一九 飾邪

第85話 飾邪 1

鑿龜數筴,兆曰“大吉“,而以攻燕者,趙也。鑿龜數筴,兆曰“大吉“,而以攻趙者,燕也。劇辛之事燕,無功而社稷危;鄒衍之事燕,無功而國道絕。趙代先得意于燕,後得意于齊,國亂節高。自以為與秦提衡,非趙龜神而燕龜欺也。


 占いで大吉が出たからと趙は燕を攻め、燕もまた趙を攻めた。しかしその結果燕将の劇辛が敗北し、国運は危機にさらされた。また鄒衍も何ら功績を収めることなく、やがて燕の国は滅びた。趙は燕を退けたあと斉にまで勢力を伸ばし、国内が乱れてこそいたものの増長するようになった。そしてついには秦にすら対抗できるとまで思い上がるようになった。これは別に趙の亀甲が神がかっており、燕の亀甲が燕人を欺いたわけではない。



趙又嘗鑿龜數筴而北伐燕,將劫燕以逆秦,兆曰“大吉“。始攻大樑而秦出上黨矣,兵至厘而六城拔矣;至陽城,秦拔鄴矣;龐援揄兵而南,則鄣盡矣。


 その後、趙は更に燕を攻撃、吸収した上で秦に歯向かおうとした。ここで再び占いをしたところ、結果は大吉。そこで燕の都の大樑を攻撃に出たところ、秦は上黨を抜け、趙軍が厘を抜く頃には六城を落とされ、趙軍が陽城に至った頃には鄴を失っていた。龐煖が慌てて南下した頃には、既に趙の砦はほぼ奪われ尽くされていた。



臣故曰:趙龜雖無遠見于燕,且宜近見於秦。秦以其“大吉“,辟地有實,救燕有有名。趙以其“大吉“,地削兵辱,主不得意而死。又非秦龜神而趙龜欺也。


 ゆえに、私めはこう申し上げたい。趙の龜甲が本当に未来を予見できるのであれば、遠い将来の燕の命運まで見えずとも、せめて近き将来の秦の侵攻は見抜けたはずではないのか、と。示された「大吉」によって秦は土地を得、燕を救い、名を上げた。しかるに趙は領土を削られ兵は辱められ、国主は志果たせず死んだ。これも別に秦の亀甲が神がかっており、趙の亀甲が趙人を欺いたわけではない。



 占いに対する不審。まぁそうですよねーという感じである。所詮人為対人為ですしねー。とは言え戦場に立つ人間はどうしても戦場の霧と対峙せざるを得ないわけで、それはもうこうした神頼みもしたくなろうというものなのでしょう。ままならないね、人間……。

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