待ち伏せ
「あ、あいついないよね? ちょっとマジで怖いんだけどさ……」
「今日は早川が一緒に帰るらしいよ」
「そ、そっか……、ふう、驚いちゃったね。はぁ……、一目惚れって意味分かんないよ」
「……れ、玲香は可愛いから……、それにしてもあの平野君って人もイケメンだね」
「と、俊樹の方が断然かっこいいから!!」
「そ、そう、ありがと……」
俺と玲香は後輩である中島さんの部室で遊んでから帰宅することにした。
平野君と帰る時間をずらすためだ。
廊下を歩いていると早川から逐一報告がメッセージで来る。
『こいつやべえよ』『人の話聞いてねえよ!』『……妙に距離が近けえよ』
玲香が無駄な暴力が好きじゃないって平野君が知ると、暴力を振るうのをやめるっと言ってるらしい。
「平野聡ね……、新進気鋭のアンダーグラウンドファイターで、一ヶ月程度で一つ星の一位になった天才ボクサー。元々は競技出身だけど反則があまりにも多すぎて試合に出られなくなった選手。えっと、確か大会前に暴力事件を起こしたんだっけ」
「……玲香、あのさ、平塚先輩の時にも思ったんだけど詳しすぎじゃない?」
「だって、この学校は変な奴らが多いのよ。やばい奴らは調べる必要があるでしょ? それこそ、この学校の生徒会長だってジークンドーの使い手で五つ星の一位なんだから。あっ、七つ星が最高ランクだけど、学生の最上位は生徒会長ね」
……意味がわからない。ここは特殊な学校なのか? 俺はなんて学校に入ったんだ。
「はぁ……、俺はあんまり関わりたくないな。玲香と早川と一緒に平穏な学校生活を送りたい」
「何言ってんのよ、俊樹は魅力的だからみんな放っておかないわよ。あっ、そうだ今週の映画どうしよ……、中島さんも用事があったし、早川は平野君に捕まってるし……」
玲香の声を小さくなる。
俺の中のもうひとりの俺が頭の中で囁いた。
――二人っきりで誘え。男なら勇気を出せ。映画のチケットは二人分しかないんだろ。あの時玲香が残念そうな顔をしてただろ。
真島さんとずっと過ごして、俺は人からの好意を勘違いをしちゃ駄目だと思っていた。
……だけど、玲香は俺にとって大切な幼馴染。
玲香の曇った顔を見たくない。
背中から汗が一気に吹き出す。この前だって二人で遊んだ。デートって言われて驚いたけど、凄く楽しかった。
今まで意識しなかったけど、玲香は凄く可愛い。特に制服姿になって女性らしさが増して可愛さ倍増だ。昔はこんな風に思わなかったのに、呪縛から抜け出した気分だ。
「れ、玲香、あ、あのさ、映画だけど、俺とふ、ふ、ふ、二人で――」
「俊樹、う、うん、二人で……」
そこに誰かの声が俺たちの間に入ってきた。
「おい、澤田無視するな。いちゃいちゃしてんじゃねえよ。くそっ、やっぱムカつくぜ」
横を見ると白い目をした平塚先輩が廊下の壁に寄りかかっていた。
「あーー、愛梨の件の誤解を解こうと思ってな。……あいつはマジでやばい女だな。……わりいお前の幼馴染だったな」
「い、いえ、構わないです。もう幼馴染じゃないです」
「あん? なんだてめえ洗脳から解けたみたいな顔しやがって」
「あ、あはは……」
俺たち三人は学校のカフェテリアでお茶をしながら話すことになった。
平塚先輩は思いの外普通の顔をしている。鼻に大きな絆創膏をつけて、腕を包帯で吊るしているけど。
「あんたクラブのVIPルームで女の子を引きずり込んでたんでしょ? そんな男が今更なんのようなのよ?」
「……確かに俺は悪い噂がある。喧嘩ばかりしてるクズ男だって自覚してる。俺が女を食い散らかすって噂だろ? あれ、嘘だ。勝手に俺に付いてきた女が自分のプライドのために適当に言ってるだけだ」
「はっ? 真島さんの事だって連れて行こうとしたでしょ」
「…………はぁ、面倒だから言いたくなかったが、俺は女に全く興味ねえ。勃たねえんだよ」
「は、はぁぁ!? ちょ、あんた何言ってんのよ! と、俊樹、た、助けて!」
「れ、玲香はちょっと静かにしてようね。笑っちゃいけない大変な病気なんだから。それで平塚先輩、女性に興味ないのになんで真島さんを連れて行こうとしたの?」
平塚先輩はため息を付きながら話し始めた。
「女としては初恋だったんだ……」
……女としてはという発言が気になったが、あまり深く考えずに聞くことにした。
平塚先輩と真島さんの出会いはクラブで踊っている時だった。真島さん……クラブに行ってたなんて……。
真島さんが平塚先輩にタバコをねだるところから始まった。ま、真島さん……。
初めは真島さんの事をいつもみたいな遊び人かと思っていたが、大切な犬が病気になったという話になり、ちょうど飼っている犬が同じ境遇の平塚先輩は共感を感じたらしい。
……俺が平塚先輩に口出しをする。真島さんは今までの人生の中で犬を飼っていない事を伝えたら、平塚先輩はなんとも言えない苦い顔をした……。
と、とにかく、そこからどんどん仲良くなり、初めて女性として真島さんに恋をした。
中々付き合おうとしなかった真島さん。あの手この手を尽くして真島さんを口説こうとした平塚先輩。おかげでアンダーグラウンドファイトの昇格戦に負けてしまったみたいだ。
……それはあんまり興味ない話だからどうでもいいかな。
その頃から自分の精神がおかしくなったと、語る平塚先輩。
「でだ、やっと付き合えたと思ったらお前の話ばかりだし、手下使って調べたら立花のおっさんと二股かけてやがって、それに生徒会長にも色目使ってたぜ……、それで怒り狂ってVIPルームで説教しようと思ったんだ。あいつ、俺の愛犬を馬鹿にしやがって……」
真島さん……、本当に中学の頃と変わらないんだね。
立花はうちの学校の先生だ。おじさんだけど渋くてカッコいいから女子生徒に人気がある。
「……な、なんかごめんなさい。真島さんが迷惑かけました……」
「うるせえ、お前が謝ることじゃねえ。それに、謝る必要があるのは俺の方だ。……澤田、悪かった。お前の親父の事、良くも知りもしないくせに悪く言って。……あの時の言葉は訂正する。お前の親父は犯罪者じゃねえ。正当防衛なんだろ?」
「あっ、平塚先輩……」
「くそ、俺をボコったやつがそんな顔してんじゃねえよ。……俺はお前に感謝してんだよ。……あの打撃を受けた時……俺は、身体が熱くなった。信じられねえくらい興奮したんだ。……なあ澤田……、また戦ってくれねえか?」
平塚先輩? な、なんで俺を見つめて顔を赤くしてるの!?
玲香が俺の手を引っ張って立ち上がる。
「ちょ、あんた変な目で俊樹を見ないでよ! 俊樹、行くわよ!!」
「う、うん、ちょっとまって、最後に」
俺は平塚先輩に質問をした。
「真島さんのほっぺたを引っ叩いたのって平塚先輩? 腫れてたから」
平塚先輩は申し訳無さそうに言った。
「あの時髪は引っ張ったな。お前の幼馴染なのに悪かった。我慢出来なかったんだ。だけど、引っ叩いた事はねえぞ」
「うん、わかった」
空気感でわかった。平塚先輩は嘘を言っていない。
真島さん、君は一体本当はどんな女の子なんだ……?
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