第37話変化
愛娘サラの後を追い、極秘で勇者学園に入学。
そんな中、ウラヌス学園で大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはサラとエルザの三人で選抜戦に挑戦。
なんとか決勝戦まで駒を進めることができた
◇
決勝戦の時間が迫ってくる。
オレたちは選手控え室で待機中。
残すは決勝戦だけとなり、控え室にはオレたち三人しかいない。
『それでは、もうすぐ決勝戦が始まります。出場選手は、移動をお願いします』
司会者のアナウンスが聞こえてきた。
休憩時間が終わり、決勝戦が始まるのだ。
「いよいよだね、ハリト君。エルザちゃん」
「そうですわね……いよいよですわね……」
待機室でサラとエルザは、緊張した面持ちだった。
何しろ決勝の相手は今までとは別格。
試合前から緊張しているのだ。
「二人ともそんなに心配しなくても大丈夫だよ。作戦通り、今まで通り戦ったら、必ずオレたちが勝つから!」
「今まで通り……そうだね、ハリト君!」
「ですわね、ハリト様!」
二人の顔から緊張の色が消える。
ここまで来るまでオレたち三人は頑張ってきた。
放課後の三人での自主練。
魔の森での危険なモンスター狩りの特訓。
他の生徒たちが遊んでいる時間も、常に鍛錬を積んできた。
今思え返せば辛かった日々。
だが今となっては全てが必然。
努力は自分たちの身体に染みつき、今の自信となっていたのだ。
「よし、それじゃ、ハリト君! 景気づけに例のやつお願い!」
「アレか……うん、わかったよ」
とても恥ずかしい掛け声。
だが可愛い愛娘サラの発案だから断れない。
三人で円陣を組む。
「それじゃいくよ……『ハリト団、ファイト!』」
「「「おー!」」」
気合は十分。
オレたちは待機室を出発する。
向かうは長い廊下を抜けた先にある、中央の闘技場だ。
「ん?」
部屋を出て、気が付く。
廊下に人が沢山並んでいたのだ。
「お前ら……か」
廊下にズラリと並んでいたのはクラスメイトたち。
チャラ男三人組や令嬢軍団もいた。
全員が無言で、オレたちを見つめてくる。
「オレたちに何か用?」
「「「くっ……」」」
訊ねても、誰も答えてこない。
立ち尽くすクラスメイト表情は、何とも言えない複雑なもの。
皆は何かを言おうとしている。
「お、お前たちさ……」
「い、いや、何でもない……」
だが思い止まって、誰も最後まで言ってこない。
様子がおかしい。
中には歯を食いしばり、拳を握りしめている者もいた。
オレたちに何かを伝えようしている。
だが、何かが押し止めていた。
様々な感情が入り乱れている、変な空気だ。
(ああ……そうか。こいつら、“そういうこと”か……)
そんな空気から、オレは勘付く。
ヒントは先ほどの研究学園の準決勝の後のこと。
観客席にいたクラスメイトたち……こいつらは悔しさに嘆いていた。
何しろウラヌス学園で最大のイベントの一つの選抜戦。
それが大人に事情で、特別参加“研究学園”の三人組によって蹂躙(じゅうりん)されていた。
このままでは選抜戦の優勝カップは、あの横暴な他校三人組に奪われてしまう。
だからクラスメイトたちは言葉をかけにきたのだ。
ウラヌス学園の生徒として決勝戦に挑む、オレたち三人組に。
(だが“今までのこと”があるから、言い出せないのか、コイツらは……)
まだ誰も言葉を発せずにいた。
何故ならコイツラは入学当時から、オレたちのことを蔑(さげす)んできた。
オレのことはランクEの無能生と、常に馬鹿にしてきた。
サラのことは“庶民出”と仲間外れにしてきた。
そして今日になり、エルザのことを“失墜(しっつい)の剣姫”と陰口を叩いていた。
だからクラスメイトは罪悪感で、言い出せないのだ。
「何か言いたいんだろう? オレたちは急いでいる。早くしてくれ」
無言のままのクラスメイトに向かって、オレは問いかける。
彼らの本心を引き出すために。
「でも、オレたちは……」
「ああ、今まで……」
「こんな時だけ、虫が良すぎる訳で……」
クラスメイトの表情は、今までとは違う。
おそらく心のどこかで、反省しているのであろう。
今までの蔑んできた自分たちの言動を。
そして、オレたちに対して、謝罪の言葉を発してきた。
「お前たちは、本物だったよ……」
「ああ、間違っていたのは、オレたちだった……」
「オレたちは羨ましかったんだ……」
こいつらも何か感じたのであろう。
今日の選抜戦を戦い抜いて。
オレたちと直接剣を交えて、本気で魔法を打ち合い。
ハリト団の実力と、陰の努力を肌で感じているのだ。
「ねぇ、ハリト君……」
「ハリト様……」
そんなクラスメイトの変化を、サラとエルザも感じていた。
どうすればいいのか、オレに全てを託してくる。
「そうだな……」
はっきり言って、オレは複雑な人間関係が嫌いだった。
友情や仲間意識、そんなモノ……研究者として生きていくには、不要だと思っていた。
「ふう……オレたちは優勝してくる。ウラヌス学園を代表して。だから、そんな湿気(しけ)た顔をするなって、お前ら」
「「「えっ⁉」」」
そんなオレからの、まさかの言葉。
廊下に並ぶクラスメイトは全員、言葉を失う。
自分の耳を疑っているのだ。
「聞こえなかったのか? それなら、分かりやすく言ってやる。『あのムカつく他校生は、お前らの代わりに、オレたちがブッとばしてくる』 だから……」
オレは複雑な人間関係が嫌いで、友情や仲間意識も不要――――だと思っていた。
だが今は少しだけ違う。
「だから、お前たちも、いつもの調子で、応援たのむぜ! そしたら、今までの分は、全部チャラにしてやるよ!」
たしかに、コイツらは入学当時から、面倒くさい連中だった。
だが競争が激しい勇者候補として、皆もの必死。
今日の選抜戦を見て、全員の努力を認めていたのだ。
――――まぁ、少しだけだが。
そんなオレの言葉を聞いて、クラスメイトの表情が変わる。
「ああ……応援、任せてくれ、ハリト!」
「オレたちの悔しさの分まで、頼んだぞ、三人とも!」
「絶対に優勝してくれ、お前たち!」
廊下にクラスメイトの叫びが響き渡る。
これは彼らの心の想い。
今まで貯めこんでいた色んな感情。
呪縛を解かれたように、一斉に溢れでしてきたのだ。
「ハリト様……」
「ハリト君……」
「そんな顔するなって、エルザ、サラ。そろそろ本当に時間だから、いこう! この道を!」
「はい、ですわ!」
「うん、そうだね!」
声援が鳴りやまない廊下を、オレたちは駆けていく。
ここはクラスメイトが作ってくれた、想いの花道。
一歩ごとに誰かが、背中を押してくれる頼もしい感じ。
否が応でもモチベーションは高まる。
(まったく、オレもヤキ回ったのかな……)
誰かのために戦うなど、今までなかった。
学園に入学してオレも、少しだけ変わったのかもしれない。
恥ずかしいから、口に出して言えないけど。
(さて、有言実行だ……こいつ等の分まで頑張るとするか!)
目指すは優勝。
こうしてクラスメイトの……仲間たちの託された想いを受け取り、オレたちは決勝戦に挑むのであった。
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