第38話陰謀

 愛娘サラの後を追い、極秘で勇者学園に入学。

 そんな中、ウラヌス学園で大イベント【学内選抜戦】が開幕。


 オレはサラとエルザの三人で選抜戦に挑戦して、なんとか決勝戦まで進出。

 クラスメイトから想いを託されて、オレたちは決勝戦に挑む。


 ◇


 クラスメイトに背中を押されて、オレたちハリト団は闘技場の辿りつく。

 待機場所で各自の最終チェック。


 三人とも調子は最高潮。

 これなら最高のコンディションで戦いに挑める。


『それでは両チームの先鋒は、開始線に移動をしてください』


 司会者のアナウンスが響き渡る。

 いよいよ、決勝戦が開始となるのだ。


「それでは一つ目の勝ち星を、手に入れてきますわ!」


 ハリト団の先鋒……エルザが闘技場に登っていく。

 足取りかは軽やか。

 その後ろ姿は頼もしく感じる。


(エルザの調子が良そうだな……だが……)


 何となくオレは妙な胸騒ぎがしていた。

 仲間のエルザが原因ではない。


(この嫌な感じ……アイツ等……研究学園からか?)


 これから対戦する相手。

 研究学園の三人が発する雰囲気が、どうしても気にかかるのだ。


(だが【探知】で、何も発見できない。今回ばかりはオレの思い違いかもな……)


 念のため、相手のことをコッソリ探知してある。

 だが危険な魔の力は感知できなかった。


(まぁ、何かあってもレイチェル先生が審判するし、大丈夫だろう……)


 今日の審判は二代目“真の勇者”である剣帝レイチェル。

 普段はガサツでズボラな性格だが、いざという時は頼れる二代目様だ。


 相手が何か不正を仕込んでいても、即座に看破。

 試合を止めてくれるであろう。


『なお、決勝戦の審判は、格式ある“勇者教団”の司祭長様が行います!』


 そんな時、会場のアナウンスが響き渡る。


「なっ⁉」


 まさかの内容自分の耳を疑う。


 何故なら審判は、レイチェル先生でから変更されるのだ。


(そんな馬鹿な⁉ 不公平すぎるだろうが⁉)


 決勝の相手研究学園は、勇者教団が経営している。

 それなのに審判が司祭長に変更。

 明らかに不正な臭いがする。


(先生は、この件を許したのか⁉)


 会場の中を見渡す。

 肝心のレイチェル先生の姿が、どこにも見えない。


 こんな大事な時に、どこに消えてしまったんだ?

 もしかしたら何かの事件に、巻き込まれている最中なのか?


(とにかくこの決勝、何もかも怪しすぎる。止めないと!)


 オレは観客席の審判団に抗議をしようとした。

 だが時は既に遅し。


『それでは先鋒戦、はじめ!』


 間に合わなかった。

 審判の合図と共に、先鋒戦が開始されたのだ。


 こうなったらタイミングが悪い。

 あとはエルザに全てを託すしかない。


「いくわよ! 貫け……剣闘技【三段斬り】!」


 合図と同時、エルザが猛攻を仕掛けていく。

 一気に間合いを詰めて、得意の剣闘技を繰り出していく。


「ちっ⁉ 回し斬れ! 剣闘技、【旋風斬り】!」


 相手の先鋒も剣闘技を発動して対抗。

 双方とも開幕から全力で飛ばしている。


「いくわよ!」


 初撃は互角。

 エルザは負けじと、更に攻撃をしかけていく。


 細かい攻撃魔法で牽制しつつ、剣闘技で相手の崩しにかかる。


(よし! エルザ、いいぞ! かなり調子がいいぞ!)


 相手の先鋒の戦闘能力は高い。


 だが今のところエルザが優勢。

 エルザが巧みに攻め込んでいるのだ。


(これも特訓の成果か……)


 エルザは戦い方が、前よりも格段に上手くなっている。

 特に実戦での戦いが“強く”なっていた。


 この理由はハリト団での特訓のお蔭。

 魔の森の実戦稽古のお蔭で、実力以上の動きをしていたのだ。


「よし、いいぞ! このままなら、あと十手で押し込めるぞ、エルザ!」


 エルザの連続攻撃が、相手を着実に追い詰めていた。

 オレも思わず応援にも熱が入る。


 先ほどの違和感も、オレの杞憂(きゆう)だったのかもしれない。

 このままでいけば得意の剣闘技を決めて、エルザが勝ち星を得られるであろう。


「っ⁉」


 その時であった。

 オレは背筋に悪寒が走る。


 何だ、この不快感は?


「いっ⁉」


 直後、エルザが苦悶の声を上げる。

 そして突如、足が急に止まる。


 更に顔色が急変。

 血の気が引いていた。


「エルザ、退け!」


 異変を感じ、オレは思わず叫ぶ。

 エルザの状態は普通ではないのだ。


「くっ……」


 エルザは動けなかった。

 片膝をついて、その場に動けなくなってしまう。


「隙あり! 砕け散れ! 剣闘技【骨砕き】!」


 そんなエルザに向かって、相手の先鋒は剣闘技を発動。

 動けない相手に向かって、無慈悲な斬撃を喰らわせる。


「キャァーー!」


 まともに攻撃を喰らい、エルザは悲鳴を上げる。

 場外まで吹き飛び、そのまま倒れてこむ。


『勝者! 研究学園チーム!』


 エルザが場外負けとなったところで、審判が宣言。

 勝者の右手を掲げる。


「くそっ! いや、今はエルザが先だ!」


 審判に推し寄りたいが、ぐっとこらえる。

 倒れているエルザの元に、急いで向かう。


「大丈夫か、エルザ⁉」


「エルザちゃん、しっかりして!」


 医務係よりも早く、サラと二人でエルザの元に駆け寄る。

 頼む……生きていてくれ。


「うっ……」


 よかった、エルザは生きていた。

 だが意識が朦朧(もうろう)としている。


 オレは急いで回復魔法を発動。

 何とかエルザは意識を取り戻す。


「ごめんなさい……ハリト様……サラ……」


 エルザは倒れながら、謝ってきた。

 まだ動けないにも関わらず。頭を下げようとしてくる。


「私……先鋒の役目を……本当にごめんなさい……」


 不本意な結果に、エルザは悔やんでいる。

 悔し涙を見せないように、必死で歯を食いしばっていた。


『それはで次鋒戦を始めます。両チームの代表は登壇してください!』


 非情なタイミングでアナウンスが流れる。

 このまま次鋒戦に突入するという。


「おい! 待ってくれ! 何かがおかしい! 試合を中止してくれ!」


 観客席の審判団に向かって、オレは大声で抗議する。


 先ほどのエルザが止まった瞬間、明らかに何が起きた。

 このまま次鋒戦を続けるのは危険。

 会場を調べてくれと、直訴する。


『……ただ今、調査してみましたが、特に異変はありません。よって、次鋒戦は続行します!』


「なっ⁉」


 だが審判団は話を聞いてくれなかった。

 探知の術を発動したが、特に異変無し。


 会場の安全を確認できた。

 ゆえに次鋒戦に移ると。


『もしも異論があるのなら、ハリト団は棄権しても構いませんよ? 六十秒以内に決断してください』


「なんだと……?」


 更に審判……司祭長は、オレに向かって宣言してきた。

 大会ルールに従って返答がなければ、このまま棄権とみなすと。


「なんだと⁉」


「ハリト君、棄権はダメ……私、いってくるね! お願い、最後まで見守っていてちょうだい」


「サラ、でも危険すぎる!」


「大丈夫だよ……だって、三人で、ここまで頑張ってきたから……だから大丈夫!」


 サラは笑顔で開始線に向かう。


 大事な仲間であるエルザの仇を討つ。

 サラは強い覚悟で、次鋒戦に挑もうとしているのだ。


『それでは、これより次鋒戦を始めます』


 こうなったら止めるのは不可能。

 今のオレはサラを信じて、見守ることしか出来ない。


『それでは次鋒戦、始め!』


 こうして次鋒戦の開始の声が、非情なまでに響き渡るのであった。


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