第5話 不測

嗚咽が終わった頃には、完全なる沈黙が場を支配していた。


ゴブリンが動く気配は無い。気色の悪い液体が奴からは流れ出していた。


「……お前がやったのか」


「はい」


室井の顔には妙な焦りがあった。

そしてその真意を、俺は理解する事が出来ない。


「お前ら……動くなよ。」


そう言って室井は、ゴブリンの近くに駆け寄り、観察した。


「……死んでる……のか?」


「どうしたんですか先生?」

痺れを切らして石川は問う。


「いいか、モンスターはな、爆弾とか武器とか、スキルだったりにしろ、致死量のダメージを受けたら、その死体は粒子になって消える。」


「人間は肺、心臓、そして脳が停止した時初めて“死んだ”ことになる。」

「モンスターの場合は、それが粒子化で判断している……ということですか。」


「そうだ。」


「じゃあまだ死んでねぇって事か?」


「かもな。」


「じゃあ念の為トドメでも刺して————」


溝口がそう言った瞬間、ゴブリンが急に立ち上がった。


「アガッガ……ギャアアアアアアア゛ッッッッ!!!!!」


怒っているというよりは、苦しんでいるよう聞こえる叫び声を上げながら、

何故か爛れた皮膚を押さえながら、ゴブリンは迫る。


「うぉおっ!? まだ生きてやがったか……!鎌鼬カマイタチッッ!」


そんなゴブリンに溝口は手刀を振り下ろし、またもや両断した。


が———。


「粒子化……されない?」


真っ二つになったゴブリンは未だその死体を残していた。


「どういう事だ……!?」


「うぉえぇえっ……!」


手を押さえ考え込む室井。嘔吐する鈴原。


何かとんでもないような事が起きているのはずだが———それが“何”なのかわからない。


得体の知れない緊張感と恐怖が流れる。


「えっ鈴原大丈夫!? えっと……! 急癒ファースト・エイド!」


「……気持ち悪い……!」


「効いてないの?!! 嘘ッ……!」


何かが、何かがおかしい。


これが、「災厄」とでも言いたいのか……!?


「おい!! とにかく戻るぞ!」

室井の怒鳴り声と共に俺たちは第2階層の出口に向かおうとしたその時———。


大量のゴブリン、スケルトンが眼前に現れた。

あのゴブリンの断末魔を聞いて集まってきたらしい。



「マジでやばいって!!!!」

溝口はその焦燥を狂ったように声に出す。


「おい!! 箕島!!あの最悪なやつやれ!! できるだろ!!!!」

その焦りは止まらない。


だがあまりにも実態が不明瞭すぎるこの技を使っていいのか———。


———いや、使


室井は生徒の保護、鈴原はダウン、石川は回復、そしてまともに攻撃できる溝口でもこれほどの量のモンスターは捌き切れない。


日和ったら……死だ。


俺は覚悟を決め、かつで、モンスターに向けて、



「——————災厄ッッ……!!!」


“それ”を使った。


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