第8話 白銀の巨人

 黒い太陽が吠える。音の衝撃が海堂達に襲い掛かる。もはやそれは爆発だった。海堂は慌てて玄関扉を閉める。生物の声と認識できないほど低く重い叫び。ただの声だけで急ごしらえの階段が揺れて二人はふらついてしまう。


「やはり、黒い太陽が今回の未確認生命体でしたか。特大のカテゴリーBな上に上空で待ち構えているとは。相性によっては何もできず完全受肉を許すことになりますね」


 壁となっている扉の一つに手をつきながら早乙女はナニカについての予測が当たっていたことを告げる。早乙女の状況把握の速さに海堂は舌を巻いた。状況をよく見て的確な判断を下すのは海堂が尊敬している早乙女の美点の一つである。もちろん手放しで尊敬できない点も多々あるが。


「悔しいですが先輩の言う通りです。俺は先輩が来るまで状況を変えることすらできませんでした」


 海堂は早乙女が来てくれたことに思いかけず安堵の気持ちになってしまった。先輩が来るまで何もできなかった自身の未熟さと先輩が来てほっとした心に唇を噛む。


 壁から手を放しつつ早乙女は悔しがる後輩に含み笑いをしながらフォローを入れる。


「構いません。現状一人で捜査に当たるのも可能となっていますが、本来は二人一組でお互いの短所を補いながら戦うのが退魔師の基本です。私の短所をあなたが、あなたの短所を私が埋める。そこに申し訳なさは必要ないですよ」


 あれだけ嚙みついて、突き放して一人未確認生命体の送還に向かった自分を気にかけてくれている。そんな先輩の優しさに謝罪するのは違うと思った。あふれ出る気持ちをそのまま早乙女に海堂は伝えた。


「……そうですね。俺が先輩に申し訳ないと思うのは間違いでした。来てくれてありがとうございます。先輩」


 感謝の言葉を口にする海堂に早乙女はぎょっとした顔してその後、顔をゆるめた。


「……見ない間に本当に素直になりましたね。驚きです」

「人の感謝にいちいち驚かないでください。恥ずかしくなってくる」


 褒める早乙女に海堂は気恥ずかしくなり顔を逸らす。


「ふふっ、男子三日会わざれば刮目して見よ。確かにその通りです」

「もう無駄口は叩かないでください。とっととけりを着けましょう。」


 自分と違い先輩は正直すぎる。思ったことをそのまま口に出すこの先輩の誉め言葉は受け止めるのはまだ時間がかかりそうだと海堂は思った。気持ちを切り替えて玄関扉の取っ手に手を掛ける。


 早乙女が入ったということはこの夢の世界に現実の住人が二人いるということになる。つまり未確認生命体が現実世界に侵入するために必要な知識や情報を吸い出す餌が二つになった。

 

 意識的に未確認生命体に対して正体を考えまいとしても無意識のうちにナニカを現実の何かに当てはめてしまい、未確認生命体の不確かな存在を補強することになる。人数が増えれば増えるほどナニカが現実の何かになる時間は指数関数的に早くなっていく。故にお互いの弱点を補うことができる最低限の人数、二人でことに当たらなくてはならなかった。二人という少ない人数ではあるが当然一人よりも時間的猶予は短くなる。


「ええ、ここから先は未確認生命体の完全受肉までの時間は速くなっていきます。気張っていきましょう」


 早乙女は海堂の隣に立ち喝を入れる。それに応えるかたちで海堂は勇んで叫ぶ。


「はい!」


 海堂と早乙女の二人は玄関扉を開けて外に出る。海堂は見上げつつも落ちてくる岩から身を守るために先ほど同じ要領で屋根を造った。造った屋根の扉を引いて開け、真上の空を見られる状態にする。玄関扉よりも岩の方が直径が大きいので岩が扉を通過する心配もない。しかも玄関扉は海堂がイメージする傷一つつかない鋼鉄の扉。扉の外枠しかなくとも岩を防ぐのは容易だった。


 海堂は空を見上げ黒い太陽を凝視する。変わらず空に鎮座するナニカ。前と変わったのはナニカを取り巻く大きな輪ができていたことだった。まるで土星の輪のようなそれは鳥の群れ。早乙女が夢の中で生み出したものである。


 早乙女の送還方法は鳥葬。大量の鳥に未確認生命体を襲わせ少しずつ肉を削いでいく。ナニカが上空にいる場合やカテゴリーDといった無数のナニカに対して無類の強さを誇っていた。


「未確認生命体の傍に待機させておいた群れに一斉に襲うよう指示を出します。上空から引きずり下ろしますが、あの未確認生命体がどれくらいの質量を持つか分かりません。ですが衝撃はさっきの比ではないでしょう。準備はいいですね?」

「……問題ないです。いつでもどうぞ」


 早乙女は今後の方針と問題点を海堂に伝える。海堂は一呼吸おいて早乙女に次の行動を促した。


「では」


 早乙女が指笛を吹く。

 

 ナニカの周りをまわっていた鳥たちが音に反応して一斉に動き出し、まるで砂糖に群がる蟻のようにナニカを覆い始めた。


 鳥に啄まれる苦痛からか、ナニカはもう一度音の衝撃波を繰り出した。ナニカにとってはただのうめき声かもしれないがナニカより遥かに小さいもの達にとってそれは声ではなく音の津波ですらあった。思わず膝をついて耳を塞ぐ海堂と早乙女の二人。海堂が歯を食いしばりながら太陽をにらみつける。黒い太陽に群がる鳥の群れは半数近くにまで減ってしまっていた。


 鳥という生物を想像して夢の中で真に迫る形にするのは並大抵の想像力では出来ない。夢の中で揺らがず自身の命を預けるに足る武器になるまでどれほどの時間がかかったのだろう。本物と遜色ないほどの創造物。それが今回裏目に出てしまった。黒いい太陽が涙を流すかのように地上へと鳥がぽろぽろと落ちていく。音の爆撃を間近に受けたのだから無理もないことだった。だがまだ半数の鳥が持ちこたえていた。

 それを目にした海堂が爆音にかき消されないように声を大にして叫ぶ。


「先輩!!!」

「分かってます!」


 早乙女が追い打ちをかけようと指笛を吹く。音がかき消されようと構わない。ここは夢の中、行為自体が重要になる。聞こえない笛の音が鳥の群れに届く。秩序を失くして混乱していた群れが一つの意思によって再びまとめられ太陽に襲い掛かる。生物の恐怖心など存在せず与えられた命令を忠実に遂行する。本物の鳥ではなくあくまで夢の創造物。その本質はプログラミングされた動きを実行するロボットに近かった。


 啄み喰らい尽くそうとする無機質な鳥の群れと蝕まれていく体に悲鳴を上げる未確認生命体。巨大な一つの生物と小さな生物の集合体。少しずつ、少しずつお互いを削り合っていく。だが均衡は巨大な未確認生命体に傾いていた。啄まれても余りある巨体に群れの半数近くを一度に減らした音の衝撃波。ナニカは絶え間なく叫び続けている。その叫びによって目視で確認できる範囲で群れの規模が縮小しつづけていた。


 このまま未確認生命体を引きずり下ろすことはできないのかと海堂は焦る。そんな海堂の目の前でナニカに傾いていた均衡が逆転する。太陽が震えたかと思うと徐々に大きさを増していった。正確に言うならば地上に近づいてきた。鳥の群れは早乙女に与えられた命令を遂行した。太陽を引きずり下ろすことに成功したのだ。


 自身の体を歪ませながら太陽は空から落ちてくる。先輩が自分の仕事をきっちりと果たしたのだから今からは自分の番だと海堂は精神を集中させる。左手の人差し指をくるくると回す。鳥が落ちている場所から曖昧だった太陽の位置を把握した。その場所に巨大な鋼鉄の山脈を玄関扉で造り上げる。何百、何千もの扉を即座に造り出して積み上げていく。未だ叫び続ける未確認生命体の悲鳴に眉をしかめながらも海堂は素早く作業をこなす。少しでも黒い太陽の勢いを削ぐために。


 黒い太陽と鋼鉄の山が衝突する。巨大な質量の加重によって山が崩れていく。海堂は崩れても構わないと思った。未確認生命体を止めることは出来なくても良い。地面に衝突したときこちらに被害が及ばないようにできれば上出来である。


 鋼鉄の山脈に不時着した未確認生命体は使。ナニカは太陽ではなかった。胎児のように手や足を抱えながら機が熟すのを待っていたのだ。

 

 ナニカの体表には銀色と肌色がキャンバスに水気交じりの絵の具を塗るように拡がっている。その色の変化が顕著に表れているのは頭の部分だろう。黒いのっぺらぼうの表面に醜い男の皮が張り付いていき、その男の顔に覆いかぶさるかのように銀色の兜が水のように揺らめいている。黒い太陽ではなく銀の鎧を纏った巨人。それが今回の未確認生命体が選んだ何かであった。だがまだ不完全もいいところで巨人に変化しているのは全体の二割程度。完全には程遠い姿であった。太陽のない青空が巨人の兜を白く輝かせる。いつの間にか岩の雨が止んでいた。


 海堂にとって今回の未確認生命体が模った姿が太陽ではなかったことは好都合だった。以前の任務のように早乙女の足を引っ張らないで済むと安堵した。海堂は右手の親指と中指をこすり合わせながら未確認生命体の頭にピントを合わせる。玄関扉をその場所に創造できたということはそこはもう炎の射程圏内であるということ。


 海堂は指を鳴らした。直後、巨人の頭が発火した。炎は未確認生命体の頭を飲み込んですべてを焼き尽くし灰にしようとする。立ち上がろうとしていたナニカではあったが苦し紛れに手で顔を守ろうとした。

 

 海堂は巨人の手が燃える顔に触れた瞬間もう一度指を鳴らした。巨人の両手が顔とともに燃え上がる。痛みに悶えているのか頭を振り乱している。あの衝撃波はもう来ない。おそらく深く息を吸い込もうとして喉を炎にやられたのだろう。声が出せなくなっていた。


 未確認生命体は駄々をこねる子供のように両腕を振り回し地面に叩きつける。大地が割れ衝撃が伝播していく。岩が飛び上がり海堂達が立っている階段が揺らぐ。


「まずっ!!」


 海堂は急いで襲い掛かる岩雪崩を壁を造り防ごうとする。しかし足場がもたなかった。階段が崩れ落ち、落下していく二人。そのまま岩の津波に飲み込まれていった。



 何秒気を失っていただろうか。海堂は岩に押しつぶされている状態で目を覚ました。岩の雪崩に巻き込まれたのだろう。視界が暗く身動きがほとんどとれなかった。動かせる両腕を使い岩を持ち上げ隙間をつくる。隙間をつくれば海堂にとって十分。玄関扉を割りこませ岩を弾き飛ばす。浅いところで押しつぶされていたので簡単に這い出ることができた。辺りを見回して岩の雪崩に巻き込まれたであろう早乙女を探す。


「先輩!どこですか!」


 もしかして深いところまで沈んでしまったのかと顔を青ざめさせる海堂。何か探す手掛かりはないかとあたりを注意深く探す海堂の頭上から声が掛かる。


「こっちです」


 上を見上げる海堂に何羽もの大きな鷲に掴まれて宙に浮かぶ早乙女がいた。まるで捕食されそうになっていて様になっていない姿だった。それでも無事を確認できたことで海堂の顔に喜色が浮かぶ。早乙女が口笛を吹くと鷲が足を放し早乙女を降ろす。


「流石に面倒な相手ですね。あれほどの大きさとなるとどんな行動も攻撃となってしまう。私の攻撃では致命傷を与えられないとなるとあなた主体の送還でいくのが良いですね。現に効いているようですし」


 早乙女が未確認生命体のほうへ指をさす。海堂は振り返って巨人を見る。巨人の頭と両手が煙を上げていた。未確認生命体の醜い男の顔の部分は焼け爛れ、兜も黒く変色している。両手も爛れていてまともに握ることすらできないであろう。


「そうですね。炎が効く未確認生命体で良かったです。もしナニカの役が太陽だったら手も足も出なかったと思います。先輩のおかげで炎が届く距離に落ちてくれたことですし。まずはあいつの目を潰します」


 手で顔を押さえている巨人に向かって海堂は連続で指を鳴らす。響く音に連動して未確認生命体の頭部が炎に包まれる。ナニカは声のない悲鳴を上げる。炎をくべる誰かがいることは分かっているのだろう。炭と化した両腕を我武者羅に振り回す。鋼鉄の扉で出来た山脈が削られ玄関扉が砲弾と化す。海堂達がいる方向にも何十枚もの玄関扉が打ちあがり山なりに降り注ぐ。


「海堂君」

「分かってますよ」


 海堂が左腕を水平に振る。降り注ぐ鋼鉄の扉が霞となって消える。海堂達は一歩も動くことなく攻撃を無力化した。ここは夢の中、自分が生み出したものなら消すこともまた容易だった。


「お前の足元のそれは武器としては使えない。どこまでいってもこっちのものだよ」


 耳と目がつぶれているであろう未確認生命体に海堂は独りごちる。巨人は今もなお鋼鉄の山を削り玄関扉を放り投げる。敵の場所が分からずただ暴れるのみ。


「未確認生命体に俺が近づいてとどめを刺します。先輩はかく乱をお願いします」

「分かりました。気を付けて」


 海堂は鋼鉄の階段から飛び降りる。六十メートルの高さから落ちていく。海堂は左腕を振って落下地点に玄関扉を四枚敷いた。岩でできた不安定な足場を玄関扉で均す。海堂は空中で姿勢を直して足元から着地する。扉が重さと勢いで少し沈む。やはり硬さが不均等の岩の層だと安定しないのかぐらついて少しだけよろける。


「おっと」


 高さ六十メートルから落ちたと思えないほどの呑気な声を出す。海堂には落下の痛みはなかった。この夢が現実に到達するのにまだ時間がかかっているようだ。未だ形を成すことが出来ていない体を鳥の群れに食い千切られ、ようやく形を成した部分が炎によって炭と化した。致命傷を与えることはできていないが未確認生命体への妨害は確実に成果が出ていた。


 ローファーのつま先で床代わりの玄関扉を数回小突く。皮靴の硬く子気味良い音が鳴った。海堂はそのまま右足を後ろに伸ばして体を前に傾ける。逆の足で玄関扉を踏み締め力を溜める。傾けた体が前に倒れ込みそうになる。倒れる限界まで体を前のめりに。

 

 まだ。


 まだ。


 今。


 力一杯引っ張られ放たれた矢のように爆発的な速度で駆けていく。踏み出した足元に玄関扉の道を作りながら未確認生命体へと一直線に向かっていく。常人には出せない速度。だが夢の中でなら体は羽のように軽く、脚は豹のように強靭に。


 一秒前より速く、速く。


 今まで道を遮るように降り続いていた岩の雨はもう止んだ。道は開けている。


 数メートル。数十メートル。数百メートル。走れば走るほど巨人の体は大きくなる。正確には近づけば近づくほど未確認生命体の本来の大きさが分かってきた。目測で全長およそ三キロメートル。腕の長さだけでも一キロメートルは優に超えている。文字通り山のような生物。その巨体が玄関扉の山脈に覆いかぶさる形で這いつくばっている。身体が伏せていてもその巨体は山のような大きさだった。


 未確認生命体は駆ける海堂には気づいてはいなかった。ナニカは顔を片手で隠してもう片方の腕を空中に振り回す。早乙女が創造した鳥の群れが巨人の周囲を傷ついた獲物が弱まっていくのを待つかのように飛び回る。時折、急降下して未確認生命体の体を啄んでいく。それを振り払おうとするが小さすぎる鳥の体を捕らえることができないようだ。振るう腕や手が纏う空気の流れに逆らわず鳥は飛翔する。早乙女のかく乱はうまくいっているようだ。


 海堂は右手に炎を纏う。海堂の脳裏には自分の家や家族、何もかも奪い燃やし尽くした大火が浮かぶ。立ち昇る黒煙。焼け落ちていく自分の過ごした思い出の家。それを呆然と眺めていた幼い自分の頬を火照らせる熱さ。鼻腔に焼き付いたかのように取れない焦げた匂い。

 自身のトラウマを思い出す海堂の右手の炎は赤黒く変色し煙を上げていた。


 ただの想像の炎では表面を焼くだけでこの未確認生命体は送還できない。全てを焼き尽くし灰にする炎が必要だった。故に海堂は自身のトラウマを想起した。全てを燃やし尽くす炎。想像ではなく過去。決して揺るがないと負の信頼を置いている武器。海堂はそれを燃えることのない扉の山に居座る巨人にぶつけようとしていた。体のどこでも良い。触れば全てを燃やす。


 未確認生命体との距離がさらに近づくと暴れる巨人の振動で岩の地面が波のように上下に揺れる。海堂は一直線に走り抜けるのを止めた。勢いはそのままに足場が高くなったと同時に跳んだ。ここは夢の中、羽のように軽い身体で放たれた矢のように駆けて、持ち上がった岩の勢いを上手く利用して高く跳び上がる。それは夢の中でしか起こり得ない高い、高い跳躍だった。高さは巨人の顔と同じ。距離は巨人の懐まで。あとは未確認生命体の体のどこでもいい。触れば勝ちだと海堂は油断した。


 巨人が群がる鳥を振り払おうと一際強く腕を振りおろした。腕の勢いは消えずに岩が積み重なった地面を叩く。巨人の腕が深く沈んでいく。岩の層が波打ち、表層の岩を砲弾のように打ち上げる。跳んでいた海堂はその岩の一つに衝突してしまう。


「がっ!?」


 壁を創造して防ぐことができなかった。衝撃で身体が無秩序に回転してより高い上空へと吹き飛ばされる。空と地、上と下が交互に激しく入れ替わる。海堂は自身が吹き飛んでいる方向に玄関扉を創造し、ぶつかることで回転の勢いを殺そうとする。


 しかし、不規則に回転する視界ではどの方向に飛んでいるか把握することは容易ではなかった。明後日の方向に玄関扉を創造してしまう。何もできないまま時間だけが過ぎていく。そうして一瞬感じる無重力感。ようやく回転の勢いが弱まり、海堂は目の前の景色を見ることができた。どこまでも澄み切った青い空。戦いの最中であることを忘れてしまいそうになるほどの美しい景色。夢の中でしか見ることのできない風景。それが海堂の心を落ち着かせる。冷静になった海堂は落下する角度を調整することで巨人を頭上から強襲するやり方を思いつく。


 身体がゆっくりと反転する。海堂は地上にいるであろう地に伏せる巨人と向き合う形になる。海堂は地上に目をやる。早乙女の鳥の群れに翻弄される巨人の姿などどこにもいなかった。そこにいたのは鳥に体を貪られようがお構いなしに空を睨みつける巨人の姿。巨人の顔の半分は焼け焦げている。だが、先ほどにはなかったもう半分の顔の目が空を見ていた。傷だらけの巨人が睨みつけているのは自分だと海堂は直感した。


 巨人の顔が近づく。一回り、二回り大きくなっていく。向こうからやってくるなら好都合だと海堂は炎を纏った右手を伸ばす。徐々に距離が縮まっていく人間と未確認生命体。巨人が海堂の予想を超える行動をとった。口を大きく開いたのだ。


「なっ!?」


 そのまま巨人の口へと海堂は吸い込まれていった。

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