銀髪ロリは世界の選択

こめかみと

第1話 銀髪ロリ襲来

 「先生採点お願いします」

 「はーい」

 今俺の前には4人ほどの少年少女の小学生達が列をなして並んでいた。俺の目の前にいる少女は少し恥ずかしそうにもじもじしている。とてもラブリーだ。

 別に条例違反なことをしているわけではなく、今俺は書道教室で先生をしているのだ。

 長谷川 仁。年齢25歳、母は日系のロシア人で父は日本人のハーフ、職業書道家。ちなみに日本を出たことは1度もない。そしてロリコンでもない。

 12歳の頃に書いた作品が有名なコンクールで文部科学大臣賞を受賞。その後も名だたるコンクールで賞を取りまくり高校生の頃には天才書道家としてテレビにも取材された。

 完全に天狗になっていた俺は大学にも進学せず、就職もせず書の道一本で生きていくことを決意した。しかし、現実はそう甘くなく、高校卒業後に書いた作品はコンクールでも落選しまくり、書の仕事も皆無。卒業1年で完全にニートとなってしまった。

 そんな俺のことを心配してくれた書道の先生が今の仕事を紹介してくれた。

 曰く、「人に教えることで見えてくることもありますよ」とのこと。これまでさんざん生意気なことを言ってきたのに優しく手を差し出してくれた先生には本当に感謝しかない。

 そんなこんなで俺は自分の作品を書く傍ら子供たちに書道を教えることとなった。

 公民館を借りて週に1度書道教室を開いている。

 通っている生徒は、下は小学1年生から上は高校3年生までそれぞれだ。

 「センセー! オレの先に見てー!」

 先に採点をお願いしてきた少女を押しのけるようにして割り込んできた少年が半紙をズイッと突き出してくる。この教室で一番のお調子者の橘 龍之介、小学5年生だ。

 「龍~、割り込んじゃ駄目だろ。ちゃんと並ばないと帰りに飴玉やらないぞ」

 「え~! なんだよケチ」

 「はいはい、戻りな~」

 ぶつぶつと文句を言いながら列の後ろへと戻っていく。

 「良し、愛奈見せてごらん」

 同じく小5の橋本 愛奈だ。

 すると少女は恥ずかしがりながら半紙を俺に手渡した。

 今月の小学生の部で出されている課題は[ 命 ]だ。ポイントは基本の止め、跳ね。それと字全体のバランスだ。

 左右非対称のためバランスを取るのがとても難しい漢字となっている。

 「どれどれ、うん、とってもきれいに書けてるな。バランスもちゃんと取れてる。でも……字がちょっと小さすぎないか?」

 愛奈の出してきた書は半紙の大きさに対してとても小さく書かれていた。

 「えっと、えっと……それでも頑張って大きく書きました」

 「そうか~、次はもうちょい頑張って大きく書いてみよう。ここら辺から書いてみな」

 朱色の墨で1画目の場所を指示して半紙を返す。

 「はっはい……」

 恥ずかしそうにうつむきがちに半紙を受け取り自分の席へと帰って行く。

 その後も数人の字を採点し、1時間ほどがたった。

 「よーし、それじゃあ今日はここまで! みんなお疲れ様」

 「「ありがとうございました!」」

 帰りに子供たちに飴玉を渡し解散する。親が迎えに来る子もいれば、習字鞄を振り回しながら遊びに行く子もいる。

 「気を付けて帰るんだぞー」

 「センセー! バイバーイ!」

 子供達が全員帰ったことを確認し、戸締りをして公民館の事務員さんに鍵を返して今日の仕事は終了だ。

 最初は子供の扱いに馴れず右往左往したものだが、今では掌で転がすのもお手の物だ。慣れてしまえば今の仕事も楽しくなってきた。

 「さてと、帰って作品仕上げるか」

 自分のコンクール用の作品を仕上げるべく、公民館から徒歩10分程の家へ帰路に着いた。

 家に帰ると玄関に大荷物を持った母親と父親がちょうど家を出るところだった。

 「ただいま、どっか行くの?」

 「おじいちゃんが倒れちゃったらしくて今からお見舞いに行くのよ」

 「おじいちゃんってロシアの?」

 「そう、なんでも入院しちゃったらしくて。お父さんとしばらくロシアに行ってくるから家のことは頼んだわよ」

 「あぁ、そういうことなら気を付けて。おじいちゃんにもよろしく」

 「えぇ、それじゃあ今晩の飛行機で行くからもう出るわね」

 そういうと、あらかじめ呼んでおいたのかタクシーが家の前に来て二人は乗り込んで行った。

 「爺ちゃん倒れたのか」

 爺ちゃんは年末には毎年日本に来て俺にお年玉をくれていた。日本語も上手で俺も大好きだったので倒れたとあっては心配だ。

 「明日電話でもしてみるか」

 母と父が急いで向かっていたことからあまり容体も良くないのかもしれない。

 玄関に入り、鍵を閉めたところでインターホンが鳴った。

 「忘れ物でもしたか?」

 怪訝に思い玄関を開けるとそこには見慣れない少女が立っていた。

 どう見ても日本人には見えず、手には大きめのスーツケースを持っていた。見た目は小学生高学年といったところで髪の色は日本では珍しいプラチナブロンド。日の光を反射して綺麗な銀髪に見える。顔立ちは整っておりまるで子役でもしていそうなほど可愛らしい。

 ロシアには縁のある俺だがさすがに現地にいる知り合いは爺ちゃん一人のためまったく身に覚えのない来訪者だ。

 「えっと、どうしたのかな?」

 仕事で身に着けた対ロリ用のコミュニケーション術を用いて話しかける。

 「あなたが長谷川 仁であっていますか?」

 「? そうだけど、どこかで会ったことあったっけ?」

 「いえ、初対面です。おじいちゃんに聞いていただけです」

 「爺ちゃん?」

 「初めまして、私はアンナ・パヴロヴァ、あなたの叔母に当たります。アンナと呼んでください。」

 「叔母? えっとどういうこと?」

 「とりあえず家に入れてもらってもいいですか?」

 

                 〇〇〇


 アンナと名乗った少女を家へと招き入れてお茶を出す。

 するとお茶を上品に飲みながらこれまでのことを話してくれた。

 アンナによると、どうやら爺ちゃんは10数年前にロシアのモデルと不倫をいたしていたそうだ。ハッスルしてしまった爺ちゃんはそのモデルとの間に子供が出来てしまった、そのモデルは子供を生んだ後爺ちゃんのところに来て子供を預けどこかに行ってしまったそうだ。

 その後爺ちゃんは俺の母親に内緒でアンナを育ててきたのだそうだ。ばあちゃんは早くに亡くなっていたため男手一人でこの年まで育ててきたらしい。不倫をして子供ができましたなんてバツが悪くて言えなかったのだろう。しかし、最近になり体調を崩した爺ちゃんは入院することとなり一人となったアンナは唯一の肉親である俺たち家族の元へとやってきたらしい。

 「事情は理解した。大変だったな」

 「いえ、日本までは近所の人が付き添ってくれましたし、日本語はおじいちゃんから教わっていたのでそこまで苦労はしていません」

 「いや、そういうことじゃなくてだな……」

 「生い立ちでしたら気にしないで下さい。それこそ苦労だなんて思ってませんから」

 「そ、そうか」

 歳の割にはしっかりとした受け答えをする子だ。ちなみにさっき確認したところ年齢は11歳、予想通り小学生高学年だった。だてに毎週小学生と会話してないね。

 「それでお母様とお父様にもあいさつをしたいのですが」

 「あぁ〜、それなら間が悪かったな。両親共爺ちゃんが入院したと聞いてさっきロシアへ行ったところだ」

 「そうだったんですね」

 「明日電話してみるよ」

 「ありがとうございます。それで失礼なんですがしばらくこの家にいさせてもらえないでしょうか?」

 「もちろんだ。我が家だと思ってくつろいでくれ」

 「ありがとうございます」

 そしてアンナを使っていない和室へと通して自由に使ってくれと言い残して部屋を出た。

 突然銀髪ロリとの共同生活の始まりだった。

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