第5話新しい体で初戦闘

 勇者候補に選ばれた愛娘を、近くで見守るためにオレは十歳に逆行転生。

 娘と同じ勇者学園に向かう。


 飛行魔法で移動していた道中、巨大な魔獣に襲われている一行を発見。

 オレは少しだけ寄り道をしていくことにした。


「ふう……少しだけ“寄り道”をしていくか!」


 ため息をしながら、進路を急変更。

 急旋回して馬車の元へと、一気に降下していく。


 急降下しながら近接戦闘用に、【身体能力】の各種魔法を発動。

 さて、着地地点はどこにしようかな?


 ……そうだな、とりあえず“岩大熊”の頭上だ。


「よっと!」


 上空から“岩大熊”の頭の上に、着地……いや、飛び蹴りをして、着地を決める。


「ガッ⁉ ウガルルルル!」


 “岩大熊”が吠えながら、勢いよく吹き飛んでいく。

 かなり頑丈な魔獣だな、こいつ。

 死んではいないが、突然のことに混乱している。


「な、何者だ、貴様は⁉」


「こいつ、空から落ちてきたぞ⁉」


「まさか魔獣の仲間……魔族か⁉」


 混乱しているのは護衛たちも同様。

 優雅に着地を決めたオレに、剣先を向けてきた。


 まぁ、その反応も仕方がないな。

 何しろ怪しげなローブを着た子供が、いきなり空から落ちてきたのだ。

 しかも巨大な魔獣に、飛び蹴りを食らわしながら。

 普通なら混乱してしまう状況だ。


「いや、オレは敵じゃないから。オレは……そうだな、通りすがり者。とりあえず助けてあげるよ、あんたたち」


「な、何だと、敵じゃないと⁉」


「上から落ちてき、通りすがりだと⁉」


 護衛たちが半信半疑だった。

 どう対応すればいいか判断できないのだ。


『ガルルルルル!』


 だが魔獣は待ってくれない。

 吹き飛ばされた混乱から、“岩大熊”が回復。

 怒りに身を任せて、突進してきたのだ。


「ほほう、怒っているのか?」


 突進の目標はオレだった。

 それにしても凄まじい突進力だな。

 頑丈な城門ですら、一撃で破壊してしまう突撃なだ、これは。


「よっくら……しょっと!」


 そんな突撃に、カウンター攻撃を合わせやる。

 魔力で強化した右パンチを、喰らわせてやった。


『ウギャルルル⁉』


 魔獣が再び吹き飛んでいく。

 ダメージはそれほど与えられていない。

 また立ち上がってくる。


「ちっ……硬いな、やっぱり……」


 魔獣は普通の獣の何倍も、耐久力が高い。

 頑丈な骨格と剛毛、分厚い皮下脂肪で、打撃攻撃では相性が悪いのだ。


「そういえば、身体能力が格段に下がっていたんだっけな」


 今のオレは十歳に転生中。

 禁呪のデメリットで全能力が格段に降下。

 特に肉体的な攻撃力は、全盛期の十分の一しか出ない。


 この程度の魔獣は、前だったら素手でもワンパンだったのに。

 小さくなった右拳を見ながら、自分の不甲斐なさにため息が出てしまう。


『ガルルルルル!』


 起き上がった“岩大熊”が再び突進してくる。

 今度は先ほど以上の加速。

 何の武器も持たないオレを、捨て身の覚悟で吹き飛ばしにかかる。


「少し困ったな、これは」


 こいつには今のオレの打撃では通じない。

 魔法なら一撃で倒せるが、今のオレは魔力調整が不安。

 下手したら、この周辺ごと吹き飛ばしてしまう危険性がある。


 さて、それなら、どうしたものか?


「仕方がない。オジさん、剣を借りるよ!」


「なっ?」


 護衛の腰から予備の小剣を拝借。

 あまり長さはないが、子供の今のオレにはちょうどいい長さだ。


「攻撃魔法も使えなくて、打撃が効かないのなら、この剣で……」


 イチかバチかで新しい魔法を創造してみる。


(術式の型は『剣に魔法を付与するタイプ』……いや、せっかくだから『剣を触媒にして魔法を発射するタイプ』でいってみよう!)


 術式のイメージが決まった。


 ――――◆――――


 《術式展開》


 魔力を剣に集中


 “雷”の属性


 “集約”の型


 《術式完成》


 ――――◆――――


「雷の剣で斬る技……名付けて……【雷光斬(ライ・コウ・ザン)】!」


 一番得意とする雷属性の魔法を発動。


 詠唱は破棄して、威力も最低限に。


 少し厨二病っぽい命名は、昔の名残だ。


 いくぞ!


「はぁあああ!」


 雷をまとった小剣から、雷撃を発射。

 いや、タイミングが間に合わない。

 魔獣が目の前まで迫っているのだ。


 よし、こうなったらヤケクソだ。

 雷撃を発射せずに、剣で“岩大熊”をそのまま斬りつてやる!


 グゥオオオオン!


 直後、凄まじい轟音が響き渡る。

 なんだ、この攻撃は⁉


 自分の攻撃が、今まで見たことがない発動をしているのだ。


 これは、そうか……雷の攻撃魔法をまとった剣が、“岩大熊”を真っ二つに斬り裂いたのだ


「あっ⁉ これは、ヤバイ⁉」


 そのまま雷の魔法は貫通。

 予想外の波状攻撃だった。


 魔獣の後方の荒野の大地が、雷撃により吹き飛んでしまったのだ。


「ふう……でも誰もいなくてよかった」


 よかった。馬車の一行に被害は出ていない。

 大地が吹き飛んだのは、見なかったことにしよう。


「それにしても今の技は……?」


 予想以上の攻撃力に、思わず自分の右手を確認する。

 小剣は雷撃により蒸発して、跡形もなく消えていた。


(たしか『剣を触媒にして魔法を発射するタイプ』で発動しようとして、でも違う感じに発動したよな、今のは?)


 イメージしていたのとは違うタイプの雷魔法が、偶然にも発動してしまった。

 やはり逆行転生で、自分の体内の魔力が微妙にズレているのかもしれない。


(それにしても凄い威力だったな、今のは?)


 最小限の魔力放出量で、強固な魔獣を貫通。

 今までの攻撃魔法ではあり得ない、魔力効率による攻撃力の高さだった。


 もしかしたら偶然が重なり、新しい型の術式が発動してしまったのだろうか?


「まっいっか。今度暇な時にでも、調べてみるか、これは」


 とにかく魔獣は退治した。

 念のために周囲を索敵するが、他に危険な魔獣はいなそうだ。


 護衛隊も全員生き残っているから、この先は放っておいても大丈夫だろう。


 ねぇ、生き残っている皆さん?


「ば、ば、馬鹿な……あの“岩大熊”を素手で吹き飛ばした……だと……⁉」


「そ、それに、最後、あの頑丈な“岩大熊”を、どうやって真っ二つにしたんだ……⁉」


「ま、魔法だったのか⁉」


「だが杖も持っておらず、詠唱もなかった……つまり剣の技だけで⁉」


「ま、まさか……やはり魔族なのか⁉」


 護衛たちの様子はおかしかった。

 全員が目を丸くして、オレのことを見つめている。

 かなり怯えた様子で、警戒していた。


 ん? どうしたというのだろう。

 たかだか魔獣の一匹を退治しただけだろう?

 それほど驚くほどではないことだぞ。


「まぁ、いっか。じゃな」


 何やら面倒な雰囲気になりそう。

 巻き込まれる前に立ち去ることにした。

 厄介者は退治した。

 これ以上はここにいても意味がない。


「お、お待ち下さい! “ローブの剣士様”!」


 立ち去ろうとした時。

 少女が声をかけてくる。

 先ほど馬車の中から出てきた金髪の子だ。


 恐る恐るオレの前まで近づいてきた。


「エルザ様、お待ちください!」


「おやめ下さい! 相手は人ではない存在かもしれません!」


「危険です!」


 護衛たちは少女を必死で止めようする。

 得体のしれない相手に近づくべきではないと。


「お黙りなさい! この方は私達の命を救ってくれたのですよ! 失礼な言動は、この私が許しません!」


 少女のひと言で、護衛たちはピタリと止まる。

 このエルザというお嬢さんは、なかなかの人物かもしれない。


「家臣たちが失礼いたしました。改めまして私はエルザ・ワットソンともうします。今回のことでお礼をしたいのですが、貴方様のお名前を伺ってもよろしいですか?」


 少女は頭を深々と下げてきた。

 プライドが高そうな顔をしていても、人としての仁義に大切にしている。

 ちゃんと教育をされてきたのであろう。

 思わず感心してしまう。


「礼は結構だよ。それに急いでいるんで、じゃあね!」


 だが、やはり面倒なことになりそうだ。

 それに今は感心している暇もないので、駆け出して逃げ出すことにした。


 身体能力を強化した足で、一気にこの場から離脱だ。


「お、お待ちください! ローブの剣士様ぁあ!」


 後ろから少女の呼び止める声が聞こえてきた。

 聞こえないふりをして、どんどん先に駆けていく。


 かなり引き離したので、もう大丈夫だろう。


「さて、仕切り直しで、ウラヌスに向かうとするか」


 再び飛行魔法で大地から離陸。

 向かう先はサラのいるウラヌスの街だ。


「寄り道しちゃったから、急がないとな!」


 こうして金髪の少女の一行を助けて、オレは本来の目的地に向かうのであった。



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