第2話 共同生活
アンナを部屋に通してから俺はすぐにロシアへとたった母親に電話した。
空港にはついているかもしれないがまだ電話は通じるはずだ。
4,5コールほどして母親が電話に出た。
「もしもし? どうしたの? もうすぐ搭乗だから早めにしてくれると助かるんだけど」
電話の後ろでは機内搭乗のアナウンスがかすかに聞こえる。
「あー、ごめん。なんか爺ちゃんのことで変わったことって聞いてない?」
さすがに隠し子が家に来たんだけど……とはいきなり言えない。母親からしたら年の離れた妹になるわけだしな。
「? 特に何も聞いてないけどどうかしたの?」
「いや、聞いてないならいいんだ。気を付けて」
「? それじゃあ行ってきます」
電話が切れる。
現状、母親が何も知らないとしたら、ロシアの爺ちゃんのお見舞いに行ったときに何か聞かされるかもしれない。どういう対応をするのかは両親に任せるとしてとりあえず俺はアンナのことをもてなすことにしよう。
コンクール用の作品を仕上げようと思っていたが色々気になることが多すぎて集中できそうにないのでひとまず夕飯の出前を取ることにした。
スマホで何を頼もうかと検索をしていると、和室からアンナが出てきた。
「あ、アンナ今日の夕飯何が良い?」
「夕飯ですか? 特に食べたいものはないですが」
「了解。かつ丼にでもするかな」
「デリバリーですか? 何もないなら私が作りますが」
「さすがに疲れてるだろ。食材も何があるか分からないし今日は出前にしようぜ」
今日日本に着いたのだとしたら時差ボケもあるだろうし単純に飛行機での移動は疲れる。小学生の身体には相当負担が大きいはずだ。
「分かりました。お気遣いありがとうございます」
「そんなかしこまるなよ。むず痒い、タメ口で大丈夫だぞ」
「そうですか。じゃあお言葉に甘えて、ありがとう仁」
「お、おう。気にすんな」
アンナはにっこり笑ってお礼の言葉を口にする。日本人とは違って高い鼻とシュッとした輪郭。人間離れしたプラチナブロンドを揺らしながらの「ありがとう」は思いのほかドキッとさせられた。
「ですがこちらの話し方の方が馴れているのでこのままでもいいですか? できる限り努力はするので」
「あ、あぁ。そういやアンナからすれば日本語は外国語だもんな。すまん。喋りやすいほうでいいぞ」
「ありがとうございます」
〇〇〇
出前のかつ丼が届いた。
「さて、それじゃあ食べるか」
ダイニングに着いた俺たちはかつ丼を前に手を合わせる。
「「いただきます」」
厚めの衣に薄っぺらい肉。底のかさ上げされたよくある安いかつ丼を前にアンナは目を輝かせていた。
「コレがうわさに聞くかつ丼ですか」
「食うのは初めてか?」
「はい、いつか食べてみたいと思っていました」
「そうだったのか。だったらこんな安いのじゃなくてもっといいの頼めば良かったな」
「いえ、コレがスタンダードならこれから食べてみたいです」
フォークで上手にカツと米をすくい、小さな口でパクリと食べる。
「……っ」
「うまいか?」
満足そうに咀嚼しながらコクコクとうなずく。
「とってもおいしいです!」
「それなら良かった」
その反応を見て俺も割り箸をパキっと割り、かつ丼を食べ始める。
その後は二人してただただ無心でかつ丼を食べ続けた。
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