ほのぼの
今日は休日。いつもの日課で早朝に起きておじいちゃんと一緒に運動をする。
子供の頃は中々体力が付かなかったけど、今ではこの時間が楽しい。
時折、おじいちゃんの友達も参加をするんだ。色んな事を俺に教えてくるから勉強になる。
運動が終わると俺がご飯を作る。おじいちゃんもご飯を作れるけど、大雑把で美味しくないからだ。
本人もそれを自覚しているのか、台所は俺に任せてくれる。
しばらくすると玲香が起きて居間にやってくる。
「れ、玲香!? ほ、ほら、おじいちゃんの家だからちゃんと服を着ろって!!」
「んあ? あっ、忘れてた……。うん……、俊樹、着替えさせて……ふがっ……」
玲香は朝が弱い。流石に子供の頃から知っているからといって、薄着の格好は目に毒だ。
俺は手早く部屋着を玲香に羽織らせる。……下はショートパンツだから大丈夫だけど、極力みないようにする。
そして、玲香を洗面所まで連れて行く。
「はい、顔洗おっか。……タオルで顔拭くよ」
「う、ん……、ふが、ふがが、うぅ……」
俺が玲香の顔を拭いてあげると、やっと玲香の意識がはっきりとしてくる。
玲香は伸びをして俺の肩に顔を乗せる。
子供の頃と同じ距離感。……最近はちょっと恥ずかしい。……嫌じゃないけど。
「う、うんんんっ、俊樹、おはよう!!」
「おはよう、玲香」
そうして俺たちはおじいちゃんと三人で朝ごはんを食べるのであった。
こんな日々が俺にとって特別だ。
大好きな人たちと平穏に暮らせる。それだけで幸せだと思う。
このまま年を取って、年齢を重ねて……、いつまでもこんな幸せな生活を送りたい。
「ねえねえ、俊樹、おじいちゃんってラオウに似てるよね?」
「あの漫画のキャラ? ……ああ、凄く似てるな」
「……そいつはイケメンか? わしに見せてくれ」
おじちゃんに漫画を見せる玲香。ラオウを見て満足そうなおじいちゃん。
微笑ましい光景だ。おじいちゃんは坂下さんの娘である玲香を溺愛している。
俺も玲香の事は大好きだ。
……六歳までは毎日のように遊んでいた。だけど、断片的な事しか覚えていない。父さんの件があってショックで記憶が曖昧になったらしい。
「ん? 俊樹、その卵焼き食べないの? じゃあもらっちゃうの!」
玲香が俺に身体を寄せて卵焼きを取ろうとする。
必然的に身体が触れてしまう。
前は全然気にしなかったのに、なんだか今はとても恥ずかしい。
「れ、玲香、い、今は渡してあげるから待っててね」
「はいはい、じゃあ子供の時みたいに食べさせてよ」
アワアワと焦る俺はどうにか箸で卵焼きを掴み玲香に食べさせてあげた。
「ふん、ひ孫が楽しみだ」
おじいちゃんの一言で玲香の顔が真っ赤になった。俺も更に恥ずかしくなって縮こまってしまった……。
おじいちゃんは土日でも仕事で家にいない時がある。
「わし、仕事行く。街にでるなら気をつけて行きなさい」
そう言いながら大きなリュックを背負って家を出るおじいちゃん。俺たちはおじいちゃんを見送って出かける準備をすることにした。
今日は玲香と二人で映画を観に行くんだ。
俺たちは各々の部屋で服を着替える。……俺はファッションセンスが皆無だからこの前玲香に選んでもらった服を着る。洗面所に移動して珍しくワックスを手に取り髪型をセットする。
玲香と一緒に行った美容室のお兄さんに教わった髪型だ。
準備を終えて玲香に声をかける。
「おーい、準備終わったぞ。そっちはどうだ?」
「ちょ、早すぎよ。もう少し待ってて!」
俺は居間でお茶を啜りながら玲香を待つことにした。
そう言えば早川からのメッセージが沢山来ている。
『俺はバイトの時間まで平野と会うことになった』『何故か平野のトレーニングを付き合う事になってる……』『やばい、吐きそうだ。なんで俺ボクシングしてんだよ……』
俺はスマホをそっと閉じた。うん、早川の話は週明けに詳しく聞こう。
中島さんからのメッセージの返信を打ちながら玲香を待つ。
……そういえば、中島さんって早川の事いつも探してるよな。
真島さんと一緒に登下校していた時でも、俺と早川は二人でいる時が多かった。
学校では真島さんとあまり話す機会がない。いつもどこかへ行っていた。
鈍感な俺でもわかる。きっと中島さんは早川の事が気になっているんだ。
みんな恋をするんだな。俺は……真島さんの事が大好きだった。今思うと、それが本当の恋かどうかわからない。
家の階段でドタバタと音が聞こえてきた。
「ごめん、ごめん、遅れちゃった! あ、な、なんかデートの待ち合わせみたいなセリフね……」
「ははっ、家だから遅刻はない……、えっ、玲香? なんか雰囲気が全然……」
スマホをぽとりと落としてしまった。
一緒に出かける時はいつもパンツ姿で男の子っぽい格好なのに……。
今日はワンピースとひらひらした上着を羽織っている。なんて名前の服だかわからない。あれもワンピースで合っているのかさえ不明だ。
ただ、わかるのは……玲香がとんでもなく綺麗だということだ。
「へへん、驚いた? 今日のために頑張ってお洒落したのよ。ほらほら、何か言いなさいよ」
俺は玲香が眩しすぎてまっすぐ見れない。
玲香はそんな俺の態度にご満悦であった。
「意地悪はこのくらいにして時間もあるから早く行こ!」
玲香は座っている俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴んで立ち上がった。
「玲香、すごく綺麗だ」
短い言葉だけど、心のからの本心。
玲香は突然の俺の言葉に焦っていた。
「ちょ、と、俊樹!? あ、あんたがお世辞言うなんて……」
「お世辞じゃない。本当に凄く綺麗だ……」
「う、うん、ありがと。俊樹もカッコいいよ」
「あ、ありがと、じゃあ行くよ」
俺は緊張しながら玲香の手を引っ張る。
今日は俺が玲香をエスコートするんだ。
玄関を出て改めて俺たちは手をつなぎ直して街へと向かう。
横を歩いている玲香を見ると、とても嬉しそうな表情であった。
俺はそれを見ているだけで心を温かい気持ちになる。
安らぎを与えてくれる。
多分、自分でも知らず知らず傷ついていたんだ。
隣の家の窓から視線を感じたけど、俺も玲香も気にしないようにした。
もう真島さんは関係ない。
玲香の笑顔だけが俺の心を埋め尽くした。
……ふと、思い出す事がある。
子供の頃、玲香と手を繋いで野原を歩いている。俺は笑っている玲香の顔が大好きだった。
変な感情が心から湧き上がってきた。真島さんを好きだった気持ちでもなく、家族としての愛情でもなく……、それは俺の知らない気持ちであった。
俺はその気持ちを押し殺さずに感情の流れに身を任せることにした――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます