第15話新しい研究
愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。
クラスメイトになった娘を、目立たないように見守っていく。
そんな中、発見した新たなる技“魔剣技(まけんぎ)”に、耐えられる剣の素材探しをすることにした。
「よし、さっそく研究を始めるか」
自宅の地下研究室で、魔剣技の研究を進めていく。
寮の自室に誰か来たら、すぐに戻れるように準備済み。
これで研究に専念できる。
「一番の問題は剣の素材だよな、今回の場合は……」
魔剣技を放った後、二回とも剣は消滅。
強力な魔法の威力に、剣本体が耐えられなかったのだ。
だから耐えられる素材を探していく必要がある。
「まずは頑丈な素材で試してみるか?」
研究室の奥にある倉庫から、実験用の素材をもってくる。
最初に試してみるのは、神々しい光沢の片手剣。
勇者時代に手に入れた武器の一つだ。
「オレの所有している武器の中だと、これが一番強固な素材だかなら、さて、試してみるか」
この宝剣は“アダマンタイト”という特殊な金属が材料。
頑丈さだけなら、この世でトップクラスの剣だ。
研究室の一角にある実験場に移動。
ここは周囲を特殊な結界で覆っている。
かなり強力な攻撃でも、周りに被害は出ない仕組みだ。
「ふう……さて、いくぞ」
剣を構え、意識を集中。
先日の“岩大熊”討伐の時より、魔力を何倍も高めていく。
狙うは実験場の真ん中にある強固な的だ。
――――◆――――
《術式展開》
魔力を剣に集中
“雷”の属性
“集約”の型
《術式完成》
――――◆――――
「よし、いくぞ…………【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】!」
無詠唱で魔法を発動。
雷をまとった片手剣を、斬撃と共に振り切る。
ゴォオオオオオオ!
実験用の的が一瞬で消え去る。
超高圧の雷と斬撃を同時に食らい、瞬時にして蒸発したのだ。
「ふう、魔剣技は上手く発動できたぞ」
前回の【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】よりも、高威力で発動できた。
技自体は問題ない。
さて、剣の方の耐久力は、どうかな?
パシャーーン!
直後、宝剣が粉々に砕け散る
高火力な雷の魔力に、アダマンタイトですら耐え切れなったのだ。
「うーん、これでもダメだったのか? これは困ったぞ……」
所有している金属の中で、アダマンタイトが最も強固。
というか、この世の中でアダマンタイトよりも硬い金属は、ほとんど存在していない。
あるとしたら“神武器(しんぶき)”……神が作りだした、この世の物ではない武器だけだ。
「“神武器”か……今はもう持っていないかなら、無理だな……」
三十年前に魔王を倒した後、オレは自分の神武器を返還していた。
というか後衛タイプだったオレの神武器は、今必要な近接武器ではない。
「“神武器”を所有しているとしたら、昔の仲間だろうな。実験用に借りにいこうかな……いや、万が一、こうやって壊したらシャレにならない。それに第一、気まずい」
ほとんどの昔の仲間とは、二十年以上顔を合わせていない。
魔王を討伐した後、色々な事件が勃発。
オレは辺境のこの家に、引き籠ってしまったのだ。
「よし。神武器は諦めて、違う素材を調べてみるか!」
魔術の実験に失敗はつきもの。
気持ちを切り替えて、次なる方法を試すことにした。
倉庫の名から、別の宝剣を手にする。
次に試してみるのは、“ミスリル”という魔法金属で形成された剣。
物理的な耐久力はアダマンタイトに劣るが、魔力の伝導率が高い。
魔法との相性も良いはずだ。
「よし、やってみるか……」
剣を構え、意識を集中。
先ほどよりも更に魔力を高めていく。
――――◆――――
《術式展開》
魔力を剣に集中
“雷”の属性
“集約”の型
《術式完成》
――――◆――――
「さて、いくぞ…………【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】!」
無詠唱で魔法を発動。
雷をまとった片手剣を、斬撃と共に振り切る。
ゴォオオオオオオ!
魔剣技は成功。
的が一瞬で消え去る。
「さて、剣の方の耐久力は、どうかな?」
パリーーン!
また宝剣が粉々に砕け散る
ミスリル製ですら、魔剣技に耐え切れなったのだ。
「うーん、魔力伝導率が良すぎも、ダメっぽいな、これは。それなら雷の魔法を【付与】して、攻撃した方がいいのかな?」
付与魔法は、剣に色んな属性の魔法を加える一般的な魔法。
相手の属性しだいでは倍近いダメージを与えられる。
「いや、“倍”じゃ話にならない。魔剣技なら更に数倍は攻撃力を上げられるはずだ!」
魔剣技が凄いのは、その圧倒的な高火力なところ。
今までの付与攻撃とは、比べ物にならない威力があるのだ。
それに魔力効率もかなり高い。
少ない魔力消費量で、攻撃魔法以上の斬撃を繰り出せるのだ。
また魔剣技は対応力も高い。
毎回、相手の弱点属性に合わせて、色んな属性の攻撃を放たれる。
ゆえに魔剣技は、今までの攻撃方法とは一線を画す。
革命を起こす可能性がある。
だから魔剣技の完成は、絶対に諦められないのだ。
「よし、何パターンもコツコツ試していくとするか……」
新しい技術を完成していくには、地道な実験の繰り返しが必須。
オレは魔剣技に最適な素材を探して、眠るのも惜しんで実験をしていくのであった。
◇
その日から魔剣技の実験は続いていく。
実験する時間は、主に放課後と週末の休みの日。
クラスでは特に友だちもいないので、空いた時間はフルに使える。
あっ……友だちといえば、サラがいた。
でも異性であるサラとは、放課後や休日は顔を合わせることはない。
顔を合わせるのも授業の時だけ。
だから空いている時間は、全部魔剣技の研究に注いでいく。
「うーん、やっぱり魔力の伝導率が問題なのかな……いや、それだど素材の強度がな……」
今は魔法の理論の授業中。
オレは魔剣技についてコッソリ理論研究している。
えっ、授業をちゃんと聞かなくても大丈夫か、って?
こう見えてオレは大賢者と呼ばれた男。
今さら初心用の魔法の授業は聞く必要はない。
だから、こっそり自主研究しているのだ。
「うーむ、こっちの理論と、この方法が合えば、何とかかるはずなんだよな……でもな……ん? あれ?」
気がつくと授業が終わり、放課後になっていた。
クラスメイトたちは寮に戻っていく。
だがオレは一人で教室に残ることにした。。
魔剣技の素材について、どうしても上手くいかない部分があるのだ。
「あれ、ハリト君、まだ帰らないの?」
「あっ、サラ。うん、あと少しで帰るよ、オレも」
いきなり愛娘が声をかけてきた。
机にかじりついていたオレのことを、心配してくれたのだ。
「ハリト君、いつも勉強しているよね?」
「えっ、これ? ああ、うん。ほら、オレ最年少だから、頑張らないとダメだからさ。あっはっは……」
魔剣技の研究ノートをバレないように隠し、笑ってでごまかす。
「それでもハリト君は、一生懸命で凄いよ! 私なんていつも失敗ばかりで……この前も魔術の実験の授業で、大失敗しちゃって……」
真面目なサラだが、たまに抜けているところがある。
以前の実験の時、間違って液体を混ぜてしまい、危うく大爆発を起こしそうになったのだ。
「ああ、あの時ね。失敗は誰だったあるから、元気だしなよ、サラ」
実はその時、オレが内緒で魔法を発動。
こっそり事なきに終えたのだ。
「そうだね……ありがとう、ハリト君!」
サラに笑顔が戻る。
たしかに不器用なところもあるが、前向きな性格はサラの長所。
側で見ていて、こっちまで心が清々しくなる。
「じゃぁ、また来週にね。ハリト君!」
「うん、ばいばい、サラ」
サラを見送る。
これで教室には本当にオレ一人だけになる。
「サラは本当に元気だよな。それにしても、あの実験の失敗を、あそこまで気にしていたのか。まぁ、あの組み合わせて、あんな反応があるとはオレも想定していなかったし……」
サラが混ぜた種類は、奇跡の配合だった。
普通の実験では、どうやっても辿り着くことが出来ない比率。
もしかして娘は天性の運……いや、この場合は“運の悪さ”があるのかもしれない。
「ん?」
その時だった。
何かが脳裏に浮かんできた。
「配合……奇跡の配合……伝導率と耐久力の両立……そうか!」
それは魔剣技についてのアイデア。
今までに考えも及ばなかった理論が、急に脳内に降臨したのだ。
「よし、さっそく実験してみよう!」
急いで寮に帰宅。
転移門で自宅の実験室に移動。
先ほど浮かんだ理論を実践。
錬金術の工具で、数種類の金属を溶かしていく。
「よし、出来たぞ! もしかしたら、この配合でなら!」
錬金術で作り出したのは、新たなる金属製の剣。
アダマンタイトやミスリルなど、数種類の希少金属を配合した特殊剣だ。
見た目は神々しい輝きはなく、かなり混沌した色の剣になってしまった。
まぁ、大事なのは見た目よりも、性能。
早く実験してみよう。
「さて、いくか……」
剣を構え、意識を集中。
魔力を高めていく。
今回は今まので中でも、最大の魔力値を試してみる。
――――◆――――
《術式展開》
魔力を剣に集中
“雷”の属性
“集約”の型
《術式完成》
――――◆――――
「さて、いくぞ…………雷撃よ、全てを光り斬れ……魔剣技、【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】!」
無詠唱で魔法を発動。
雷をまとった片手剣を、斬撃と共に振り切る。
ゴォオオオオオオオオ!
今までにない位の高火力の雷斬撃が発動。
実験用の的は一瞬で蒸発する。
よし!
手応えは今までの中で一番だった。
さて、問題の剣の方の耐久力は、どうかな?
キラリーン!
おお、やったぞ!
特殊配合で作り出した剣は、傷一ついてなかった。
高火力すぎる魔剣技の威力に、新しい剣が無事に耐えてくれたのだ。
「ふう……ようやく完成したぞ。この剣の名前は、とりあえず“混沌剣”にしておこう。見たまんまだけど」
こうして愛娘サラのお蔭で? 魔剣技に耐えられる剣の製造に成功するのであった。
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