第36話 徳充符 7

惠子謂莊子曰:「人故無情乎?」

莊子曰:「然。」

惠子曰:「人而無情,何以謂之人?」


 徳充符のラストは皆さんおなじみ、荘子と恵施のいちゃこらっぷり。恵施が荘子に「えっ聖人とか語ってるけど、どうすりゃ人間が情捨てられるねんな? 情持てるがゆえに人間なんじゃねーの?」と殴りかかってきた。



莊子曰:「道與之貌,天與之形,惡得不謂之人?」


 いや人間って呼ぶのは人間の形したやつのことだよ。



惠子曰:「既謂之人,惡得無情?」


 でもひとじゃん? 否応なく情は持つでしょ。



莊子曰:「是非吾所謂情也。吾所謂無情者,言人之不以好惡內傷其身,常因自然而不益生也。」


 あ? いや待て待て、持つな、とは言ってないぞ。とらわれるな、と言いたいんだよ俺は。好悪の念で自らの心身を痛めつけず、一切を自然に任せて、余計な作為を取ろうとするな、と言いたいのさ。



惠子曰:「不益生,何以有其身?」


 現状維持は敗北じゃよ?



莊子曰:「道與之貌,天與之形,無以好惡內傷其身。今子外乎子之神,勞乎子之精,倚樹而吟,據槁梧而瞑。天選子之形,子以堅白鳴!」


 しらんがな。なにを言おうがもうここに俺もお前もおるし。だからこそ無駄にささくれ立って無駄にストレス抱え込むのなんざアホやん。だのにあんたは外部に目を向けていたずらにささくれ立っとる。木に寄りかかって自説をこうでもかと語り、机にかじりついてあーでもこーでもないとのたまう。せっかく天があんたって言う形を授けてくれたってのに、それでやることがよりによって堅白論みたいなヤヤコシイ議論だってんだから、もう!



 あー待って死ぬ痛いなにここ油断してたクソ、いまの自分の状況に思いっきりぶっ刺さってくんじゃんよもう。荘子の時代は、いまの我々よりもはるかに、更に圧倒的に戦争が近くにあった。にもかかわらずさらっと荘子はこれを言っちゃう。昨晩の俺にこの文章見せたら死ぬわ。なんならいま死んでるわ。あーうー。聖人への道は遠い。

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