一〇 十過

第33話 十過 1

十過:一曰行小忠,則大忠之賊也。二曰顧小利,則大利之殘也。三曰行僻自用,無禮諸侯,則亡身之至也。四曰不務聽治而好五音,則窮身之事也。五曰貪愎喜利,則滅國殺身之本也。六曰耽於女樂,不顧國政,則亡國之禍也。七曰離內遠遊而忽於諫士,則危身之道也。八曰過而不聽於忠臣,而獨行其意,則滅高名,為人笑之始也。九曰內不量力,外恃諸侯,則削國之患也。十曰國小無禮,不用諫臣,則絕世之勢也。

 10個の君主にとっての過ち。

 1:小忠。大忠の賊だ。

 2:小利。大利を失う。

 3:行僻自用,無禮諸侯。身を滅ぼす。

 4:不務聽治而好五音。追い詰められる。

 5:貪愎喜利。国滅び身を損なうもと。

 6:耽於女樂。まぁ災いだよね。

 7:離內遠遊而忽於諫士。自爆だね。

 8:過而不聽於忠臣。恥かくのは自分だ。

 9:內不量力,外恃諸侯。国土削られるで。

 0:國小無禮,不用諫臣。ただのバカだね。



奚謂小忠?昔者楚共王與晉厲公戰於鄢陵,楚師敗,而共王傷其目。酣戰之時,司馬子反渴而求飲,豎穀陽操觴酒而進之。子反曰:「嘻,退!酒也。」穀陽曰:「非酒也。」子反受而飲之。子反之為人也,嗜酒而甘之,弗能絕於口,而醉。戰既罷,共王欲復戰,令人召司馬子反,司馬子反辭以心疾。共王駕而自往,入其幄中,聞酒臭而還,曰:「今日之戰,不穀親傷。所恃者,司馬也。而司馬又醉如此,是亡楚國之社稷而不恤吾眾也,不穀無復戰矣。」於是還師而去,斬司馬子反以為大戮。故豎穀陽之進酒,不以讎子反也,其心忠愛之,而適足以殺之。故曰:行小忠,則大忠之賊也。

 ここでは一つ目の小忠を。つまらん目先の誠実さにばかりかまけていると、遠大な意味での誠実さを見落とすぞ、と言うこと。

 楚の共王と晉の厲公が鄢陵で戦い、楚が負けた。このとき共王自身も目に傷を負うのだが、それでもまだ引くわけにはいかない。明日も戦うぞ、と決意し、将軍の司馬子反の元に作戦を相談しに行ったのだそうだ。すると、その副官の子反が酒をかっくらってぐでんぐでん。こりゃダメだと諦めた共王、兵を引いて楚に撤収、そして子反を戦争にまともに従事しようとしない国賊として処刑したのだそうな。

 で、この子反。確かに酒好き。けど実は、このとき酒を飲むつもりがなかった。ただ飲み物を求めたら、小姓が気を利かせて酒を持ってきた。「いやオメー、これ酒じゃねえか!」子反はそう言って下げさせようとするんだが、小姓がなぜか「いやいや、これ酒じゃないですって」と言い張る。なんでやねん。そして子反、「そうか、酒じゃないのなら飲んでも構わんな!」と飲んでしまい、止まらなくなった。なんでやねんなんでやねん。

 このあと韓非先生は「小姓だって別に子反を陥れるつもりはなかったはずである。しかしその小さな配慮が子反を殺すことになってしまったのだ」とイイハナシダナー的にまとめるのだが、いやちょっと待って子反さん一口飲めば酒かどうかわかるよね? いくら何でも小姓殿の発言おかしくね?

 左伝と史記を覗いてきましたが、ともに酒には酔ったけれども小姓殿の発言は存在していませんでした。荘子と違って韓非子はあんま捏造はしてこなさそうだとも思うんですけど、どうなんでしょ。

 いずれにせよ現存する史書に載っていない「忠誠心」の話であり、さて鵜呑みにしちゃっていいもんかって感じではある。ただ理屈としてはわからないでもないのがね。もうちょい適切なたとえ話もあったんじゃないでしょうかね?

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