第36話不安
愛娘サラの後を追い、極秘で勇者学園に入学。
そんな中、ウラヌス学園で大イベント【学内選抜戦】が開幕。
オレはサラとエルザの三人で選抜戦に挑み、無事に一回戦を突破。
そんな中で、候補生の中でエルザが悪い噂が流れてしまう。
◇
「エルザ、サラ、必ず優勝しよう!」
「はい、ハリト様」
「うん、ハリト君!」
仲間の名誉を回復させるため、改めてオレたちは優勝を誓い合う。
『“ハリト団”の生徒は、二回戦の準備をしてください』
そんな時、アナウンスで名前が呼ばれる。
オレたちの出番が近づいてきたのだ。
「よし、まずは目の前の試合……二回戦を頑張ろう!」
「そうだね、ハリト君!」
「次も先鋒は私に、おませ下さい! 三人抜きいたしますわ!」
「でも、エルザちゃん、先鋒は勝ち抜き戦じゃないよ……」
「あっ⁉ オッホホホ……ですわ。私としたことがウッカリですわ!」
二人とも噂のこと、もはや気にしていない。
調子は良さそうだ。
これなら二回戦以降も何とかなりそうだ。
「さぁ、いこう!」
こうしてオレたちは一致団結して、二回戦に挑む。
◇
それから選抜戦、ハリト団は順調に勝ち進んでいく。
まずは二回戦。
ハリト団は好調。
先鋒のエルザ。
見事な剣闘技と魔法の連動で、相手をノックダウンさせる。
次鋒はサラ。
初級魔法で闘技場に、岩の壁を召喚。
地形を上手く生かして、相手の機動力を奪い戦っていく。
最後は得意の氷魔法で勝負を決めた。
そして大将のオレ。
突進系の剣闘技で一撃決めた。
こうして二回戦もハリト団は三連勝。
無事に突破できたのだ。
「やったね、ハリト君!」
「やりましたね、ハリト様!」
「よし、このまま一気にいこう!」
三人ともスタミナ消費は最小限。
モチベーションも高く調子は良い。
この後も上手くいけそうな気がする。
◇
その後もハリト団の快進撃は続いていく。
三回戦は準々決勝となる。
こちらも三連勝と危なげなく突破。
◇
次の四回戦は準決勝。
相手はかなりの強者ぞろい。
特に次鋒は相手のポイントゲッターの強者だった。
だが次鋒のサラは相手の猛攻を耐え切り、技ありの引き分け。
最終的に二勝一分けで、ハリト団は勝利を収める。
「やったね! やったね! ハリト君! エルザちゃん!」
「サラもナイスファイトでしたわ!」
「二人ともお疲れさん。いよいよ次は決勝戦だね」
準決勝を勝ったので、ハリト団の決勝進出は確定。
対戦相手は、これから決まる。
「よし、決勝の相手を確認しにいこう」
もう一つの準決勝を、三人で見に行くことにした。
オレたちは観客席に座り、次の相手が決まる試合を偵察する。
準決勝クラスになると、残るチームは強者ぞろい。
試合もかなり接戦になるであろう。
「えっ……何ですの、あの三人は……」
だが試合は、あっとう間に終わる。
例の特別参加の三人組が圧勝したのだ。
試合を見ていたエルザでさえ、言葉を失っていた。
「す、凄く強かったね、エルザちゃん……」
同じくサラも唖然としている。
相手もかなりの強さだったが、特別参加の三人が一方的な試合を決めたのだ。
「な、なんだよ……今の試合は……」
「準決勝が……こんな一瞬で……」
「アイツ等が、あんな……子ども扱いにされて……」
唖然としているのは二人だけはなかった。
ウラヌス学園の生徒……仲間を応援していた候補生も、言葉を失っている。
何しろ特別参加の他校生に、自分たちの仲間が手も足もでなかった。
ウラヌス学園としての誇りが、一瞬で打ち砕かれてしまったのだ。
「特別参加か……あの連中のことを、何か知っている、エルザ?」
「あの制服は王都のものとは違います。見たことがない制服ですわ……」
情報通なエルザですら知らないのか。
それなら知らないのも無理はない。
(よし、それなら、観客席のあの連中に……)
こっそり聴覚強化の魔法で、盗聴を開始。
耳の先は、観客席の有力者たちだ。
なんかの資料をもっているアイツ等なら、特別参加組の情報も知っているはずだ。
おっ、よし、繋がった。
『おお! さすがは研究学園の三人は、別格じゃったのう!』
『ですな! さすがは“勇者教団”の直属機関ですな!』
『これで優勝は、彼らに間違いないな!』
有力者たちの会話に中に出てきたのは、聞いたことにない単語。
『研究学園』は初めて聞く。
あと“勇者教団”といえば、観客席にいる怪しげな集団のことだ。
それ以外の情報は、今のところ聞こえてこない。
とりあえずエルザにもう一度、聞いてみるとする。
「なぁ、エルザ。“研究学園”って知っている?」
「えっ、研究学園ですか? たしか勇者教団が直接運営している学園……教団の本部がある聖都に、学園があったはずが……」
「聖都にある学園か。そこはどんな学園か分かる?」
「私も詳しくは分かりませんが、大陸にいる信者の中から、特に優れた才能がある子どもを集めて、独自のカリキュラムで勇者候補を育成している学園……そう聞いたことがあります。それがどうしたのですか、ハリト様?」
「今……いや、さっき廊下で聞こえたんだけど、あの三人組は、どうやら、その研究学園からの特別参加らしい」
エルザたちにも一応は情報を教えておく必要がある。
何しろ決勝で当たる相手のことだ。
まぁ、廊下で聞こえた……というのは嘘も方便だが。
『えー、来場の皆さん。今の試合はいかがでした?』
そんな時、アナウンスが流れる。
先ほどまでの司会ではない。
挨拶をしているのは、神官着の小太りの中年男だ。
『私は“研究学園”の理事であり、勇者教団の司祭長のダンチでございます!』
男は自己紹介をしてきた。
“研究学園”の理事……つまり、特別参加の三人を引率してきた責任者だという。
『今回は栄光あるウラヌス学園の選抜戦に、当校からも三名が参加させて頂きました。結果は、ご覧の通りでした。この後の決勝戦は、どうなるか既に決していると思いますが、どうぞお楽しみにご覧下さい!』
そう一方的に言い残して、ダンチという司祭長は話を終える。
かなり上からモノを言う相手だ。
聞いているだけは不快感がある。
そして今の挨拶に不快感があったのは、オレだけではない。
周りの席に座る候補生たち……ウラヌス学園の生徒たちも同様だった。
「くそっ……なんだ、アイツは!」
「ああ、そうだな! なんで、あんな奴らが、うちの選抜戦に乱入してきたんだよ!」
「おい、勇者教団の陰口はマズイぞ……どこに信者がいるか分からないぞ……」
「でも、このままだと、他校生に優勝を持っていかれちまうぞ……」
クラスメイトたちは嘆いていた。
学園生活で最大のイベントの一つである選抜戦。
それが大人に事情らしき、特別参加の制度によって、乱されてしまった。
「くそっ! なんなんだよ! そうなったら、オレたちの今までの厳しい授業に耐えてきた苦労は、どうなるんだ⁉」
「ああ、水の泡だな……」
「どうして先生たちは、あんな横暴な奴らに、選抜戦に参加させたんだよ……」
恐らく今回の特別参加してきたのは、大人の事情があったのであろう。
その証拠にウラヌス学園の教師陣も、先ほどから苦い顔をしている。
エルザの話では勇者教団は、各地の学園に強大な影響力を持つ。
きっと司祭長が強引に、自分の生徒を参加させたのであろう。
「とにかくオレたちの決勝戦の相手は決まった。気持ちを切り替えていこう」
「そうですわね、ハリト様。それにしても、あの強さ……決勝戦は、かなり手強い厳しい戦いになりそうですわ……」
いつもは自信満々エルザだが、今は眉をひそめる。
何しろ先ほどの三人の戦闘力は、今までの相手とは別格。
客観的に見ても、エルザですらギリギリ勝てる相手。
サラに至っては現時点では、かなり勝ちは難しい。
つまり優勝するのは、かなり厳しいのだ。
「そんな顔をするな、エルザ。オレたち三人なら大丈夫だ!」
「ですがハリト様……」
「大丈夫だよ、エルザちゃん! ハリト君の予言はいつも当たってきたし、頑張ろうよ!」
「そうですわね……はい! 私も今まで以上の力で、決勝戦に挑みますわ!」
エルザにいつもの自信が戻ってきた。
金髪の髪の毛をかき上げて、笑顔を取り戻す。
『それでは、少し休憩した後に、決勝戦を始めます!』
準決勝が終わったところで、司会者からアナウンスがある。
決勝戦は本日のメイン試合。
休憩をして両チームとも万全の体勢で開始となるのだ。
(厄介な相手だな……)
こうしてオレたちは決勝戦に挑むのであった。
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