オレに声援を送っていた。
クラスメイトも最後の奇跡を信じているのだ。
『それでは決勝戦を行います! 教団学園チームの三名も準備を』
そんな独特の雰囲気の中。
司会に促されて、相手の三人が開始線に立つ。
その顔にはゲスな笑みが浮かんでいる。
「へっへへ……こいつ、さっきの金髪の女よりも、弱そうなチビだな?」
「ああ、そうだな。まぁ、あの女たちも大したことなかったがな。くっくっく……」
「ウラヌス学園など、所詮は三流だったという証拠だな……」
「おい、こいつは直ぐに場外にしないで、半殺しにして遊ぶぞ、お前たち」
「ああ、そうだな」
三人とも完全に、オレのことを舐めている。
圧倒的に他者を見下した、最悪の性格の奴らなのだ。
「…………」
そんな三人と対峙しても、オレは口を開くことしなかった。
何故なら今は、サラとエルザの剣を握りしめる、大事な時間。
二人の想いを心で感じている最中。
下種な連中に、開く口など持ち合わせていないのだ。
『それでは大将戦、はじめ!』
審判の声は響き渡る。
会場がザワつく中、大将戦が幕を上げた。
「オレは右からいくぜ!」
「ならオレ様は、左だな!」
開幕と同時、相手の二人が動く。
左右からオレを挟撃するために、一気に回り込んできたのだ。
「いくぜぇええ! 剣闘技……【骨砕き】!」
「おらぁああ! 剣闘技……【大蛇潰し】!」
二人はいきなり剣闘技を発動。
先ほどエルザとサラを吹き飛ばした大技だ。
(サラ……エルザ……)
そんな瞬間でも、オレは冷静だった。
右手にあるサラの細身剣。
左手に握るエルザの片手剣。
二人の剣の感触を確かめていた。
(こんなにも、使い込んで、いたのか……)
剣の柄布は、血と汗がにじみ、ボロボロだった。
今まで二人の努力で、ここまで使い込まれていたのだ。
「死ねぇ! 無能生がぁ!」
「潰れろ、雑魚がぁあ!」
そんな時、勝ちを確信している相手の顔が、左右から目の前に迫って来た。
そして巨大な刃先も、オレの首元に迫る。
(ふう……二人の、この力……借りるぞ)
時は満ちた。
二人の想いを、今こそ剣に宿す。
「いくぞ……剣闘技……【三段斬り】! 剣闘技……【風車斬り】!」
左右の二対の剣。
オレは別々の剣闘技を同時に発動。
これはエルザとサラの得意技。
二刀流の応用で、全く違う型の剣闘技を、同時に発動させたのだ。
グヤァアア!
ガザァーン!
二人の想いが籠った斬撃が、相手の二人に直撃。
「なっ⁉ ぐべへへへへへ!」
「あがっ⁉ グガぁあああ!」
無様な顔で、相手は同時に吹き飛んでいく。
吹き飛んでいく時、二人とも目を見開いていた。
自分が攻撃を受けたことすら、把握していなかったのだ。
「ぐヴぇっ!」
「うがっ!」
二人とも蛙が潰れたように、場外に落ちていく。
全身をピクピクさせながら、白目を向いて口から泡を吹きだしていた。
かなり本気の一撃を喰らわせてやった。
死んではいないが、数日は動けないであろう。
回復魔法を使っても、しばらく後遺症は残るかもしれない。
さて、残るは一人だ。
「なっ……なっ……何が……起きたんだ⁉」
残る一人は目を見開き、絶句していた。
オレの動きが、まったく見えなかったのであろう。
何が起きたか、まだ理解できずにいるのだ。
「お前には一生理解できないだろうな。サラとエルザが、この剣に込めた想いは……」
「な、なんだと⁉」
「この剣への想いは……あの二人は、お前たちの何倍も強い。病室に行っても、覚えておけ」
「な、何を分けのことを⁉ くそっ! 死ねぇ! 剣闘技……【烈風斬り】!」
最後の一人は突進しながら、剣闘技を発動。
無防備なオレの頭に、斬りかかってきた。
「来世では精進するんだな……剣闘技……【燕返し】!」
オレは剣闘技を発動。
カウンター攻撃で相手に食らわす。
「うがらぁああ!」
相手の大将は、声にならない絶叫で吹き飛んでいく。
そのまま場外でグシャリと落下。
仲間と同じように全身をピクピクさせながら、白目を向いて口から泡を吹きだしていた。
「おい、審判長。終わったぞ」
「なっ……」
唖然としている神官に、声をかける。
こいつも何が起きたか、理解できていないのだ。
一瞬で三人とも場外負けだと、教えてやる。
「な……なっ……なんだと⁉」
司祭長は口をパクパクさせている。
自分が不正をして勝たせていた生徒が、一瞬で場外負け。
何が起きか、理解が追いつかないのであろう。
「いや……なぜ……なぜ……絶対に我々は、負けないはずなのに……」
まだ現実を直視できないのであろう。
司祭長は顔面蒼白のまま、棒立ちになっていた。
「このままで済むと思うなよ。不正は必ず暴いてやるからな」
小声で神官長を脅す。
今のオレは最高に頭にきていた。
どんな手段を使っても、今回の不正を明るみに出すつもりでいたのだ。
「おい、何が起きたんだ……」
「特待生が負けただと……?」
「でも、どうやって……?」
「この試合、どうなるんだ?」
会場がザワつき始めてきた。
観客たちは誰も、オレの攻撃が見えていなかっただろう。
だから何が起きたか。理解できていないのだ。
審判である神官長に、観客席の全ての視線が集まる。
「ひっ! わ、私は悪くない! 私は指示された通りに……ひっ!」
正気を取り戻した神官長は、いきなり駆け出した。
外へ繋がる通路に向かって、逃げ出そうとする。
「ちっ、逃がすか!」
もちろん逃走なんて、させるつもりはない。
オレはすぐに後を追う。
「ぐへっ⁉」
その時だった。
逃げ出そうとした神官長が、血を吐き出す。
「口封じ、か? いや、血じゃないぞ、あれは……」
神官長が吐き出したのは血ではない。
どす黒い、瘴気のような塊だった。
(何だ、アレは……⁉ まさか……)
その瘴気の塊に見覚えがあった。
あれは確か……。
『くっくっく……余興もここでか。口ほどにもなかったな、この身体の奴は』
急に神官長の口調が変わる。
いや……神官長ではない。
その姿は急激に変わっていくのだ。
『さて、本来の身体に、戻るとするか』
紫の法衣は、どす黒い血のように染まっていく。
そして背中からは、コオモリのような禍々しい羽が発生。
全身の皮膚が赤褐色に変貌。
顔もこの世の者とは思えない邪悪な顔になる。
(これは“変化”か……)
黒い瘴気と、この気配は間違いない。
忘れるはずもない相手だった。
「ちっ……魔族か……」
目の前に現れたのは、邪悪の根源たる魔族。
魔王の直属の手下であり、かつて地上を荒廃させた元凶。
(しかも、この魔力……こいつ“上級魔獣クラス”か……)
恐ろしい魔族が闘技場の中央に出現。
こうして選抜戦は混沌へと落ちていくのであった。
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