第2話



 たちばな灯里あかりは優しい女の子だった。

 彼女だけが俺の癒しであり、救いだった。


 今でも彼女の体操着姿を思い出してシコっている。

 中学の卒業アルバムはどれだけ自暴自棄になっても捨てられずにいる。


 二人組のペアで柔軟体操をしていたとき、友達もいない俺に唯一話しかけてくれたのが彼女だった。

 毎日挨拶をしてくれた。

 名前を呼んでくれた。

 あの子は太陽のように明るかった。

 クラスでも彼女を嫌い人なんていなくて、みんなから好かれていた。

 誰にでも優しい女の子だった。


 思春期だった俺は彼女に恋をした。

 でも方法がわからなくて、目が合うと目を逸らしていた。

 たくさん話しかけたかったのに声をかけることすらも出来ずに、実際会うと緊張して、声がうわずったりしていた。

 それでも彼女はそんなこと気にも留めずに話しかけてくれていた。


 でも彼女はあるとき、サッカー部のやつと付き合いだした。

 運動もできて勉強もできて格好いいヤツだった。

 そいつが陰で橘さんに下心を抱く俺の存在を毛嫌いして、嫌がらせをしはじめた。


 気まずくなって、本格的に距離をおいた。


 そこから高校が別々になって二度と会うことはなくなった。


 卑屈さが加速した俺は学校を休みがちになった。

 引きこもることが多くなり、高校を中退した。

 親が優しかったので最初はバイトをしてなんとかやっていたが、仕事が出来ないことを怒られてバックれてから、働かなくなった。


 それからずっと、ずーっと、ずぅ–っと、引きこもってきた。



 、、、



 そう、端的にいえばこれは復讐である。

 俺の人生を無茶苦茶にした女に一矢報いるための行動。


 小学生の頃はいじめられて、中学生の頃には好きな人が嫌いなやつに寝取られて、高校はつまらなくて誰も相手にされずに辞めた。

 そこから30歳に至るまで部屋の中での生活。

 人生の転換点は確実にいじめと失恋だろう。


 だけど、いじめっ子に攻撃をしたりはしない。

 それはなぜか? 理由は簡単だ。俺が大犯罪を犯したときに、奴らがテレビを見て罪悪感を抱くのをみたいからである。

 直接手を下したりなどはしない。

 ジワジワと後悔という炎を絶やすことなく、墓場まで持ってゆけ。


 うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。


 幸せなやつは地獄を見ればいい。無敵の人と好きにそう呼べ。目的を達成させるのであれば俺は悪魔にでもなってやる。

 こんな自分に生きる価値などないからなあ。

 真の絶望を思い知らせてやる。


 なあ、こんな自分に生きている意味などあるのか?

 どんな回答をされようとも、結論は変わらないが、ないだろ。ないよな? どう考えてもない。よし、ない。


 俺は無価値の人間だ。

 だから他人に酷いことをしたって別に構わない。


 動物を痛ぶって虐殺する人間もいるように、我々の本質は邪悪な怪物だ。 

 上手く社会というシステムの中で順応しているように見えているだけで、これが崩壊すると全部おじゃんだ。

 この国が平和なだけで、世界に目を向けろ。

 強姦なんて当たり前にやっている治安の悪い国なんていくらでもあるぞぉ〜?


 この行動力があればなんでもできるんじゃないかとバカなネット民はのたまうが、あれはズレている。

 働きたくない。楽をして死を選びたい。

 だから刑務所に入るためにやるんだよ。

 なんでもではない。やりたいことがあるからやるだけ。


 いいか?俺はクズなんだ。


 空っぽな自分を武装して、誤魔化して、真剣に生きることを放棄している。

 結婚や恋人が出来ないのはそのため。

 精神が幼いのは成功体験が少なく、やり切った経験がないから。

 いつも逃げだしてしまいたいと考えている。

 言葉に重みはなく、自分には価値が無い。

 劣等感が強い。

 コンプレックスだらけ。

 おまけに面倒くさがり屋。

 趣味はレスバトルで、

 何もできないのに有能なフリをしている。

 他者にバカにされたくないから、

 無駄にプライドが高い。

 被害妄想の塊で、視野が狭い。

 器はおちょこくらい小さい。

 優しくされるとすぐに好きになる。

 素直さは子宮に置いてきてしまっている。

 凹みやすくて、他者の目が異常に気になる。


 どうにかしなきゃと思ってはいるけれど、もう性格は変えられないし、どうにかしようとも本当は思っていない。

 格好をつけているだけ。

 相手にそこを突かれると、たぶん泣いてしまうと思う。

 女々しくて、情け無い、誰からも信用も愛されもしない、何者にもなれない弱虫。


 まさしく、最悪な人間。


 親も死んでしまった。



 じゃあ、もうなにをしたって……いいよな?


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