潜降10m サンゴのかけら①

「おつかれさん」

「あ、お疲れ様です」


「桃ちゃん、まだやっていくの? 」

「はい、あと少しだけ書類片付けて帰ります」


「そう。じゃ、電気よろしく」


「あ、太刀さん、さっき話した、私が前に食べたのって『ままどおる』でした」

「ああ、『ままどおる』ね。 はい、はい、なるほど..『ままどおる』かぁ..  じゃ、お先! 」


あの日、私がメールしてから4日が経っていた。

今までは翌日、または明後日には返信が来ていたのに..


自分自身に『きっと、忙しいのだろう』と理由を付けて日々を過ごしていた。


****


ちょうどシャワーを浴びて髪を乾かしていると、ドライヤーの向こうで着信音が聞こえた。


~♪~


砂川さがわさんからのメールだ! )


『こんばんは、桃ちゃん。メールが遅くなってごめんね。いろいろ忙しくてできなかった、ごめん。 桃ちゃんがこっちに来ることを聞いて、このままじゃいけないと思いこのメールを送ります。ここ1カ月、いろいろ考えることがあって、別れていた彼女ともう一度やり直そうと思っています。


だから、もう前みたいにメールを返せないかもしれません。


あと、たぶん、桃ちゃんがこっちに来ても会わないほうがいいのかな?って思いました。

なんかこんな感じのメールを送ることは心苦しいんだけど、わかってもらえたらと思います。


桃ちゃんとのメールでいろいろ励まされ楽しかったけど、桃ちゃんの心が伝わる度に、このままじゃいけないなって思っていました。 ごめんね 』


( ..なんで ..なんで謝るの....

   私がいっぱいメールして大変だったから?

  ..もしかして遠距離に無理があると思って、嘘ついてるの?


そうだ! きっと遠距離に無理があると思ってるんだ。

いつでも行けるってわかれば、きっと.. メールだけじゃ、わからない!! )




『あの沖縄に行くっていうの早めようかな。ちょうど休みとれるから。そしたら一度会ってくれませんか? 』


私は送信を何度かためらい、送信を押した後スマホをベッドに投げた。




そしてしばらくしてメールが届いた。


『ごめん。こっちに来ても俺は会えない。だから来ないほうがいいよ。』




(なんで? なんで『来ないほうがいい』なんて言うの? 来たら案内してくれるって.. )


「 青い海、見せてくれるって言ったじゃない!! 」


ベッドに顔をうずめて叫んだ。


涙が止まらなかった。

仰向けになり天井をみつめると、涙は全てを歪ませながら、そして、こぼれ落ちた。


****


翌日、金曜の朝、少し腫れた目で出勤したが、誰に何を聞かれることもなく、いつもと同じようにコンプレッサーの音が鳴っていた。

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