第11話 崩壊する世界

 その日はいつもの日常から始まった。朝日が昇り人々が活動を始める。四月九日。天気は雲一つない快晴。海堂は自室のベットの上に座って一睡もできずに朝日を迎えた。


 海堂が眠ることができなかったのは、今日のいつ決定的な世界の崩壊が起きるか、伊達丸は具体的なことを何も言っていなかったからだ。日付が変わったら起きるのか、それとも太陽が昇ってからか、沈んでからか。眠っていたらいつの間にか世界が崩壊していたなど笑い話にもならない。


 海堂は左腕に着けているスマートウォッチを見る。時刻は午前七時を示していた。あと最低でも十七時間以内に世界の終わりが始まる。海堂は今できることはすでに終えていた。昨日、銭湯で伊達丸が言っていたことを全て退魔局に伝えた。事情を把握した退魔局は海堂から伝えられた情報をもとに作戦を立案するとのことだった。しかし、海堂一人の証言だけでは関係各所を動かすのに時間がかかるらしく早くて正午が限界らしい。世界が終わるというのに何を悠長なことを、とほんの少しの苛立ちはあったが事態は少しずつ良い方向に進んできている。海堂は何もしないまま世界の終わりを待つつもりはなかった。


 伊達丸からの情報を伝えた海堂に退魔局がもたらした情報は奇妙なものであった。あれほど同時多発的に発生した未確認生命体による侵攻が一切なくなったというのだ。その知らせを聞いても海堂は楽観視することはできなかった。伊達丸の忠告もある。嵐の前の静けさなのだろうか。


 海堂は仕事用のスマートフォンを手に取る。着信履歴もメールも届いていない。本当に未確認生命体の出現が止まっているようだ。スマホ片手にベランダに出て街を眺める。いつも通りの風景が広がっていた。学校に向かう学生や会社に向かうスーツを着た社会人。皆当たり前の日常を過ごしている。人々の悲鳴や怒号が耳を叩くこともない。


 いつもの風景、当たり前の日常を見る度に海堂の心に焦りが募っていった。それはつまり世界の終わりとは小さな変化から始まる崩壊ではないことを示していたからだ。伊達丸は拮抗が崩れたと言っていた。なのに今は一件たりとも未確認生命体による黒い亀裂を退魔局は検知することができない。ソトにいるという伊達丸の仲間が未確認生命体を押しとどめているのか。それとも未確認生命体達は一気に世界を食い破ろうと力を溜めているのか。とにかく世界が終わるときは押し寄せる波にさらわれるがごとく全てが一気に無に帰すだろうと海堂は確信していた。


 正午に退魔局の命令が下るまで自室に待機するなんてとてもじゃないが海堂には出来そうになかった。いてもたってもいられなかった。街に出たとして何かあるとは限らない。それでも何か行動がしたかった。海堂は玄関まで歩き取っ手に手を掛ける。扉を開けて外に出ようとして立ち止まった。振り返りクローゼットを見る。そういえばクローゼットにはあれがあった。美代と一緒に買ったあの勝負服が。


「こういう時にこそ着るべきだよな」


 4月特有の薄い青空が広がる。白い朝日がビル群を照らし春の涼しい風が髪を撫でている。

 渋谷の大通りにはまばらに人が行き交っていた。平日の午前七時半。まだ開いている店も少なく学校や会社が始まるには時間が早いといえる。それゆえに人も少なかった。


 海堂は青のデニムジャケットに白のパーカー、黒のスキニーパンツを着てベンチに座っていた。傍からみたら遊びの待ち合わせをしている大学生に見えただろう。だが海堂の顔を見たらそうは思えない。眉間に皺をよせて何もない空間をずっと睨みつけている。通行人は海堂の目の前に来ると足早に去っていった。


 海堂は気が気ではなかった。街に出かけて散策をしても世界崩壊の兆候は何一つとして無かったからだ。これでは対策のしようがない。街の人間を避難させたとして未確認生命体の侵攻を止めなければ人類は滅びてしまう。このまま伊達丸が言った通り人類が滅びるのを黙ってみるしかないのか。海堂の焦りが苛立ちに変わっていったそのとき、スマートフォンが振動した。急いでポケットからスマホを取り出して海堂は通話ボタンを押す。


「もしもし!!」

「うわっ!? 声大きいよ。海堂ー」


 能天気な聞いたことのある女性の声が電話越しに聞こえた。海堂は一瞬言葉に詰まり声の持ち主に思い当たった。


「……美代、か?」

「そうだけど。誰かの電話を待ってたわけ?」

「いや、別に待っていたわけじゃないけど」


 一度スマホから耳を離してスマホカバーを見る。今電話に出ているスマホはプライベートで使っているスマホの方だった。海堂は張り詰めていた気持ちがゆるんでいくのを感じた。いくら身構えたところでこちらの想定通りに相手が動くわけがない。必要以上に緊張しても自滅するだけだ。とくに精神面が強く影響する夢の中では。基礎中の基礎を忘れていた。偶然とはいえ気持ちの切り替えをしてくれた美代に海堂は礼を言った。


「ありがとうな、美代」

「え? 急に何? ていうか海堂、話ちゃんと聞いている?」

「ごめん。聞いてなかった」

「もう! ちゃんと聞いてよね。今日一緒に学校行かない?って言ったの」

「ああ、なるほど。学校、かあ」


 美代がなぜこんな提案をするか海堂はなんとなくだが分かった。黒い亀裂という非日常的な体験をした昨日今日では一人で外に出るのも精神的にきついはずだ。それに海堂は黒い亀裂を追い払った人間。海堂が傍にいれば美代も安心するだろう。出来れば美代の提案に海堂は乗りたかった。


「悪い。美代また今度な」

「っそっか。急にごめんね。電話して」


 ほんの少しだけ悲しそうな声を出す美代。そんな美代に海堂は嫌だから断っているわけではないと説明する。


「いや都合が悪いのは今日だけなんだ。美代さえよかったら明日一緒に登校しないか?」

「……ほんとにいいの?」


 美代は恐る恐る海堂に聞く。


「ああ、美代さえよければだけど」

「わかった! 明日からお願いね」

「任せろ」

「ふふっ。じゃあ学校でね」


 美代は電話越しに楽しそうに笑った。海堂もつられて笑う。


「またな」


 海堂は画面の終話ボタンを押して美代との会話を終わらせた。本当は今まで美代と会うつもりなんて海堂にはなかった。退魔師としてもう一度生きようとした。


 だが美代の声を聞いた途端もう一度会いたいという欲が出てしまった。学校に通って、難しい授業に頭を悩ませて休み時間には友達とたわいのない話をして、放課後には遊びに出かける。そんな欲が心の中から湧いて出てきた。海堂はこの約束だけは嘘にしたくないと思った。絶対に世界を終わらせないと改めて決意する。


「もう一回探してみるか」


 海堂はベンチから立ち上がり街中へと歩き出した。相も変わらず変わり映えのしない街の小さな変化を見逃さないために。



 午前八時。捜査を始めてから三十分程経過した。街中を歩く人の数が多くなってきていた。制服を着た学生、通勤途中の会社員、街に繰り出す大学生。その人ごみの中、海堂は流れに逆らわずに歩いていた。至る所に目を向けるが未確認生命体の発生の兆候である黒い亀裂はどこにもない。まだ歩き始めて三十分、この程度で音を上げるつもりは海堂にはなかった。この状況が変わるとしたら未確認生命体の侵攻か正午に行うという退魔局の作戦かどちらかだろう。そのどちらかが起きるまで海堂は探し続けることに決めていた。


 ピシリとガラスが罅割れるような音が鳴り響いた。海堂は立ちどまって耳を澄ます。海堂以外にも聞こえたのか何人かが辺りをキョロキョロと視線をさ迷わせ音の出所を探していた。


 ピシリとまた音が響く。今度はさっきよりも大きく甲高い音だった。多くの人が立ち止まり辺りを見回す。


「ねぇ、何か聞こえた?」

「聞こえたー。何か割れたのかな」

「ガラスか何かじゃねえの」

 

 異音を聞いた人々がそれがガラスが割れる音と誤認した。突如日常に割り込んできた音の正体を身近なものに当てはめていく。音の正体に当たりをつけた人は何事もなかったように歩き出す。だが海堂にはこの音の正体が分かった。分かってしまった。これが世界の終わりの始まりなのだと。海堂は足早に目的の場所を探す。その間にも異音は鳴り続けている。音だけではない目に見える現象も現れ始めた。

 

 街中の至る所に黒い亀裂が生じ始めた。草木が蔓をのばすように空間の一点を中心としてガラスがくだけるような音とともに空間に亀裂が走る。今まで異常に気づかなった人々も流石に現状がおかしいことに気づき始めた。


「すごーい!なにこれ」

「やめなって。危ないよ」

「何?映画の撮影か何か?」


 海堂は不可思議な現象に立ち止まって驚いている人達の脇を通り過ぎていく。今すぐにでも未確認生命体を送還したいが場所が悪い。道のど真ん中で眠ることなんてできない。なんとしても眠る場所を確保しなければならなかった。そのあいだにも時間は無情にも過ぎていく。黒い亀裂は一つや二つでは収まらなかった。周りを見渡すだけでも十数個。それぞれが亀裂を拡げていく。


「……何これ。やばいって逃げよ」

「う、うん」


 誰かが早足でその場から逃げ出す姿を見て周囲の人間に恐怖が伝播していく。


「何かいた! 何かいたよ!? 亀裂越しにこっちを見てた!!」


 その叫びが決定的だった。その声に弾かれたように街中でパニックが起こり人々が逃げ惑う。秩序が乱れた人々の群れを縫うように海堂は進んでいくしかなかった。この辺りは両脇に店が立ち並んでおり横道や路地がなく一方通行のみとなっていた。前に進むか後ろに下がるかの二択しかない。

 

 パニックに陥った人々はとにかくこの場所から離れようとした。海堂は無秩序に散らばる人の波を避けようとする。だが我武者羅に動こうとする人の動きを読み切ることは出来なかった。足を踏まれたり、服を掴まれよろめきながらも前に進んでいく。人にぶつかりつつも海堂は道の側にあるベンチに座ることができた。


 急いで呼吸を落ち着かせる。人々の叫びや怒号も自分の脳からシャットアウトする。頭の中をめぐる雑念を消していく。今は人々の安否や世界の終わりなどといったことは考えなくていい。頭を空っぽにして真っ白な世界を思い浮かべる。ほんの一瞬だけでいい。一瞬意識を失うことができれば未確認生命体と戦うことができる。


 しばらくすると丸一日分の眠気が押し寄せてきた。頭が重く重心がふらつく。意識が遠くに。深く深く沈んでいく。



 海堂は森の中で目を覚ました。広葉樹の森林。自身の何倍の高さの木が視界全てを覆っていた。しかし森特有の葉と土の匂いが感じられなかった。そもそもこの夢の世界で海堂は匂いらしい匂いを嗅ぐことができなかった。おそらくこの世界がまだできたばかりだからだろう。あの黒い亀裂が発生してから間もない。未確認生命体の役どころか夢もまだまともに形になっていないのが分かった。


 海堂は右手の指で音を鳴らす。音が鳴ると右手が炎に包まれた。燃える右手を大きく振りかぶる。


「悪いが律儀に探すつもりはない。こっちは急いでいるんだ。とっとと燃えろ」


 右手を大きく水平に振るう。炎の鞭のようにしなり海堂の前方の木々を燃やす。


「ガァァァ!!?」


 燃やした木々の間に潜んでいたのか一体の未確認生命体が燃えながら飛び出してきた。それは墨汁で描かれたような真っ黒な体をしていた。大きさは人間サイズ。手足が六本ある異形であった。全身を炎に包まれながら海堂に襲い掛かろうとする。


 海堂は未確認生命体に向けて右手の指を鳴らす。未確認生命体を包む炎は一層激しさを増していきナニカはその場で倒れ伏した。海堂は炭と化した未確認生命体を見つめる。


 海堂の後方からもう一体の未確認生命体が飛び出した。加速しながらナニカは体当たりで海堂を吹き飛ばそうとする。海堂は目線だけを後ろの方にやり冷静に左手の人差し指を回す。未確認生命体と海堂の間に一枚の玄関扉による壁ができる。未確認生命体の突進は海堂が創造した玄関扉によってあっけなく防がれた。


 海堂は勢いよく自分の方に飛んでくる玄関扉を消しつつ動きが止まったナニカに向かって駆け出していく。思い浮かべるのは家族を失ったあの火事。煙と焦げた匂い。自分自身の泣き声。全てを鮮明に思い出す。海堂の右手は赤黒い炎の纏う。ふらついている未確認生命体に向かって海堂は右の拳を叩きこんだ。未確認生命体の胸に拳大の穴が開く。ナニカは膝をつき倒れこんだ。


 海堂は未確認生命体を二体倒したが油断なく周りを警戒する。退魔局の未確認生命体のカテゴリ―分けはもう意味をなさないと海堂は考えていた。一つの現場に一つの黒い亀裂。その前提があってこそのカテゴリー分け。最悪の場合、十数種類の未確認生命体との連戦がありえた。警戒を続ける海堂の周囲が白み始めた。夢が終わる兆し。結局この夢では未確認生命体は二体のみであった。このまま夢が覚めるかそれとも別の夢に飛ぶか。夢見る直前に見たすべての黒い亀裂を送還しようとする海堂には大した違いはなかった。


 まぶたを上げる。海堂は眠るために腰を下ろしたベンチにいた。ベンチの表面を撫でる。木のザラザラとした感触があった。ただの夢ではない。本当に現実に帰れたのだろうかと海堂は思った。海堂には目の前の光景を現実と断言することができなかった。


 なぜなら先ほどまで逃げ惑っていた人々がごっそりと周りからいなくなっていたからだ。全員が逃げられたのだろうか、それならばいい。だが人の声も人の気配も微塵も感じることができなかった。それだけではない。さっきまであった十数もの黒い亀裂が一つもなくなっていた。誰かに送還されたのか、もしくは完全受肉してしまったのか。海堂に判断することは出来なかった。


 海堂はベンチから立ち上がり、周囲を見渡しながら街を散策する。近くに誰かもしくはナニカがいるかもしれない。歩きながら海堂は現状の把握に努めた。まず街の人達と黒い亀裂についてだが短時間で全ていなくなるというのありえない。避難して周囲に人がいないというのはまだわかる。だがここまでに電車の音や店のコマーシャルといった生活音が聞こえないのはどういうことだろうか。


 黒い亀裂に関してはあれほどの数をほんの短い時間で送還するのは不可能だと考えた。海堂は自身が行える最短時間の送還で戻ってきた。睡眠を行うことで未確認生命体と接触して送還し、目覚めてこの場から撤収する。一連の流れを海堂が目覚める前に完遂する必要がある。どう考えても時間的余裕がない。なら完全受肉したのか。これも違うと海堂は頭の中で否定する。多くの一般人が傍にいたとはいえ、あれほどの亀裂の数すべてが受肉したとは考えづらい。以上のことから海堂は結論を弾き出す。


「なにもわかんねぇ」


 現状なにも打つ手がなかった。人が消え黒い亀裂も消えてしまった。これが伊達丸が言っていた世界の終わりなのだろうか。頭をよぎる最悪の想像に海堂はかぶりを振る。沈んでしまいそうになる自分の心を落ち着けるため空を仰ぐ。


 最大の異変は空にあった。空を覆うように巨大な黒い亀裂が走っていた。まるで空を描いた天井画に罅が入ったかのようだった。


「な、なんだよ……。あれ」


 海堂は思わず呆けてしまった。いくつもの黒い亀裂を見てきた海堂ですら思考に空白が生じてしまうほどの規格外の大きさ。目測でいえば渋谷の街全てを覆い尽くすことができるほどありそうであった。


 夢見る前にいた人や黒い亀裂がなくなったのはあれが原因か。海堂は止まりそうになる思考を働かせる。とにかく今起きている辻褄があわない現実はあの規格外な亀裂が原因とみていい。ならばどうするか。もう一度眠ってあの空に浮かぶ黒い亀裂をつくっている未確認生命体を送還するべきだろう。


 海堂は空に浮かぶ黒い亀裂を注視する。白銀の鎧を纏った巨人のときもそうだったが比較対象がない巨大なものはどうも距離感が掴めなかった。自分が思っている以上に亀裂との距離は開いているのかもしれないと海堂は思った。より高い場所で眠る方が確実だろう。この渋谷で一番高い場所。思い当たる場所がひとつだけあった。その場所に向かうため海堂は駆けだす。足取りに迷いはない。既に行ったことのある場所だったから。



 渋谷スクランブルラウンジ。先週美代と出掛けた大規模複合施設。海堂はその一階の正面入り口に立っていた。ガラス張りの壁から覗ける中は明かりがついておらず暗く、電気が通っているか怪しかった。


「ここまで来たけど入れるのか、これ」


 恐る恐る海堂は自動ドアの入口に近づく。無機質な自動ドアは来訪者を検知して入口を開いた。そのまま海堂は施設の中に入る。外から見た通り中は暗くガラス越しの日の光が入っているのみだった。こういった施設は非常用の発電機があるので今はそれがかかっているのだろう。それにしても明かりがついていないのはどういうことだろうか。訝しげになりつつも海堂は入口の脇にあるエレベーターで上階に行こうとボタンを押す。エレベーターの扉が開き中に入る。十四階のボタンを押す。屋上に行くためにはもう一つのエレベーターを乗り換えなければならない。扉が閉まりエレベーターは海堂を乗せて上へと昇っていく。


 海堂はようやく落ち着けると思い壁に背を預け息を吐く。ほんのわずかな休憩時間。この先戦うことは分かっているのだから休めるときに休むべきだ。そういえばと海堂は退魔局から連絡がきてないことを思い出した。思いがけないことの連続であったため失念していた。スマホを取り出してスリープを解除する。スマホのアンテナは圏外を示していた。


「これもあの亀裂のせいか?」


 また一つありえない現象が起きて海堂は頭を抱えたくなる。黒い亀裂が電波を妨害するなんて聞いたこともない。分析課にいる先輩なら理屈が分かるのだろうか。そんなことを考えているうちにエレベーターが十四階に到着した。今はとにかく屋上に行くことを優先するべきだと海堂は気持ちを切り替え、乗り換えようとエレベーターから降りて奥へと進んでいく。



 海堂はエレベーターを乗り換えエスカレーターに乗り最上階に到着した。そこから屋上につながるデッキに出る。海堂はガラス越しに街を見下ろす。やはり人の姿は見えなかった。この東京で見渡す限り人っ子一人もいない。やはり何かが起きていると海堂は改めて思った。海堂は上を見上げる。相変わらず巨大な黒い亀裂がそこにはあった。ただ地上から見たときと比べて大きく見える。ということはつまり想定していたよりも地上との距離が近いのだろう。ほんの少しだけ活路が見えてきた。


 海堂はエスカレーターを駆け上がり屋上に向かった。事態を解決するために急ぐ海堂の足が止まる。屋上には見知った人物がいた。今起きている問題を解決するために奔走しているであろう人物。だがここにいるとは海堂は予想もしていなかった。いや、それ以上に姿


 後ろに立つ海堂の気配に気づいたのか女性は振り返る。黒い大きな瞳が海堂を見ていた。


「遅かったですね。海堂君」


 早乙女美幸の姿がそこにはあった。

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