第28話 成果を示せ③
「折角ですし、私の試験も杖の破壊にしましょうか」
ウィニングの前に出たシェイラ=ファレノプシスは、試験の内容を説明した。
「さて……ウィニング様。大人げないことは承知の上で、ちょっとだけ卑怯なことをさせていただきますよ」
シェイラは木製の杖を両手で持ちながら、目を閉じた。
複数の魔法を発動される。
「今、この杖に色んな強化魔法をかけました。その強度はオリハルコンと同じくらいだと思ってください」
この世界で最も硬い鉱石――オリハルコン。
その強度は凄まじく、極細の針でもトール・アダマスを十体近く引きずれるとか。
シェイラはその杖を、地面に置いた。
ウィニングがこれを破壊すれば試験に合格ということらしい。
「ちなみに、貴方が杖の破壊を試みている間、私はそれを妨害します」
そう言ってシェイラは懐から二本目の杖を取り出した。
指揮棒のように細くて短い杖だが、その杖からは不思議な魔力を感じる。多分、上位の魔物を素材にしたものだ。
「そっちの杖を破壊するという試験じゃ駄目だったんですか?」
「別にいいですが……それではライルズさんの時と同じような内容になりますし、ウィニング様も面白くないでしょう?」
「まあ、はい」
シェイラという女性のことが、少しだけ分かってきた。
彼女は遊び心がある。
勝敗のつけかたを指定されたことには何も文句はない。
なにせこれは試験だ。試験の内容は試験官が決めるものである。そしてウィニングはどんな試験だろうと、それを真面目に達成するだけだ。
「では――試験を始めろ」
フィンドが試験の開始を告げる。
直後、ウィニングは動いた。
(まずは杖を確保して……)
杖さえ確保すれば、後はシェイラの目が届かない場所まで移動して、のんびり破壊すればいい。
そう思い、ウィニングは地面に落ちた杖に手を伸ばしたが――。
「重っ!?」
ウィニングは杖を持ち上げることができず、そのまま退いた。
「その杖には重量を増加する魔法もかけています。ウィニング様の腕力では持ち上げられませんよ」
「……用意周到ですね」
「ありがとうございます」
脚力ならともかく腕力には自信がない。
いっそどこかへ蹴飛ばしてやろうか、とウィニングが考えていると――。
「ちなみに、まだ用意していますよ」
「えっ」
次の瞬間、ウィニングの全身を巨大な槌の枷が縛った。
枷はウィニングの両手ごと身体を縛っており、更に太い鎖が地面と繋がっているせいで移動も封じられている。
「これは……」
「《
こちらも中々硬いらしい。
それに、重くもあった。《身体強化》を使っていないと地面にめり込んでしまいそうだ。
「さて、これでご自慢の足は使えませんが、如何しますか?」
シェイラが試すような目でウィニングを見る。
しかし、ウィニングにはまだ余裕があった。
「このくらいじゃ、俺は止まりませんよ」
「……え」
今度はシェイラの方が驚いた。
シェイラも魔法使いだ。だから分かる。
ウィニングの脚部に、尋常ではなく魔力が凝縮していることを――。
「――《
それは、
無属性魔法《身体強化》の出力をひたすら上げ、更に《
「こ、れは……ッ!?」
シェイラが焦る。
ウィニングの全身を縛っていた土の枷が、次々とひび割れていった。
「せーーーーーーーーーーーーーのッ!!」
ウィニングが、力強く一歩を踏み出す。
地面に激しく亀裂が走り、観戦していたフィンドたちが驚きながら後退る。
ウィニングを縛っていた土の枷が、一斉に砕け散った。
「なんて力強さ……まるで、巨人族のようですね……ッ!?」
シェイラは驚愕した。
「ですが、まだ終わりではありませんよ――ッ!!」
シェイラは杖の先端をウィニングに向けた。
砕けた地面から大量の土が浮かび、シェイラの正面に巨大な岩の砲弾が顕現する。
「――《
岩石の砲弾が射出された。
圧倒的な質量だ。この魔法をくらえば、トール・アダマスの巨躯に穴を空けることもできるだろう。
だが、遅い。
ウィニングの足なら、はっきり言って簡単に避けることができる。
しかし……ウィニングはマリベルの視線を感じた。
これは、ウィニングが自由を得てもいいのか見極めるための試験である。
ならウィニングは、今まで積み上げてきたものを全力で示してアピールして、フィンドを安心させなくてはならない。
(敢えて、受けよう)
ウィニングは回避を選択しなかった。
シェイラが目を見開く。避けると予想して次の魔法を用意していたのか……それとも、避けると思って魔法の威力を高くし過ぎてしまったのか。
いずれにせよ、問題ない。
この程度なら――余裕で防げる。
「――《
それは、
両足に《身体強化》をかけ、更に無属性魔法《
今のウィニングの足は、どんな攻撃を受けてもビクともしない。
飛来する岩石の砲弾を、ウィニングは持ち上げた脛で受け止めた。
轟音が響く。
砕け散ったのは、ウィニングの足ではなく――巨大な岩の方だった。
これでもう、ウィニングを妨げるものはない。
ウィニングは瞬時に《
バキリ、と音を立てて杖がへし折れる。
「……勝負、あり」
フィンドが、戸惑いながら告げた。
「よしっ!!」
二つ目の試験に合格したことで、ウィニングは喜ぶ。
「お見事です……感服いたしました」
シェイラが折れた杖を拾って言った。
「正直、それほどの力があるなら普通に貴族としてもご活躍できそうですね」
「ありがとうございます。でも俺、貴族の仕事には興味がないので……」
「ですよね」
シェイラもライルズも、概ね理解していた。
ウィニングがこれほどの力を手に入れたのは、貴族の長男としての教育を
ウィニングは、自由に……好きなように生きることで成長する男だ。
「次が最後の試験だ」
フィンドがウィニングを見て言う。
最後は誰が現れるのか、ウィニングが待っていると――。
「……え」
現れたのは、マリベルだった。
「最終試験です。ウィニング様には――私と戦ってもらいます」
マリベルが杖を構える。
その目は、いつもの模擬戦の時とは違う――本気の目だった。
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