第39話怒り
ウラヌス学園で大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはサラとエルザの三人で挑み、決勝戦まで進む。
だが先鋒であるエルザは、謎の異変に襲われて、敗退。
仲間お仇を討つため、サラが次鋒戦に挑む。
◇
『それでは次鋒戦、始め!』
審判長の合図で、次鋒戦が始まる。
「いくぜ! 吹き散れ……剣闘技【蛇斬り】!」
開始と同時、相手の次鋒が、サラに猛攻を仕掛けてくる。
巨大な大矛(おおほこ)を振り回し、一気に攻撃を仕掛けてきたのだ。
「受け回して! 剣闘技、【風車斬り】!」
サラは剣闘技を発動して対抗。
得意の回避技で、相手の攻撃を受け流す。
「甘いぜ! 狂い散れ……剣闘技【大蛇斬り】!」
更に相手は剣闘技を連発。
体格が劣るサラを、強引に攻め込んでいく。
「守って! ……剣闘技【風車斬り】!」
サラは必死で回避に専念。
接近戦では圧倒的に相手が格上。
だがサラは挫(くじ)けていない。
相手の連続攻撃を、何度も回避。
最小限の動きで、冷静に対処していく。
「ちっ! 潰れ散れ! 剣闘技……【大蛇潰し】!」
焦った相手は絶叫と共に、剣闘技を発動。
防御こと相手を潰す大技を発動してきた。
「これで潰れろぉお、庶民がぁああ!」
大技を発動して、相手は勝利を確信していた。
非力なサラは、この技は受け流すことは出来ないと。
「今だ! 大地よ、転ばせて……【土罠】!」
だがサラは冷静だった。
即座に呪文を発動。
【足罠】……相手の足元に罠を出現させる、サラ得意の術だ。
「なっ⁉ うぎゃっ!」
予期せぬ罠をくらって、相手は勢いよく倒れこむ。
同時にサラは後方に飛び下がる。
「いくよ……氷の精霊たちよ、私に力を……【氷結弾】!」
十分な間合いを取れた。
サラは攻撃魔法を詠唱。
「よし! やった、サラ!」
オレは思わず叫ぶ。
この流れはサラの得意パターン。
このまま高火力の攻撃魔法が発射。
体勢を崩した相手は、耐え切ることが出来ないだろう。
「えっ?」
だがサラは言葉を失う。
何故なら自分の【氷結弾】が、発動されなかったのだ。
(サラ⁉ くそっ……【探知・極】!)
オレは即座に特殊な探知魔法を発動。
どんな隠蔽(いんぺい)魔法でも、発動した瞬間なら、必ず見つけることが出来る魔法だ。
(よし、これだな!)
会場の地下に“何かの力”を発見。
これが異変の根源だ。
(だが、何だ……コレは?)
発見したのは、今までに感じたことない種類の魔力。
ここからだと詳細までは分からない。
だが明らかに異変が起きているのだ。
(これは会場全体に⁉ いや……サラが危ない!)
急いで視線を闘技場の上に向ける。
「うっ……」
だが時すでに遅し。
サラの様子が急変する。
苦悶の声を上げて、片膝をつく。
今まで元気に優勢に押していたのに、顔色が急変したのだ。
(あれは【状態異常】⁉ いや、違う……サラの魔力が消えて……いく⁉)
原因は不明。
サラの魔力と生命力が、急激に消失している。
生命力は魂の根源ともいえる。
いくら勇者候補といえども、ここまで急激な消失には耐えられないのだ。
「おい、審判! 何かが変だ! 試合を止めろ!」
オレは大声で叫ぶ。
この試合は……試合会場は何かが変だ。
早くしないとサラの身が危ない。
「…………」
しかし審判は無視してきた。
聞こえているはずなのに、あえて無視しているのだ。
「隙あり! 砕け散れ! 剣闘技【大蛇降ろし】!」
片膝をついたサラに向かって、相手は攻撃をしかけてきた。
動けない相手に向かって、無慈悲な剣闘技を発動してきたのだ。
「キャッァー!」
まともに攻撃を喰らい、サラは悲痛な声を上げる。
場外まで吹き飛ぶ。
『勝者! 研究学園チーム!』
場外となったところで、審判が宣言する。
「くっ! サラ!」
急いでサラの元に駆け寄る。
「うっ……」
「動くな、サラ!」
急いで回復魔法を発動。
応急処置を施す。
「あっ……ハリト君……」
よかった、サラの意識が回復した。
まだ立ち上がることは出来ないが、何とか上半身を起こそうとする。
「まだ、無理をするな、サラ」
「見守ってくれて、ありがとう、ハリト君。でも、負けちゃって、ごめんね……」
サラは悔し涙を流していた。
歯を食いしばっているが、大粒の涙は止まらない。
『さて、これで教団学園のチームの勝利が、ほぼ確定しました。一応は規則なので、これより大将戦を行います。両チームの大将は登壇してください!』
非情なタイミングでアナウンスが流れる。
このまま大将戦に突入するという。
(……コイツら、もしかしたら審判団までグル……いや、あの司祭長が張本人か⁉)
直感的にビビッときた。
先ほどのエルザとサラの異変……あれは、この司祭長が仕組んだ罠。
“何かの力”で、二人を弱体化。
自分の属する教団学園の勝たせたのだ。
(サラ……エルザ……無念だっただろうに……)
怒りのあまり頭に血が上る。
全身の魔力が湧きたってきた。
(コイツ等……許せない……な)
卑怯な罠で、オレの大事な仲間を傷つけた、元凶たる司祭長。
共謀している審判団の連中。
そして教団学園の三人組。
(こうなったら……全員、“半殺し”にしてやるか⁉)
グラグラ! グラグラ!
直後、コロッセオが大きく揺れる。
これは地震ではない。
(魔力を開放してやる……)
怒りのあまり、オレは全魔力を解放寸前。
共鳴した大地が大きく揺れているのだ。
「じ、地震⁉」
「お、収まるまで、防御を!」
突然の地震に、観客席は大混乱。
だがオレは構ってやらない。
(許さないぞ、あいつら……)
オレが大賢者としての“本気”を出したら、相手は一秒で吹き飛ばすことが可能。
間違いなく選抜戦は中止になる。
(サヨナラだな、学園生活よ……)
その場合、オレの正体も確実にバレてしまう。
学園生活も終わってしまうのだ。
「ハリト君……どうしたの、そんな怖い顔をして?」
そんな時であった。
オレの手を握る少女がいた。
まだ動けないサラだ。
「ハリト君……そんなに思いつめた顔……しないで……」
サラは心配してくれているのだ。
怒りのあまり、自分を見失っているオレのことを。
「サラ……」
オレの手を握るサラの力は、か弱い。
ダメージを受けていて、握力が残っていないのだ。
「ハリト君……私は大丈夫。だから元気をだして……」
だが握る手から、強い想いを感じる。
サラの優しさと、真っ直ぐな力だ。
「サラ、無理をしないで。今は回復に専念をですわ……」
少し動けるようになったエルザが、サポートにやってくる。
サラの身体を支えながら、回復魔法をかけてやる。
「そうだね、エルザちゃん……早くハリト君の、応援しないとね……」
「そうですわ。ハリト様の勇姿を……ですわ」
二人はまだ選抜戦を諦めていなかった。
決勝戦の最後の試合に向けて、全力を尽くしていたのだ。
「サラ……エルザ……」
そんな二人を見て、オレは言葉を失う。
自分の不甲斐なさを知ったのだ。
いつのまにか地震のような地鳴りは収まっている。
(オレは、この二人に比べて……)
二人ともこの選抜戦に全力で挑んでいた。
エルザは王都学園から追放された、悲しい過去を払しょくするために。
ウラヌス学園の代表になり、ライバルに再び挑む想いがあった。
サラは“真の勇者”となって、世界中の弱き者を助けようとしていた。
そのために常に前を向いて励んでいた。
「ああ……そうだったな」
二人の想いを感じて、血が上った頭が冷えた。
今オレが本気を出して、選抜戦をめちゃくちゃにしてしまったら、二人の夢は途絶えてしまう。
だからこそ今は、冷静に行動をする必要があるのだ。
『えーと、地鳴りも収まったので、これより決勝戦を再開します! 両チームの大将は準備を!』
謎の地鳴りが収まった。
審判団の判断で、決勝戦が再開されることになったのだ。
「ふう……後はオレに任せて、二人はここで、ゆっくり見ててくれ」
「えっ……ハリト様……はい、信じて待っています!」
「ハリト君……ファイトだよ」
「ああ、任せておけ。二人の剣、少し借りていくぞ」
サラの細身剣と、エルザの片手剣を手に取る。
オレはゆっくり立ち上がり、両手に剣を構える。
「さて、いってくるか」
こうして二人の想いを受け取り、決勝戦の大将戦……最後の戦いの場に向かうのであった。
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