アバロニアの暁

橘左京

第1話 魔術師の塔

目を開けると見慣れた天井があった。

窓から差し込む朝日が眠たい眼にひりひりと突き刺さる。

その痛覚が昨日までの俺の記憶を甦らせて覚醒へと導く。


夢の中では現実での記憶を完全に忘れ去っていた。

夢というのはいつも、ただただ俺という自我がそこにあり、目の前で展開される無声映画を否応なしに見せつけられるといった感じだ。

今日は気味の悪い夢を見た。

この地方の民間伝承で伝えられる古き邪神モナクへの生贄として無垢な赤子が捧げられるという見るに堪えない非人道的な儀式の夢だった。

悪夢といってもいいだろう。

普通は夢なんてものは目覚めれば全て忘れるようなものなのに、今日に限って細部まで鮮明に覚えている。


気分が悪い…。

吐き気がする。


別に昨晩深酒をしたわけでもないんだけど…。

悪夢による気分の悪さは現実での安定しない自分の身分への不安感が更に拍車をかけた。


「はぁ…っ」


俺は無意識に溜息をついた。

1年前の剣術訓練生だった頃の俺はもっといきいきしていた。

輝いていた。


しかし、今となってはその日暮らしの傭兵稼業。

俺は服を着替え朝食を済ませると、今日も仕事を探しに町のギルドへ出掛けることにした。


(続く)

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アバロニアの暁 橘左京 @ponkichi777

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