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「それで、しにたかったのか」
「いや。理由なんてないんです。しにたいことに、理由なんて。ただ、しにたい。それだけです」
「こんなに料理がうまいのに?」
「供物繋がりです。しぬまえの人身御供が供物を作ったら、一石二鳥かな、って」
「その発想は新鮮だな」
「そうですか。うれしい」
「ほめてないよ」
「そうですか。残念」
「なんで、そうやってにこにこ笑ってるんだ?」
「こういう顔ですから、しかたないかなあ」
「違うな。違う」
「え?」
「しにたいことに理由がないと言ったのも違う」
「いやいや。僕は」
「しぬまえのやつが人を助けたりはしない」
「それはぶつかっちゃったから、ごめんなさいという気持ちで」
「助けてほしかったのか?」
「なにをっ」
「違うな。ころしてほしかったのか。いやそれも違う」
「あの。そろそろ」
「自分のことを知ってほしかったのか」
「もうやめろっ。やめてくれっ」
「当たりか。そうか。そうかそうか。やめる気はない」
座り直す。
「おにぎりとお粥のお礼。知りたいな、あなたを」
「俺は知られたくない」
「じゃあ、わたしの話でもするか。先にな」
水を、少し口に含む。
「生まれたときから、記憶がある。ついでに、ここではない場所との繋がりとか、人ではないものの姿とか、そういうのが見える。半分は体質で、半分は才能」
ずっと、そう。
「だから、すぐに家を出た。幼稚園に上がる前だったかな。自分がここにいると、危ないと思った。親のことは正直覚えてない。人ならざるチックなものは生まれたときから覚えてるくせに、人らしいことは覚えられない」
「人ならざるチック」
「ここではない場所との繋がりとか、人ではないものの姿とか、そういうやつのことだよ。人ならざるチック」
「ロマンチックとかそういう語感か」
「まあそんな感じ。そして、ちょっと放浪して、街にたどりついた。その街は、星空と街のネオンが両方見えて、綺麗な街で。その街が好きになった」
ちょっと座る体勢を変更。
「そこからは、街を守る正義の味方さ。放浪の原因になった人ならざるチックな体質と才能も、街を守るのに役立った。たのしかったよ、そこそこ」
そして。
「そして。任務でここに来て、街を脅かすものと戦った。街は救ったけど、わたしは消耗で動けなくなった。人がぶつかってくるのを避けられないぐらいに」
「それが俺か」
「そう。そういう感じ」
わたしの話は、そういう感じ。あまり深く考えたこともない。
「俺は」
アクティブ自己開示成功。自分の話をすると、相手も自身の話をしやすくなる。
「いや、その話を聞いたから自分も話すってわけじゃない」
「そうか。それならそれでいい」
無言。
俺は。
どうしたいのだろうか。
「やっぱり喋る」
「どうぞ」
でも。
心のなかが、まとまらない。
「お茶おかわり」
うながされるままに、お茶を淹れる。そして、その間に心を落ち着けて、話すことを整理する。
「ありがと」
彼女が、お茶を飲む。
固い口調なのに、顔は、どこまでもかわいい。
「なんでかわいい系なんだ?」
しまった。つい口を衝いて言葉が。
「顔か。いや、顔はどうしようもなくてな。さっき話したような
「それで、その口調か」
「でもかわいい系が好きだから、メイクはかわいい系になる」
「メイクしてんのか?」
「ばかにしてんのか?」
「いや。ここに連れてきたとき、タオルで顔拭いたぞ。暖かいタオルで」
「あ。そうか。あれは気持ちよかった」
「覚えてんのかよ」
「寝てるから覚えてはいない。気持ちよかったのは覚えてる。感覚だし」
「そのとき何もタオルに付かなかった」
「じゃあ任務中に取れたんだな。ノーメイクだわ」
「かわいいな」
「ほめてんのか。よくわからんけどありがとう」
「俺は。それが原因だった」
俺は。
「顔がよかった。それだけだった、それだけで」
「呼吸、多少楽になっただろ」
「ありがとう」
たしかに、楽になった。
「顔だった。家どころか、人の集まる場所には、いられない。隠れるように生きてきた」
そう。そして。
「心がおかしくなって、死のうと思った。死ぬためのオプションで、人身御供だから身体作っておこうと思って筋トレしたり、供え物繋がりだから料理してみたり。おかしいだろ」
「おかしいけど、笑い種にはできないな。そんな、つらそうな顔で話されると」
「そう。顔だよ」
「訂正するよ。表情。表情が、つらそう」
「どこまで行っても顔さ。しにたくなって、街を
「わたしとぶつかった」
「かわいい顔がいると思った。最初は無視したけど、倒れる音がして。もしかしたら、同じ、心なのかと、思っ、て」
また、鳩尾をやさしく押される。
「でも、違ったな。ぜんぜん違った。いまだって、俺にやさしくしてくれる。強い人だった」
「いや。わたしは脚で蹴ってるだけ。そっちはおにぎりとお粥と、あとベッドとタオルだ。やさしいのはそっちだろ」
「かわいかったからかも。これも顔だな」
「やさしいからだろ。たぶんわたしじゃなくても、倒れてたらおまえはこうやって世話すると思うよ」
「いや。しない」
「なんでだ」
「似ていると、思いたかったから。顔がいい同士」
「残念ながら、わたしは自分の顔をそんなにいいと思ってないな」
「そうか。違うな、全然」
「やさしいんだな。やさしすぎる。やさしすぎて、つらい」
「同情すんなよ」
「いや、その話聞いて同情すんなってほうが無理だよ」
「俺は。しにたい」
「わかった。しに場所にふさわしいところを知ってる。そこまで行こう。この場所とは違うけど」
「違う世界か」
「世界じゃねえんだよな。全部同じで、違うのは場所なんだ。って説明しても分かんないか。まあいいや。行こうか」
「うん」
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