潜降45m 進む方角

この前のダイビングでドライスーツ講習ダイビングを終了させた。


残るは4つの講習ダイビングを受講すれば、アドバンスド・オープンウォーターのCカードを取得できる。


私はショップVisit で正式にアドバンスのプログラムを受けることにした。

なんか峰岸さんも一緒に受けることとなった。


しかし講習においてはバディがいたほうがやりやすいので好都合かな。


選択できる講習ダイビングは何を受けたらよいか峰岸さんと相談し、決めたのはこの2つ。


〇魚の見分け方

〇ボートダイビング


そして自宅学習を始めた。


しかし、私の中で、気がかりなのは、必須として定められているコンパスナビゲーションダイビングだ。

海の中でコンパスを使いナビゲーションをする事に自信がない私は峰岸さんへメールを送った。


しばらくすると『今度、公園で練習してみない? 』と提案が返ってきた。


どうせ海の中でもバディでコンパスナビゲーションを行うのだ。

これは良い機会とその提案に乗ることにした。


「場所はどこにする? 」

「葛西臨海公園にしませんか? 」


葛西臨海公園にしたのは、できるだけ人や障害物を気にせずに練習したかったのと水族館に寄りたかったからだ。


****


葛西臨海公園。

広い空の下、コンパス練習にはうってつけの広い公園。

しかも海も見えるからモチベーションも上がる。


まずはコンパスの仕組みを把握するため峰岸さんとおさらい。


コンパスは知っての通り北と南をさす針で成り立っている。

コンパスの磁力を持つ針を地球という大きな磁石が引っ張るのだ。

だから地球上どこにいようと、コンパスの針が北と南を示すのは変わらない。

アメリカにいるから針が西と東をさすことはない。


これは陸上だけの理屈ではない。

海の中でも同じなのだ。

つまり海の中では陸と同様、普遍的な道しるべなのだ。


そしてコンパスには4つの部位がある

針:南北を示す回転盤

ラバーライン:進行方向に合わせるライン

ベゼル:コンパスに刻まれる0~360のメモリ

インデックス:ベゼルに沿って回転する印


コンパスナビゲーションとは、この4つの機構を持つコンパスを使用し、行きたい方角へ進む為のスキルなのだ。


****


峰岸さんの説明は端的で意外にわかりやすかった。


なぜ、インデックスマークが必要となるのか。

また、『自分がどの方向を向いていても、コンパスが示す南北は変わることはない』という当たり前の事実。それを繰り返す練習の中でしっかりと頭に刷り込ませることができた事は大きい。


A地点から四角形を描いて歩き、元のA地点に戻る。

陸上では何てことはない簡単な事だ。

しかし海の中で行うとそうはならない。

視界の悪さ、わずかな流れ。

そして疑念が生まれる。

[今、自分は間違った方向に進んでいるのではないか? 感覚的には、あっちなのではないか?]


しかし、峰岸さんとの公園での反復練習は、その疑念が浮かばないくらいの自信につながったと思える。

少し大げさだが、パズルの空いたピースに正しいピースがはまるように、コンパスの理屈と仕組みがわかったのだ。



「凄いですね。私たち、もう完璧に近いんじゃないですか? 」

「ふふん。まぁね」

少しドヤ顔した峰岸さんの鼻孔がわずかに開いたようだ。


私は予想をしていた。きっと峰岸さんは勉強して完璧にしてくるだろうと。

今回はそれを大いに期待して提案に乗ったのだ。


(利用してごめんね)とちょっぴり謝ってみた。


・・・・・・

・・


練習を終えると私たちは水族館内にあるレストランで食事をした。


「ねぇ、桃ちゃんは何でダイビングするようになったの? 」

「峰岸さんはなんで?? 」


「俺はちょっとオーストラリアに留学したいなって思ってさ。その時にダイビングできるようになっていたら楽しめそうでしょ。だから俺はセルフダイビングをできるようにしておきたいんだ」


「すごいですね。ちゃんとした目的あるんですね」


「桃ちゃんは? 」

「私は.... ちょうどここ」


「ここ? 」

「うん。ここの水槽みてはっきり決心したの。ダイビングしようって」


「そうなんだ」

「そして、『沖縄の海を自分の目で見る』ってね」


「ほんと? じゃ、いつか行かない? ほら、あ、あのさ、他のダイバーも誘ってさ」


「うん。それもいいですね。楽しそう。でも、まずはアドバンスですね」


「そうだね。がんばろう! 」


****


そのあと峰岸さんとアドバンスの事、その後のダイビングLIFEについていろいろ語りあった。


こういう風に同じ趣味の話を共有できるのってやっぱり楽しいな。って久しぶりに思った。


そして水族館に入ると、前に来た時よりも知っている魚が増えたことに驚く。

まだ海の中では見ていないこの魚たちともいつか出会うことがあるのかな? なんて考えながら、6カ月前と同じ水槽前の椅子に腰を掛けてみた。

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