第6話街に到着

 勇者候補に選ばれた愛娘を追うために、オレは十歳の自分に逆行転生。

 娘と同じ勇者学園に通うために、ウラヌスの街を向かう。



「おっ? たしか、あれがウラヌスだったよな?」


 岩大熊の魔獣の討伐から時間が経つ。

 飛行の魔法で移動して、ようやくウラヌスの近郊に到達する。


「さて、ここから歩いていくとするか」


 街から少し離れたところで、こっそり着陸。

 街道を歩いて街に向かう。


 何しろ飛行系の魔法は、普通は小さな子どもは使えない。

 サラにバレないように、街では目立たないようにしていくつもりだ。


「おっ、あれが城門だな」


 道を進んでいくと、街に入るための城門にたどり着く。

 入り口で衛兵に通行税を払えば、誰でも街に入れるはずだ。


 中に入るための待機列に並んで、やっと自分の番場やってくる。

 よし、ここも目立たないに、自然に通過しなければ。


「次の人、どうぞ。ん? ボウズ、お前、一人だけで来たのか?」


 しまった。

 衛兵にいきなり疑惑を持たれてしまった。


 何しろ今のオレは十歳の子ども。

 街道沿いといえども、街の外の危険が多い。


 普通は子ども一人だけでは、他の街にはやって来ないのだ。

 久しぶりの人里に、すっかり忘れていた。


「えーと、街の近くまで、親戚の伯父さんに荷馬車で送ってもらったんだ。 オレ勇者候補に選ばれたから、この街に来たんだ!」


 大賢者としての頭脳をフル回転。

 子供っぽい口調で説明する。

 これなら衛兵も納得してくれるだろう。


「なるほど、そういうことか。それにしても本当に勇者候補か、ボウズ? いくら何でも子小さすぎないか?」


 衛兵が疑問に思うのも無理はない。

 一般的に勇者候補の啓示を受けるのは、成人した十四歳前後の者が多い。

 十歳で選ばれた者は前回も、オレ一人しかいなかった。


 仕方がない、ここは証拠を見せるしかない。


「ほら、これ見て、おじさん。本当だろ?」


「あっ、それは⁉ 間違いないな、本物だ!」


 自分の右手の甲を見せる。

 勇者候補にしから浮かび上がらない“聖刻印”

 衛兵もマジマジと見て、目を丸くしている。


「疑って悪かったな。さぁ、これが許可証だ。“勇者学園”は街の中心地にある。頑張ってこいよ、ボウズ!」


 街の中で暮らしていくための許可証を、無事に発行してもらう。


 それにしても『ボウズ』か……自分よりも年下の衛兵に、子ども扱いされたことは、若干引っかかる。


 だが今の自分は、他人に十歳の少年にしか見えない。

 目立たないように暮らしていくには、子供のフリにも慣れていくしかないだろう。


「ふう、ようやく。街の中か……この喧騒(けんそう)も久しぶりだな」


 城門を抜けた先、街の中は賑わっていた。

 正門から三方向に大通りが伸びている。

 左右に様々な商店が立ち並び、隙間には露店にあった。


 様々な人種の通行人が行き交い、荷馬車や交易商人でごった返し。

 長年人里を離れて暮らしていた自分にとって、久しぶりの大きな街の賑わいだ。


「さて、まずは勇者候補の養成所に向かうとするか」


 久しぶりの街の賑わいを、楽しんでいる暇はない。

 先に到着している娘サラのいる場所に、足を向けて進んでいく。


 大通りを早足で進みながら、衛兵の言っていた街の中心地へと向かう。


「あっ、看板があるぞ。ふむふむ、『勇者学園まで少し』か。それにしてもこの“学園”って何なんだ?」


 歩きながら不思議に思う。

 オレが現役時代は候補者が集う場所は、“勇者養成所”と呼ばれていた。

 だが今は街の案内表示も“勇者学園”と変わっている。


 オレが引き籠っている間、呼び方が変わっていたのか?


(それにしても“学園”だなんて、大層な呼び方にしたものだな。あんな荒くれ者の巣窟を……)


 当時を思い出す。

 オレが通っていた養成所は、本当におんぼろな場所だった。


 まず寝泊りする建物は、雨漏りもした古びた木造長屋だった。

 魔法や戦闘の訓練をするのは、野外の広場だ。


 オレたち候補者の格好は、常に訓練で汚れまくり。

 今思い出しても、本当に小汚い養成所だった。


 だから今回の勇者学園とやらも、誇大誇張な予感。

 あまり期待はできない。


「ん? あそこかな?」


 目的地の看板が見えてきた。

 “勇者学園”と書いているから間違いないであろう。

 それにしても大きな看板だな。


 看板を目印に、正門らしき場所に近づいていく。


「なっ⁉ おい……本当に、ここなのか⁉」


 正門前に到達。

 門の奥に見えてきた建物……学園を目にして、思わず自分の目を疑う。


「ちょっと立派すぎないか、あれ⁉」


 学園の建物は凄まじく立派だった。

 五階建ての豪華な建築物。

 敷地面積も広く、ちょっとした貴族の庭園よりも広い。


 というか建物の豪華さも、大貴族並だぞ、これは。


「なんなんだ、ここは……?」


 三十五年前とのギャップの差が半端ない。

 目の前の光景を受け入れられずにいた。


「ん? そこのキミ? 何か用か?」


 呆然としていたオレに、武装した衛兵が近づいてきた。

 おそらくは学園専門の正門の門番なのであろう。

 柔らかい口調に反して、こちらを警戒した様子だ。


「えーと、オレは勇者候補の一人です。これ証拠です」


 まだ現実が受けられないけど、ここで怪しまれるわけにいかない。。

 聖刻印と街の通行証を見せて、身の潔白を証明する。


「ほほう、それは確かに勇者候補の証だな。ちなみに歳は?」


「十歳です!」


「じゅ、十歳⁉ どうりで小さいとは思っていたけど……」


 先ほどと同じように門番も、年齢に驚いていた。

 そして何かの魔道具で、オレの聖刻印を確認にしてくる。


 かなり疑われているが、これも警備体制が厳重な証拠。

 大事な娘を預ける親の身としては、この対応にはむしろ交換がもてる。

 なんだか安心した感じになる。


「やはり、本物だ。とりあえず、担当者を呼んだので、ここ待ってくれ」


「分かりました」


 学園は広大な敷地だから、最初は案内係が付いてくれるという。

 指示に従って、正門の待機所で待つ。


「お待たせしました、キミが、十歳の新入生?」


 しばらくして、一人の女性がやってきた。

 この人が案内係なのであろう。


「はい、そうです。よろしくお願いします!」


「元気がいいのね。えーと、キミの名前は?」


「名前ですか……えーと、オレはマハ……じゃなくて、“ハリト”です!」


 マハリトの本名だとサラに速攻バレてしまう。

 咄嗟に偽名を口にする。


「ハリト君ね。私は教師のカテリーナ。それじゃ、案内するから付いてきてちょうだい」


「よろしくお願いします!」


 こうして大賢者であるオレは、勇者候補“ハリト”という新たな名前で、勇者学園に紛れ込むことに成功するのであった。

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