第7話学園内へ
勇者候補に選ばれた愛娘のために、オレは十歳の自分に逆行転生。
娘と同じ勇者学園に通うために、ハリトという新しい名前でウラヌス学園に潜入に成功した。
「名前は……えーと、オレは“ハリト”です!」
「ハリト君ね。私は教師のカテリーナ。それじゃ、案内するから付いてきてちょうだい」
カテリーナと名乗ってきた女教師の後を付いていく。
魔法のローブを着ていることから、おそらく魔法を教える教師なのだろう。
そっと【鑑定】調べてみるが、なかなかの魔法の素質が高いな。
「ん? 今なにか? 気のせい……?」
ふう……危なかった。
危うくカテリーナ先生にも気が付かれるところだった。
(それにしても魔法の隠密も調子が悪いな……)
いつもなら鑑定を他人に気が付かれることなどない。
だが転生の影響で、魔法の精度にムラがある。
今後は無暗に鑑定系は発動しないようにしよう。
とにかくボロを出さないように、大人しく先生についていこう。
「まず、ここが本校の校舎です」
カテリーナ先生に案内されて、広大な敷地を移動していく。
最初に案内されたのは。五階建ての豪華な建物。
候補者たちの学び舎、ウラヌス学園の校舎だという。
(近くで見ると、やっぱり豪華だな……)
間近で目見して、改めて驚く。
昔の小汚い長屋と比べて、天と地以上の差がある。
あれから三十年以上経っているとはいえ、何が起きてボロ養成所が、こうなったんだ?
「建物が立派で驚いていますね、ハリト君? 実は勇者学園は国で運営されております。だから設備が整っているのです」
「えっ、国営なんです?」
「そうです。何しろ世界の平和維持は、国益の最重要事項ですから」
オレの疑問にカテリーナ先生が答えてくれる。
なるほど、勇者の育成は国営になっていたのか。
それなら、この立派な施設も納得がいく。
国民から集めた膨大な税金で、この学園は新設されたのであろう。
(それに『世界の平和維持は、国益の最重要事項』……か)
たしかに魔王が世界を征服してしまったら、人族は滅亡の危機に瀕する。
それに比べたら多少の税金投入も、仕方がないのであろう。
「この校舎で明日、適性検査と入学式が行われます。それでは次は寮にご案内いたします」
「寮?」
「ええ、無料で生活できる場所です」
そういえばサラの置き手紙に、そんなことが書いてあった。
国営だから候補生の生活費も、潤沢に出してくれるのであろう。
「あとハリト君の場合は制服も、早めに用意しないとですね。失礼ですが、その恰好では……」
カテリーナ先生が目を細めるのも無理なない。
何しろ今のオレは大人用のローブを、ダボダボにして着ている。
かなり汚れているので、見た目は悪い。
「サイズは……何となく分かりました。部屋に後で届けさせておくので、試着しておいてください。あっ、制服も無料なので、遠慮しなくても大丈夫です」
なるほど制服まで無償で支給されるのか。
さすがは国営。
というか先ほどから金銭に関して、先生に気を付かせているような。
みすぼらしい格好をしているから、貧乏人だと思われているのであろう。
(本当は金には困っていなんだけど……)
今着ているローブも、実は国宝級の特殊な品物。
換金しようとしたら、城が楽勝買える高級品だ。
だが敢えて言わないでおく。
とにかく学園生活では目立たないように、過ごしていく作戦なのだ。
「ここが男子寮です」
そんなことを考えている内に、別の建物に到着。
ここが候補生の生活する寮だという。
同じ敷地内だが、校舎から少し離れた立地。
四階建ての長めの建物が二棟ある。
校舎ほど豪華さはないが、かなり立派な建物だ。
「手前が男子寮で、奥が女子寮です。ちなみに校則によって、異性の寮に入ってはいけません。詳しい校則は、こちらの手帳に書いてあります。必ず確認して、気を付けてください」
カテリーナ先生から小さな手帳を支給される。
中をパラパラ見て見ると、規則が細かく記載されていた。
これがウラヌス学園の校則だという。
(校則だと? 今はこんな細かい決まりがあるのか?)
養成所時代も一応、禁止事項はあった。
だが、かなり大まか。
例えば『人は殺してはいけない』とか。
あと『揉め事は決闘で決着をつける』など。
そんな暗黙に近いルールしかなかった。
だから勇者養成所では、誰もが自由に過ごしていたもんだ。
それに比べて学園の校則は細部まで至る。
かなり窮屈な感じだ。
「ちなみに、この“校則”に違反したら?」
「最初の二回までの違反は厳重注意。三回目以降は審議委員会によって、審議にかけられます。場合によっては退学処分と勇者候補の資格はく奪も有り得ます。ハリト君も気を付けてください」
審議委員会と退学処分、あと資格はく奪か……。
随分とガチガチのシステムで運営されているんだな、今は。
でも、厳しいのも仕方がない。
何しろ国営になったことで、事件が起きた時は責任問題があるのであろう。
「はい、肝に銘じておきます!」
郷に入っては郷に従えだ。
とりあえず校則は出来る限り守るようにしておこう。
何しろ目立たないことが重要だからな。
「あっ、ちなみに学園内での敬語は?」
「当校で誰に対しても、特に敬語は不要です」
「でも、カテリーナ先生はさっきから敬語ですよね?」
「私は敬語がクセなので、気にしないで。ハリト君も楽に話していいわ」
「了解です、先生」
許可が出たので、普段の口調に帰る。
それに教師に対して敬語は不要か。
これは助かる。
何しろオレの本当の年齢は五十近い大人。
自分よりも年下の教師に、これからずっと敬語を使うのは面倒くさかったのだ。
「あと、補足ですが『言葉使いと礼節』の授業もあります。王族などに謁見する時用に」
なるほど礼節の授業もあるのか。
たしかに勇者候補となれば、各国の国王に謁見する機会もある。
うっかり国王にタメ口を聞いて逆鱗に触れてしまったら、不敬罪で大変な騒ぎになる。
(国王にタメ口で不敬罪の事件……うっ、頭が……)
ふと昔の失態を思い出す。
オレも昔は若気の至りで、失敗が多かった。
今回は気を付けて目立たないようにしておこう。
「では、ハリト君のお部屋に案内します」
「はい、お願いします」
先生の先導で、男子寮の中に案内されていく。
建物の中は結構シンプルな作りだった。
一階に玄関や守衛室、食堂や共同スペースなど。
二階から四階までが寮室となっている。
「ここがハリト君の部屋の一般個室です」
二階の一部屋に案内される。
それほど大きくない間取だった。
ベッドと机が置かれており、洋服ダンスや洗面所もある。
窓ガラスとカーテンもあり、外の景色も一望できる。
うん、シンプルで悪くない感じだ。
むしろ昔の長屋に比べたら、百倍はマシで素晴らしい。
(これならサラも大丈夫そうだな……)
建物の作り的に、サラの暮らす女子寮も同じ感じなのであろう。
清潔で住みやすそうな寮に安心だ。
「ん? 一般個室?」
先生の言葉が、ふと気にかかる。
ということは一般じゃない個室もあるのか?
「鋭いですね、ハリト君は。この上の三階と四階は特別個室のフロアになっています。身分の高い生まれの候補生たち専用となっています」
なるほど、そういうことか。
(やっぱり貴族の子息令嬢連中もいるのか、ここも)
勇者候補の刻印は才能ある者、誰にでも現れる。
貴族や王族、大商人の子どもなど、身分の差は関係ないのだ。
(住む世界が違うということか、学園でも)
昔の同期にも、身分の高い出の連中がいた。
アイツ等は生まれた時から、生活が別世界。
おそらく上の特別室は広く豪華で、使用人も滞在しているのであろう。
(とりあえず上の階の連中には近づかないようにしておこう……)
オレは孤独を好み、面倒を嫌う性分。
学園でも特別室の連中には、なるべき近づかないようにしておく。
「以上が簡単な説明になりますが、ハリト君の方から何か質問はありませんか?」
「いえ、特にないです」
見た目は十歳だが、中身は大人。
生活魔法もあるので、困ったことは自分で解決できる。
「では、何かあった我々教師や寮長のことを頼ってください。それでは、より良い学園生活を」
カテリーナ先生は案内役を終えて、立ち去っていく。
それとすれ違うように、寮専任のメイドさんが制服を持ってきてくれた。
自分で試着してみたが、サイズはぴったり。
部屋にある全身鏡で確認してみる。
「ほほう、これはなかなか……というか、かなりカッコイイな」
黒と白を基調とした、デザインの制服。
若かりし頃の厨二魂が、今にも復活してきそうな格好だ。
「さてと、たしか明日が適性検査と入学式か……目立たないように頑張るとするか」
勇者学園での学生生活の第一歩が、こうしてスタートするのであった。
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