第9話検査の結果
勇者候補に選ばれた娘のために、オレは十歳に逆行転生。
ハリトという新しい名前で、娘と同じウラヌス学園に潜入に成功。
学園生活の初日、勇者の適性検査が実施。
愛娘サラが検査する順番がやってきたのだ。
「次の人、どうぞ」
「は、はい! サラといいます。よろしくお願いいたします!」
かなり緊張した感じで、サラは水晶の前に進んで行く。
あそこまで緊張してしまうのも無理はない。
何しろ“女神の水晶”によって、入学早々ランク付けされてしまうのだ。
今のところランクCの普通生が多い。
上のランクBは数人しか出ていない。
下のランクDの低能生だけは。雰囲気的に避けたい。
そんなランクが表示されるか、サラは心配なのであろう。
もちろん見守るオレも心配すぎる検査だ。
(サラ……よし、ここはパパが、ひと肌脱いでやるか!)
可愛い娘の窮地に、父親として黙っている訳にはいかない。
(いくぞ、無詠唱……特殊魔法……【神具(しんぐ)解析】!)
無詠唱で特殊な魔法発動させる。
対象はサラの目の前にある“女神の水晶”
【術式完全隠ぺい】も並列発動しているので、教師陣にも気が付かれることはない。
二つともかなり特殊な魔法だが、必要魔力は少ない。
お蔭で転生した今のオレでも、使用は可能だ。
(これが“女神の水晶”の中身か……なるほど。こういう仕組みか……ふむふむ)
【神具(しんぐ)解析】の術で“女神の水晶”の中身を解析していく。
神具といっても、これは特別複雑な術式は組まれていなかった。
簡単に説明するなら水晶は『触れた者の“魂の潜在能力”を計測して表示する』それだけの計測装置だった。
(これなら簡単だな。次はターゲットをサラに変更して……術は、コレでいいか)
水晶に手を伸ばそうとしているサラに、特殊な術をかけておくことにした。
勘のいい子なので、あまり長くは発動させておけない。
ほんの一瞬だけの発動だ。
「ではサラさん。この水晶に触ってください」
「は、はい! 頑張ります!」
タイミングはバッチリだった。
サラがまさに水晶に手をかけた瞬間。
(【魂力・昇華】!)
サラに付与した魔法が発動。
これは対象者の魂の流れを増幅させる魔法だ。
「えっ? ひっ?」
水晶を触った瞬間、サラは身体をビクッとさせる。
術の発動を直感的に感じたのであろう・
(よし、解除だ!)
すぐさま術を解除。
全ての魔力の痕跡を完全に排除だ。
「い、今のは……いったい……なに?」
水晶を触りながら、サラは周りをキョロキョロしている。
首を傾げながら不思議そうな顔をしていた。
ふう……何とかバレずに済んだぞ。
「「「おー⁉」」」
次の瞬間だった。
サラの近くの候補生から歓声があがる。
「ランクBだぞ、あの子!」
「凄い! “有能生”だ!」
“女神の水晶”に表示されていたのは『ランクB』。
か弱そうな少女の快挙に、他の候補生たちにどよめきが上がっていく。
「えっ? えっ? 私がランクB……?」
一方でサラは言葉を失っていた。
まさか優秀な結果が出るとは、夢にも思っていなかったのであろう。
「あっ、どうもありがとうございました!」
サラは天狗になることなく、謙虚に下がっていく。
むしろ申し訳なさそうに、列の陰に隠れていた。
「よかった……本当によかった……」
だがサラが小声で喜んでいた。
そんな笑顔を抑えている娘の喜びを、もちろんオレは見逃さない。
本心では本当に嬉しかったのであろう。
今まで見たことのない良い笑顔だ。
(良かった……サラのあの笑顔が見られただけでも、頑張った甲斐があったな……)
一方でオレも心の中で幸せに浸っていた。
たしかにオレの術によって、サラは良い結果がでた。
だが【魂力・昇華】はズルい技ではない。
あくまでもサラのもつ可能性を、分かりやすく表面化させただけ。
本来の才能を見えやすくした……そんな感じだ。
つまりサラは本当の力によって、ランクBという好成績を出せたのだ。
「次の人、どうぞ」
「おっ、オレか?」
サラの笑顔を見つめていたら、いつの間にか順番が回ってきた。
オレは適当に水晶に近づいていく。
何しろ今日の仕事はやりきった感がある。
オレの検査は適当に流して、さっさと入学式にいこうじゃないか。
「では。ハリト君の検査をスタートします」
試験官が“女神の水晶”を起動させる。
結果は何でもいいや。
さっさと終わらせて、早くまたサラの顔を見に行かないと。
「ん?……えっ……?」
試験官は言葉を失っていた。
表情も固まっている。
どうしたんだろう?
(あっ……)
水晶に表面にオレのランク付けが浮かんでいた。
その表情は――――『ランクSS』
(あれはマズイ! 【魂力・隠蔽(いんぺい)】!!)
特殊魔法を無詠唱で、更に高速で発動させる。
これによりオレの魂の運命力は、限りなくゼロに近づく。
「あれ? 故障だったのかしら? Sが沢山並んでいたような気がしたけど。えーと、ハリト君は……ランクEです……えっ、ランクE⁉」
ふう、良かった。
なんとか騙すことが出来たぞ。
何かランクEに驚いているが、何か問題でもあったのだろうか?
一応は低い結果なので、これで学園でも目立つことはないだろう。
「おい、あいつ、ランクEだってよ……」
「ランクE……無能生? そんなの実在したのかよ……」
「聞いたことがないぞ……」
「せっかくのここのまで来たのに、可哀想にな……」
何やら検査会場がザワついている。
他の候補生たちからヒソヒソ話をしているのだ。
中には憐みの目で、オレのことを見てくる奴もいる。
ん?
いったい、どうしたんだ、この状況は?
「ぷっぷぷ……ランクEの奴か……」
「無能生って、落ちこぼれ確定だな、あのチビは……」
「ウケるぜぇ!」
ザワつきは段々と大きくなっていく。
特に先にランクBを叩きだしていたチャライ男三人組が、騒いでいる。
「おい、キミたち、静かにしなさい!」
見かねた教師が、候補生たちを注意する。
そして一人の女教師……カテリーナ先生がオレに近づいてきた。
「ハリト君、大丈夫? このランク適性は、あくまでも可能性の検査。あまり落ち込まないようにしてね」
小声で励ましにくる。
どうしようもなく落ち込んでいる、と思われたのであろう。
「えっ、落ち込む? 全然気にしてないですよ、先生」
「えっ?」
カテリーナ先生が驚くが、本当にオレは適性の結果など気にしていない。
何故なら今回の勇者学園に、好成績を収めにきたのではないのだ。
目的はただ一つ。
『大事な愛娘サラの学園生活を、陰から見守る』だ。
そのためにランクEの“無能生”の烙印が押されようが問題ない。
むしろ低評価で卒業まで目立たずに過ごせる、ナイスな適性結果なのだ。
これで他の候補生たちも、オレのことなんて気にかけていないだろう。
「あのランクEの“無能生”には、あまり近づかない方がいいな……」
「学園では班行動もあるみたいだから、別になるように頑張らないとね……」
「あいつ名前はたしか“ハリト”だったよな……」
「ああ、“無能生ハリト”か。覚えて、気を付けないと……」
だが別の意味で目立ってしまった。
他の候補生たちはザワつきながら、オレのことをまだ見ている。
しかも“無能生ハリト”なんて呼び名で、覚えられてしまった。
これは少しマズイぞ
「えー、皆さん、お静かに。全員の適性検査が終わったので、次の検査に移りたいと思います!」
司会の試験官から全員に声がかかる。
それでようやく候補生たちも静かになる。
「次の検査は“実技検査”です。では、次の会場に移動してくだい」
なるほど、実技検査なんてものもあるのか。
さっきは無駄に目立ってしまったから、挽回するチャンスだな。
(次こそは普通の結果を出して、さっきの挽回をしよう!)
こうしてオレは実技試験に挑むのであった。
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