第87話 飾邪 3

古者先王盡力於親民,加事於明法。彼法明,則忠臣勸;罰必,則邪臣止。忠勸邪止而地廣主尊者,秦是也;群臣朋黨比周以隱正道行私曲而地削主卑者,山東是也。


 昔の人君は民の慰撫に力を尽くした上、統治のために法を明らかとした。王の定める法が明らかであれば忠臣らが活性化し、罰が明確化すれば奸臣たちが勢いを衰えさせるものである。こうして国土は広がり王の威厳は高まった。まさしく、秦のことである。一方で群臣が結託して正しき道筋を王の目からくらませ、国土を削り王の威厳を剥落させた国々がある。山を越えた平原の国々である。



亂弱者亡,人之性也;治強者王,古之道也。越王勾踐恃大朋之龜與吳戰而不勝,身臣入宦于吳;反國棄龜,明法親民以報吳,則夫差為擒。故恃鬼神者慢於法,恃諸侯者危其國。


 乱れ、弱れば滅ぶ。人の世の定めである。統治され強まれば王者ともなる。古の常道である。越王勾踐は大朋に戦勝の結果を占わせた上で呉に挑み、敗北した。このため呉の臣下になることを甘んじたが、ひとたび帰国し、占いを捨て法をあきらかとし民に親しんだ上で呉に報復し、今度は夫差を捕らえることに成功した。超常的なものに頼ろうとするものは法の運用が緩くなる。また周辺諸侯の威勢に頼ってばかりでおれば、結局周辺諸国からの蚕食を受け、国を危うくする。



曹恃齊而不聽宋,齊攻荊而宋滅曹。邢恃吳而不聽齊,越伐吳而齊滅邢。許恃荊而不聽魏,荊攻宋而魏滅許。鄭恃魏而不聽韓,魏攻荊而韓滅鄭。今者韓國小而恃大國,主慢而聽秦、魏,恃齊、荊為用,而小國愈亡。故恃人不足以廣壤,而韓不見也。


 曹が齊の威を借りて宋に歯向かったところ、齊が楚を攻めている間に宋よりの攻撃を受け、滅んだ。邢が吳の威を借りて齊に歯向かったところ、吳が越より攻められている間に齊よりの攻撃を受け、滅んだ。許は楚を頼みに魏に歯向かったところ、楚が宋を攻めている間に魏に滅ぼされた。鄭は魏を頼みに韓に逆らったところ、魏が楚を攻めている間に韓に滅ぼされた。そして今の韓は国土を大いに削られた状態で秦や魏に甘えた状態でありつつ、また齊や楚の走狗ともなっている。小國がますます亡びに近付いている、と言えよう。つまり他者に甘えていては国土を広げることなど叶わぬのに、韓はそのことに気付かぬのだ。



荊為攻魏而加兵許、鄢,齊攻任、扈而削魏,不足以存鄭,而韓弗知也。此皆不明其法禁以治其國,恃外以滅其社稷者也。


 楚が魏の許と鄢を攻撃した。齊は魏の任と扈を攻撃した。どれも魏の国土を削り、韓の支援を目的としたものである。にもかかわらず韓は首都の鄭すら守り切れぬありさま。しかも、そのことに気付けてすらいない。すべては法律も刑罰もまともに明らかとせず、外部にばかり頼っているからこそ招いた事態なのだ。こうした国は、ついには滅び行くのである。

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