鬼ごっことねずみとカレーパン

~鬼ごっこ~


 テロリスタンで鬼ごっこといえば――耐久鬼ごっこ。

 それは先生によって導入された、日本に伝わるとされる恐ろしい特殊部隊用の訓練。

 参加者は決められた時間を過ぎるまで、鬼側から逃げ続けなければならない!


 そして鬼側に捕まった者は、反撃せずに恐ろしい罰を受けなければならない!



 以下がその主要な罰の例である。

 ・特殊な機械や薬によって男性の急所を攻撃される(威力は取り返しがつく程度)。

 ・タイキック等の打撃を受けたり、体術をかけられる等 


 女性専用の訓練もあるが、受ける威力は男性の場合と同じと言われている。



 そしてこの訓練の最も恐ろしい所は安心できる時間が一切ないこと!

 時間が二日と決められた場合は、四十八時間の全てに気を張らなければならない!

 眠ろう者なら、それに嫉妬して激怒した鬼側から猛攻撃を受ける羽目になる!


 それに直撃されないとはいえ、機関銃やロケットランチャーも実弾で使用される!


 眠る場合は仲間が囮になってくれている隙を狙ったり、鬼側から身を隠す必要がある!



 そんな恐ろしい訓練に、アイ坊とドーストは参加していた。鬼側として……。


「ウトウトしないで、あの馬鹿にRPGの恐ろしさを教えるんだ!」

 真夜中――暗視装置に映った、爆睡中の参加者を叩き起こさんとして……。

眠りかけのアイ坊をけしかけるドースト!

 これにアイ坊は「はい~」と呻きながら有名な兵器の実弾使用準備に入る!


 鬼側でも交代で仮眠できるとはいえ、つらい役割を示す一幕であった……。




~ねずみ~


「これ知ってる?」

 第5次テロリスタン戦争中のガリベンのアジト。

 そこで商人がある品物をアイ坊とドーストに自慢気に見せた!

 それはジオラマで使われるようなトンネルだが、両端の口の大きさは極端に違う。


 この変なトンネルらしき品物に「知ってる、知ってる!」と大はしゃぎするアイ坊。

 ドーストも無表情ながらも「どっかで見た道具やつだ!」とそれに関心を寄せる。



「試してみたいんだが、実験体は用意してるか?」

 この商人の物騒な質問にアイ坊は無邪気に「実験体になる!」と即答!

 そんな物騒なアイ坊を「待てや!」と止めるドーストだが……。


「これ先生が言ってたやつだ。今、実験用の捕虜を引っ張り出す!」

 予め先生から与えられた指示を遂行すべく、ドーストは捕虜の収容室へ向かった!



 それから数分も経たぬうちに、ドーストが実験用の捕虜を連れてきた。

 そうして捕虜をあのトンネルらしき品物に放り込んだ。大きい口の方からだ。


 その結果、小さい口の方から出て来たものは――鼠。溝鼠ドブネズミのようだ……。

 この結果に商人は「どうも失敗作だ。こりゃ……」とがっかり。

 反対に、アイ坊は「すげええっ!!」とジャンプせんばかりに大はしゃぎ!

 しかし、先の鼠は両者の反応に関わることなく、本能のままに逃走を開始!

 ドーストが「あっ、逃げる!」とその鼠を捕獲しようとした――その時!



「お前ら、捕虜の交換が今日に決まったぞ!」

 兄貴が勢いよく、三人と一匹がいる部屋に入ってきた。

 彼は急報で頭がいっぱいだったのか、その一匹に気づくことなく――。































 ぶちゅううっ!っと思いっきり踏み潰してしまった!



「あ……!」

「あちゃーっ……」

「やばっ……!」

 この惨劇にアイ坊は焦り、ドーストは諦め、商人は真っ青になった……。




~捕虜交換~


 実験で鼠になってしまった捕虜を、兄貴が踏み潰してしまった!


「申し訳ございません、先生……。私の不注意で捕虜を……」

 あの惨劇からものの数分も経たず、白装束になって先生に詫びる兄貴。切腹する気満々!

「「……」」

アイ坊とドーストも彼に倣って白装束に身をつつんで、先生に土下座。


「今回は私の責任だ。こうなった以上、他の捕虜を交換に使うほかあるまい……」

 商人から事情を聴いていた先生は、そんな三人を許す。



「しかし、相手に聞かれたら何と……」

「脱走しようとしていたから、やむを得ずに殺してしまったとでも言うほかあるまい!」

 懸念する兄貴に、先生はそう言って不安ながらも続行の旨を告げる!



 それから捕虜交換の現場。ガリベン側では兄貴が主導して行うことになった。

 アイ坊とドーストも彼に随行している。


 そしてお互いの確認の際に――兄貴が懸念していたことが起こる!

「あい、お前らが殺した奴のことやけどな!」

――ダメか!? と相手に捕虜殺害の件を聞かれて失敗を覚悟する兄貴!

 その結末は――!?





「代わりがいるからどうでもええが……そいつ自軍おれらの名前に載ってない!

 でも認識票ドッグタグは本物なんだけど、どういうこと!?」

 相手からの質問に兄貴は本当に訳が分からず「分からん!」と即答!

 これに相手は「あっ、そう」と答えただけで、その後の捕虜交換は成功に終わった。




~カレーパン~


 第5次テロリスタン戦争末期のこと。北部政権の要人をガリベンは捕らえていた。

 今度の要人は前回のように安全保障関係ではなく、経済に明るい人物のようだ。


「お前を拷問して情報を吐いてもらう!」

「些細な情報でも貴様らには渡さん!」

 この先生の堂々とした宣言に、檻の中の要人は強気の姿勢を崩さない!

 なおこの時点では先生がどんな情報を必要しているかは要人に伝わっていない……。



「今回は私の弟子も、お前と共に拷問を受ける!

 もしお前が弟子よりも先に屈しなければ――解放してやる!」

 この先生の挑戦に要人は「面白い、受けて立ってやる!」と快く応じてみせる!



 そしてこの一連のやり取りはその要人に――毎回出る夢として刻まれた。

「また、あの時の夢だ……。ここ数週間で毎食カレーパン……」

 この要人の言葉通り、彼は毎食カレーパン生活という拷問を受けている最中。


「起きたか。早く食えよ!」とそんな夢から目覚めた男に向かって、声をかけるドースト。

 そのドーストの手には――お皿にのったカレーパンが……。



 そしてこの一連のやり取りもまた、その要人に――毎回出る夢として刻まれた。

「うわああぁ!夢のまた夢から――あの若造がっ!?カレーパンがっ!?」

 毎回出る夢を拒絶するかのように、ガバッ!と起きる要人だが……。


「起きたか。早く食えよ!」と悪夢から目覚めた男に向かって、声をかけるのもドースト。

 そのドーストの手には――お皿にのったカレーパン!

 特殊な訓練を受けて育ってきた彼には、毎食カレーパン生活なぞ一年余裕で耐えられる。


 そうやって夢と現実の区別がつかなくなった要人。次の配膳時にその精神も崩壊!

 その直後に彼は尋問されて、食パンと引き換えにガリベンに必要な情報を提供!

 このことも北部政権の最高指導者であるウリヤノフの暗殺作戦に繋がっていく!

 なお、この要人のその後も――どの歴史書にも載っていない……。

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