第8話適性検査

 勇者候補に選ばれた娘のために、オレは十歳に逆行転生。

 ハリトという新しい名前で、娘と同じウラヌス学園に潜入に成功した。



「さて、いよいよ今日から学園生活がスタートするのか」


 学園に到着してから、翌朝になる。

 今日は適性検査と入学式の朝となる。


 寮の食堂で朝食を食べ、自室で制服に着替えて準備万端。

 教師の案内で、同じ敷地内にある校舎へと向かう。


 説明によると今日は、最初に適性検査が行われるという。

 校舎前の広場に候補生全員が集められる。


「これがウラヌス学園の候補生か。けっこういるな……」


 整列しながら候補生の人数を数える。

 人数はだいたい百人くらい。

 男女比は六対四くらいで、男子の方がやや多い。


 パッと見の年齢は、十四歳前後が多い。


 身長や体格はバラバラだが、全員がお揃いの制服で統一されている。


(サラ……サラはどこに? あっ、いた!)


 そんな候補生の中に、ついに探し出した。

 銀髪の小柄な少女……愛娘サラだ。

 緊張した顔で、整列している。


(サラ、元気そうで、よかった……)


 久しぶりに見られた娘の顔に、思わずホッとする。


 まぁ……“久しぶり”といっても、二日ぶりなんだが、オレにとっては数百年に感じていたのだ。


(それにサラの制服姿……とっても似合っているな……)


 あまりの似合いっぷりに、思わず見とれてしまう。


 サラの制服も、黒と白を基調にしたスカート型。

 本当によく似合っている。


 断言できる……間違いなく候補生の中で、断トツに可愛らしい!


 いや、学園内だなんて、小さな中でない……この大陸でも間違いなく一番可愛らしい姿だ!


 一制服姿の娘の姿を見られただけでも、禁呪で転生したお蔭。

 たとえデメリットが多くても、一気に帳消しにしてしまった瞬間だ。


 ああ、素晴らしい。

 この時間が永遠に続いて欲しいものだ。


「それでは、これから適性検査を始めます!」


 壇上の教師から指示がある。

 そうか、もう適性検査が始まってしまうのか。

 もう少し娘の制服姿を見ていたかったが、仕方がない。


 だが授業が始まれば、いつでもサラの姿を見られるはず。

 よし、さっさと検査を終わらせてしまおう。


(ん? そもそも“適性検査”ってなんだ?)


 ふとした疑問が浮かんできた。

 何しろ昔はそんな検査はなかった。

 一体何を調べるのであろうか?


「では、まずは簡単ですが適性検査について説明します……」


 オレの疑問に答えてくれるかのように、担当教員から適性検査の説明開始。


「まずはこの“女神の水晶”に一人ずつ触ってもらいます。これで“勇者適性”の第一段階が分かります……」


 試験官は説明をしていく。

 広場の中央の台に置かれている“女神の水晶”。

 それに触ると、自動的に適性が分かると。


 適性は何段階に分かれており、各人の勇者としての資質が表示されるという。


(“女神の水晶”だと? なんだアレは……初めて見るぞ?)


 昔はそんなものはなかった。

 水晶は拳ほどの大きさ。

 かなり特殊な魔力を感じられる。

 おそらく“人”が作りだした魔道具などではない。


 つまり人ではない存在。

 “神具(しんぐ)”……その名の通り女神が作りだした物体なのであろう。


(普通、神具は、あんな風に地上に存在しないものなんだがな……勇者候補を学園まで転移とか、今回の女神のサービスの良さは、いったいどうなっているんだ?)


 前の時は“女神の水晶”なんて便利な物はなかった。

 勇者候補たちは女神から啓示を受けたら、自分の足で各地の養成所に到達していた。


 それに国営の勇者学園まであったりして、昔とはまるで違う。

 オレが辺境に引き籠っている間に、何があったのであろうか?


「勇者の適性ランクは次のように表示さていきます……」


 試験官の説明は続いていく。

 かなり細かい話だが、水晶によるランク分けは次のように感じだ。


 ――――◇――――◇――――


<勇者候補ランク>


 ランクS:破格生:ほぼ100%勇者になれる。


 ランクA:特別生:80%の高確率で勇者になれる。


 ランクB:有能生:60%の確率だが、努力次第では可能。


 ランクC:普通生:40%の確率。かなり難しいが、一芸を伸ばしていけば可能性はある。


 ランクD:低能生:20%の確率。残念ながら難しい。 


 ◇



 ランクE :無能生:0%の可能性。絶望的に不可能の近い。本来は聖刻印すらも現れない存在なので、今まで出た者は誰もいない。


 ――――◇――――◇――――


 試験官の説明はこんな感じだった。

 なるほど、“女神の水晶”を使って“真の勇者”になれる確率を、最初から表示しておくのか。


 かなり残酷なランク付けに思えるが、勇者システムはかなり競争が激しい。


 勇者候補は大陸中に数百人が、女神によって啓示を受けて選出される。

 オレの時も最終的に“真の勇者”として最終的に選ばれたのは、たったの六人だけ。


 確率的にいったら全候補生の1%未満しか“真の勇者”になることは出来ないのだ。


(まぁ、だが最初から適性を決めつけちゃう……って、それって変じゃないか?)


 前回の時もそうだが、最初はかなり有能な候補者でも、後に伸び悩むこともある。

 また勇者パーティーはバランスも大事。

 全員が前衛タイプでも意味ないし、全員が後衛タイプでもマズイ。


 色んな才能と可能性、特殊能力と個性があってこそ勇者パーティーは機能するのだ。


(まっ、女神も学園も何か考えがあって、あの水晶での適性検査なんだろうな。オレには関係ないことだ)


 今回のオレの目的は、最後の“真の勇者”の一人に選ばれることではない。


 大事なのは『愛娘サラが危険な目に合わないように、学園生活を影ながらサポートしていくこと』


 最良の結果としては次のような感じ。


 ――――◇――――◇――――


 ・サラ、学園生活をスタート

   ↓

 ・サラ、成績や人間関係、生活などで悩まず、楽しく学園生活をしてもらう。

   ↓

 ・サラ、訓練や実地戦闘でも安全に過ごしてもらう。

   ↓

 ・一年後、サラ、残念ながら真の勇者に選ばれず。でもやりきった感じで後悔はない

 ↓

 ・サラ、自宅に帰郷。父親(オレ)とまた平和に楽しく暮らしていく

 ☆ハッピーエンド☆


 ――――◇――――◇――――


 こんな感じの計画だ。

 かなり綿密で壮大なプロジェクト。


 特に最後の『サラ、自宅に帰郷。父親(オレ)とまた平和に楽しく暮らしていく』の辺りが胸熱!


 苦しかった学園性を終えて、温もりのある我が家に帰宅したサラ。


 家出した娘を寛大に許したオレの胸元に、嬉し涙ながら飛び込んでくるサラ。


 想像しただけでも感動の嵐。

 今も思わず涙腺が崩壊してしまいそうだ。


「おい、早く先に進めよ、お前!」


 だが幸せな時間が、後ろの奴によって邪魔されてしまう。


 あっ、そうか。

 説明も終わり、適性検査が始まっていたのか。


「あっ、ごめん、ごめん」


 大人しいふりをして、後ろの候補生に謝る。

 学園生活ではなるべき争わず、目立たないように過ごしていくのだ。


「「「おお! いきなりランクBが出たぞ!」」」


 前方の候補生たちから歓声があがる。

 一人目の結果がでたのであろう。

 誰もが他の者の結果に、目を見張っていた。


(ほほう? ランクBはけっこう良いのか、ここでは?)


 確率的にランクCの“普通生”が多いのであろう。

 つまり統計にランクBは全体の数%しかいない、かなり上位に入るのだ。


「「「次はCランクとDランクか……おお、またランクBが出たぞ!」」」


 その後も適性検査が進んでいき、歓声が上がっていく。


 見た感じただと“ランクB有能生”の結果が出たものは、全員がガッツポーズをしていいた。


 “ランクC普通生”の者は、仕方がない、といった顔。


 “ランクDの低能生”はあからさまに悲しみ、悔し涙を流す者もいた。


 喜怒哀楽な雰囲気の中、適性検査はスムーズに進んでいく。


(次は……サラの番か……)


 ついに娘の順番がやってきた。

 今まで見たことないほど緊張している。

 オレも思わず心臓の鼓動が早くなってきた。


(サラ……一体どの適性結果がでるんだろうな……)


 こうして極度の緊張の中、愛娘の勇者適性検査を見守るのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る