第46話 孤憤 5

萬乘之患,大臣太重;千乘之患,左右太信;此人主之所公患也。

 大国は大臣が、小国は側仕えが悪い意味で信任されすぎる。これが国の政にとってのピンチだろう。


且人臣有大罪,人主有大失,臣主之利與相異者也。何以明之哉?曰:主利在有能而任官,臣利在無能而得事;主利在有勞而爵祿,臣利在無功而富貴;主利在豪傑使能,臣利在朋黨用私。是以國地削而私家富,主上卑而大臣重。

 臣下が罪を犯すことで、君主に失敗がもたらされる。まず、臣下と君主の利害が食い違っていると気付かねばならない。君主は有能な人物に官職を与えたいが、臣下はそもそもあれこれ苦労ごとは抱えたくないが、官職は欲しい。君主のメリットは臣下の功労だ。だから褒賞を下す。臣下のメリットは褒賞そのもので、仕事は欲しくない。君主のメリットは優れた人物による国政の推進だが、臣下のメリットは徒党を組んで私利をむさぼることだ。ここに気付けない君主はどんどん国を痩せ細らせ、臣下の家を肥え太らせる。



故主失勢而臣得國,主更稱蕃臣,而相室剖符。此人臣之所以譎主便私也。故當也之重臣,主變勢而得固寵者,十無二三。是其故何也?人臣之罪大也。臣有大罪者,其行欺主也,其罪當死亡也。

 やがて主客逆転し、君主が臣下の命令に従わなければならなくなる。これはまさしく臣下が君主をだまくらかした末の出来事だ。仮に君主が傾きかけた権勢を立て直すことができたならば、傾いていたときの重臣はほぼ寵愛を失う。失わずに済むのは十人のうち二、三人だろう。それだけ重臣の罪は重い。意図はともかくとして、行動として君主を欺いていたからだ。国家反逆罪にも等しい。



智士者遠見而畏於死亡,必不從重人矣;賢士者修廉而羞與奸臣欺其主,必不從重臣矣,是當塗者徒屬,非愚而不知患者,必汙而不避奸者也。

 賢いものなら大国の大臣、小国の側近と言った重人に付き従おうとはしない。死が待つからだ。清廉な者もまた重人に従わない。彼らとグルになって君主を陥れようとすることを恥じるからだ。まったく、国主のそばには自らの愚かさを恥と思わなかったり、そもそもドグサレ悪人だったりする者ばかりがはびこるようだ!



大臣挾愚汙之人,上與之欺主,下與之收利侵漁,朋黨比周,相與一口,惑主敗法,以亂士民,使國家危削,主上勞辱,此大罪也。臣有大罪而主弗禁,此大失也。使其主有大失於上,臣有大罪於下,索國之不亡者,不可得也。

 大国の大臣はこういったくされ者どもの総元締めである。上にいる君主を欺き、下にいる民から収奪し、つるんで口裏を合わせ、君主の視界を奪って法をねじ曲げ、市民の生活を破壊し、国家を危機に追い詰め、君主に屈辱を味わわせる。大罪以外の何者でもない。だのに君主がそれを放置したままでいたら、それはもはや君主としての過失というしかない。君主が過失を犯し、臣下が罪を犯す国において、どうすれば滅びずに済むケースを見出すことができるのか!



 うーん、仰ることに頷くは頷くんですが「大臣は悪で法家は正しい」って、どんだけピュアなんですかあなたという気もしなくはありません。清廉な大臣もいるし汚濁にまみれた法家もいるでしょうよ。いや、その辺も踏まえた上であえてこう言い切ってるのかなあ。どうもそうではない気もしないではない。韓非の来歴的に見ても、正直視野は狭そう。

 とは言え、この辺りの章を読んで始皇帝も感服した、と言う話が載っているんですよね。始皇帝は始皇帝で強烈な他者不信があっただろうし、そういう意味で共鳴しちゃったのかな。

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