第22話 人間世 2

且昔者桀殺關龍逢,紂殺王子比干,是皆修其身以下傴拊人之民,以下拂其上者也,故其君因其修以擠之。是好名者也。昔者堯攻叢枝、胥敖,禹攻有扈,國為虛厲,身為刑戮,其用兵不止,其求實無已,是皆求名實者也,而獨不聞之乎?名實者,聖人之所不能勝也,而況若乎! 雖然,若必有以也,嘗以語我來!」


 孔丘先生のお話はまだ続く。

 桀が關龍逢を、紂が比干を殺したよな? あの辺は忠臣と言われてるが、自分自身の身を修めつつ王の民を甘やかして自分のほうに手懐け、その上で君主の心に逆らってる。要は名誉を求めて進言してるんだ。そりゃ君主も殺すわ。

 堯が叢枝、胥敖を、禹が有扈を攻めた伝説がある。このとき国はすっからかんにされ、その国の王は殺された。これは堯や禹が戦争を、実益を追い求めたからだ。名誉や実益は聖人にすら抗いがたいところがある、ましてお前はどうだ!

 ただ、無論お前にも言い分はあるだろう。それを語ってみろ。



顏回曰:「端而虛,勉而一,則可乎?」

曰:「惡!惡可!夫以陽為充孔揚,采色不定,常人之所不違,因案人之所感,以求容與其心。名之曰日漸之德不成,而況大德乎!將執而不化,外合而內不訾,其庸詎可乎!」


 えー、端的、謙虚、純然であることを努めれば行けませんか?

 ねーわ! ああいう、気分でころころ考え方を変え、他人を押さえつけて自分が威張るために全精力をつぎ込むようなやつの前では大徳成就は愚か、ちょっとした徳さえかなえ切れねーっつの! お前がなにを言っても、多少うわべは取り繕うだろうが、心底変わりゃしねえ! 無駄無駄!



「然則我內直而外曲,成而上比。內直者,與天為徒。與天為徒者,知天子之與己皆天之所子,而獨以己言蘄乎而人善之,蘄乎而人不善之邪?若然者,人謂之童子。是之謂與天為徒。外曲者,與人之為徒也。擎跽曲拳,人臣之禮也,人皆為之,吾敢不為邪!為人之所為者,人亦無疵焉,是之謂與人為徒。成而上比者,與古為徒。其言雖教,讁之實也。古之有也,非吾有也。若然者,雖直而不病。是之謂與古為徒。若是則可乎?」


 で、では、内面は本性を損ねず、さりとて表向き衛公に逆らわずにいる。直接は逆らわず、言動は全て古人の言葉を借りる。このように直接の言及は避ける。これだといかがですか?

 内面では天とつながり、自分と天子とにすら差を見出さず、同じ存在であるとみる。そうすれば言葉を受け入れられようが退けられようがさして気にすることもありません。周りの人からは童子であるかのように見られるような。

 そして外面では、世俗に従うのです。衛公に対する振る舞いを、臣下が君主に対するそれと同じようにするのです。それは見よう見まねで行えば実行できます。そうすれば他者からの批判も届きはしないでしょう。

 古人の言葉を借りて発言すれば、それは私の言葉ではありません。これならある程度思い切ったことを言っても、責任を古人になすりつけられます。

 これではどうですか?



 まだまだ続くけど、ここで区切るんじゃ。

 とりあえず途中なのであんまり細かくは語れないんだけど、一つ。別に孔子信者でも顔回好きでもないわけですが「飛影はそんなこと言わない」的な思いが止まらなくってどうしよう。この辺は「何故これを孔子と顔回に仮託させようと思ったか」が重要なんですよねえ。養生主の老子の話みたく、何かの理由が見出せるとっかかりがどっかにありそうかなあ。

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