潜降55m 種と水

~~♪~~

ひざしはゆらめきの中で

いつもの場所に・・


風吹くカーテンを照らすように

それはいつしか・・

~~♪~~


ゆったりしたギターの音とやさしい歌声が聞こえてきた。

めずらしい。

これは、桃さんの歌声だ。


こんなふうな歌声なんだ..

心地いいな....


もしかして部屋に僕がいないと思っている?

今日は早く来たから..


しばらく少し静かにしておこう。


****


[ 柿沢さん、お届け物です ]

「お疲れ様です」


何かのお届け物が届いたようだ。


ガサッ ガサッ…


—カンカン カンカン カンカン


桃さんのサンダルの音だ。

出かけたかな?


じゃ、僕もぼちぼちコンビニに行こう....


階段を静かに降りると、太郎丸の小屋前にいる桃さんと鉢合わせてしまった。


「え、哲夫さん、もしかして居たの?」

「あ、桃さん、こんにちは」


「ごめんなさい。うるさくなかった? 居ないと思って私.. 」

「大丈夫です。今はブレずに勉強できるモチベーション持っていますから」


「ところでそれは? 」

「ああ、ARAZONで注文したものが届いたんです。この鉢植え可愛いでしょ? 」


「はい、とてもいいですね」


それは白土で焼かれた鉢植えだった。

真ん中に描かれた水色の模様が涼しそうだ。


「それと土と種。太郎丸の小屋の上に花でも植えようかなって。なんか殺風景なこの風景もすこし可愛くなりそうでしょ。それに『花いっぱい運動』はまだ継続中ですからね♪」


「そうなんですね。いったい何の種を植えるんですか? 」

「これ。マーガレットの花。この小さい鉢植えにマーガレットの花が似合いそうでしょ?」


「じゃ、僕も何か手伝いますか?」

「あははは。大丈夫だよ。鉢こんなに小さいし種まくだけだもん」


「 ..そうですか」

「 ..じゃあ、哲夫さんはお水持って来てもらえますか? 私がこれを植えるから哲夫さんは水をあげる、ね」


「はい!」


・・・・・・

・・


「こんな感じでいいのかな、種まきは。 じゃ、哲夫さん、お水あげて」

「あ、あふれた。すいません」

「あははは」


植木鉢に種まきを女の子とするのは小学生の時以来かも。

何となく、そのころに戻ったような楽しさがあった。


「哲夫さんと私の2人で植えた花だね。この花、年に2回咲くんですよ。5月頃と秋に」

「楽しみですね」


・・

・・・・・・


「桃さん、コンビニに行くんですが、一緒にいきませんか? 」

「行きます。私もお昼を買いに。ちょっと待ってて」



春の控えめな日差しの中、濡れた土が光っていた。

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