第89話 飾邪 5

荊恭王與晉厲公戰于鄢陵,荊師敗,恭王傷。酣戰,而司馬子反渴而求飲,其友豎谷陽奉卮酒而進之。子反曰:“去之,此酒也。”豎谷陽曰:“非也。”子反受而飲之。子反為人嗜酒,甘之,不能絕之於口,醉而臥。


 楚の恭王と晉の厲公が鄢陵で戦い、楚が敗れ、恭王は負傷した。戦いがもっとも激しかったとき、司馬の子反が水を求めたところ、その友である谷陽は酒をさしだした。子反は「下げろ、酒ではないか」と言ったが、谷陽は「酒ではない」と押し切り、飲ませた。子反は酒好きであったから、ひとたび飲まされたらあとはへべれけに酔い、眠ってしまった。



恭王欲複戰而謀事,使人召子反,子反辭以心疾。恭王駕而往視之,入幄中,聞酒臭而還,曰:“今日之戰,寡人目親傷。所恃者司馬,司馬又如此,是亡荊國之社稷而不恤吾眾也。寡人無與複戰矣。”罷師而去之,斬子反以為大戮。


 恭王がリベンジを図るための作戦会議を開こうと、子反を呼ぶ。やらかしてしまった子反は参上を断ったが、何があったのかと疑った恭王、自ら車に乗って子反の元に出向いた。テントの中に入れば酒の匂いがする。「今日の戦ではわし自ら目にけがを負うほどであったというのに! これでは子反に頼るしかないと思っていたのだが、その子反がこれだ! ならば楚国が滅んだところで、我が国の民の行く末を憂えるものなぞ誰もおるまい! もはやどこにも戦う意味なぞない」と軍を引き、子反については斬り殺した上で見せしめとした。



故曰:豎谷陽之進酒也,非以端惡子反也,實心以忠愛之,而適足以殺之而已矣。此行小忠而賊大忠者也。故曰:小忠,大忠之賊也。


 谷陽が酒を進めたのは、別に子反が憎くて貶めようとしたわけでもない。ただ友人を愛し、友のためを思って進めたまでに過ぎない。しかしその結果、友人を殺す羽目に陥った。これなどは小さき忠心が大いなる忠心を損ねた実例である。「小忠は大忠の賊」と語った所以である。



若使小忠主法,則必將赦罪,赦罪以相愛,是與下安矣,然而妨害於治民者也。


 小忠の者に法律を操らせると、罪あるものを許し、あまつさえ愛情を注ごうとする。このように下々となれ合ってしまえば、民を統治することなど到底叶わない。



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