第14話自室の改造

 愛娘サラの後を追い、こっそり勇者学園に潜入。

 クラスメイトになった娘を、目立たないように見守っていく。

武器を使った実技の訓練の初日が、無事に終わる。


「ふう……なんか気疲れしたな、今日は」


男子寮の自室に戻り、一息つく。


「“手加減”があそこまで難しいとはな……」


気疲れした原因は、模擬戦で手加減をしたから。

チャラ男Aとの模擬戦の後は、なるべく目立たないようにした。


相手と同じ位の実力に調整して戦う。

これが予想以上に大変。

細かい精度で魔力を調整するのが、かなり気疲れする訓練だったのだ。


「でも、“魔剣技”か……あれは、けっこう使えるかもな」


チャラ男Aとの模擬戦を思い返す。

オレは自分の片手剣に、雷の魔法を宿わせた。


二度目の発動で、意識したのは初めての試み。

新しい技である【魔剣技】かなり面白かった。


「【魔剣技】って名前も暫定だけど、あんなの初めてだったからな……」


“真の勇者”時代でも、あのような攻撃をした者は皆無。

人類最強の仲間の中にはもちろん、敵である魔族でも【魔剣技】使った奴はいなかったのだ。


「なにしろ、理論的には真逆の性質を、偶然の発動させて発見したからな、オレは……」


剣闘技と魔法の根本は魔力だが、理論的には真逆の別もの。

普通は同時に発動できない。

だから大賢者だったオレですら、初めての発動だったのだ。


「魔剣技か……まだ威力は低いけど、研究し次第で、面白くなりそうだな……」


魔剣技は魔法と剣技の組み合わせで、応用は無限に近い。

もしかしたら世紀の大発見になる可能性もあるのだ。


「よし、今後は研究していってみるか!」


退屈な学園生活に、新しい課題を発見。

それに研究者として、新たな可能性の発見は心が踊るのだ。


「よし、そうとなったら、真面目に研究開始! でも、問題は武器の耐久力だよな……」


実はチャラ男Aとの模擬戦の後、使っていた片手剣は跡形もなく消失。

“岩大熊”の時と同じように、武器の耐久力が持たなかったのだ。


「ふむ。まずは武器をどうにかしないとな……」


いくら強力な技でも一回で、武器を壊してしまうのでは論外。

どうにかして問題点を解決したい。


「よし。どうせ暇だから、研究してみるか、“新しい武器の素材”を!」


武器が消失してしまうのは、魔剣技の自体は問題ない。

技に適応した武器さえあれば、魔剣技は完成するはずだ。


「武器の開発と実験か……そのためには実験室が必要だよな。でも、この部屋じゃ……無理だな」


自室を見回して、ため息をつく。

候補生に与えられた部屋は、ベッドと勉強机しか置けない狭さ。

実験器具を置くスペースはどこにもない。


それでは校舎にある魔法実験室という場所を、先生から借りてみるか?


「いや、目立ちすぎるだろう、それは……」


いきなり十歳の新入生が、危険な実験をしていくのだ。

どう考えても目立ちまくり。

この案は即座に却下する。


「研究室か……せめて家の研究室くらいの広さと設備があれば……」


自宅の塔の地下には、自分用の研究室がある。

大陸でも最高峰の設備を揃えており、オレにとって自慢の部屋だった。


「家の研究室があれば……そうだ!」


そんな時、名案が浮かんだ。

さっそく実行に移るために、部屋の中を見回す。


「おっ、このクローゼットがいい感じだな?」


自室の備え付けのクローゼットが目に入る。

扉の大きさは人が入れる感じだ。


「よし……じゃあ、試してみるか……」


意識を集中して、術式を展開していく。


――――◆――――

クローゼットの扉に魔力を集中


“空間”の属性


“付与”の型

――――◆――――


「いくぞ……【転移門(てんいもん)】!」


無詠唱で魔法を発動。

洋服クローゼットが明るく光る。


「よし、大丈夫かな?」


光が収まったところで、クローゼットを開けてみる。

中にあるはずの私服は消え去っていた。


代わり広がっていたのは、広大な部屋……自宅の研究室だ。


「おお。成功したか!」


今、唱えたのは付与変革魔法の一つ。

対象の扉を“転移門”に変革するもの。


今回はクローゼットの扉を、自宅の研究室の棚を結んだのだ。


「よし。これで研究室を使えるな!」


寮の自室と、自宅の研究室を魔法で直結。

移動は一瞬で済む。


「これで魔剣技と専用の剣の研究が捗(はかど)るぞ!」


候補生のスケジュールはけっこう自由な時間がある。


まずは平日の授業が終わった後と、夕食の後の時間。

候補生は消灯までは自由時間だ。


また昼休み時間も一時間以上あるので、一度自室に戻る可能。


あと週末の二日間は基本的に休日。

丸二日間は各自で自由にできるのだ。


「時間を有効に活用していかないとな……まずは剣の素材選びから始めるか。よし、腕が鳴るな!」


こうして未知なる新しい技“魔剣技”の完成に向けて、オレは挑戦するのであった。



そしてクローゼットの中にあった賢者のローブ……超貴重品の消失に気が付くのは、しばらく経ってからだった。


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