戦いの中でも弾ける乙女
前線に到達したエリオたちは陣形を組んで魔造人形に挑む。ザックとエリオを前衛に、マルクスとレミを中衛に、ハルカを後衛に配置して、可能な限り一体ずつ相手にする。だが、魔造人形が思いのほか動きが良く、岩とは思えない強度のため苦戦していた。
「やっと一体かよ」
少し息を弾ませ、うんざりといった声を出すマルクスは、後方で別のパーティーの怪我人を治療しているハルカに視線を送る。
「この数の魔造人形が乱立して動き回っていたら魔法での攻撃は難しい」
大盾で一体の突進を跳ね返したザックが彼の視線から考えを察して言った。
「ましてやハルカの魔法の規模を考えたら巻き添え必至だ。期待するな」
「してねぇよ」
二度ほど使ったハルカの爆裂弾の魔法は一発が一メートル近い大豪球。さらに着弾したときの爆風は半径二十メートルを超えて届く。一般の魔法士でも魔法の運用には気を使うのだから、連携を取ったことのない他のパーティーが混戦していては、強弱の調節ができないハルカの大魔法は使いどころがないのだ。
近隣の町や王都からの短時間での援軍到着はあり得ない。エリオと並ぶほどの闘士は依頼で出払っている。勇者と共に戦った経験のあるギルド長も、昨日エリオと話をしたあとに少し遠方の町に出かけてしまって不在という不運。
近い実力者ではエリオをライバル視するセミールだが、やはり苦戦していた。
(このままじゃジリ貧よね。やっぱり元を立たないと)
そう考えたのはハルカだけではない。しかし、魔造人形を操っていると思われる魔族は、ハルカの感知能力にもかからない場所にいるようで見つからない。
ジリジリと押され始める闘士たち。数で劣る町の防衛隊たちではあったが、魔造人形が個々に戦っているため囲まれないことが幸いしていた。
「出し惜しみしてられないな。グレン、リリーストゥルーアビリティ」
ぼんやりとエリオの体が赤く光るのはグレンという剣の効果による事象だ。『
その攻撃能力の向上によりエリオは一方的に斬り叩く。これまでなかなか刃の通らなかった魔造人形の体には次々に斬り傷が刻まれ、エリオは二体の魔造人形を倒してみせた。
どうにか盛り返したのだが、魔造人形と違いエリオたちの体力には限界がある。エリオのように魔造人形と互角以上に戦えるだけの戦力の追加は期待できない。
近場の町からの援軍が来るまでエリオが戦い続けられるかは怪しいと、前線を支える主力たちが思った矢先、近くの森の中から木々をなぎ倒して巨大な蛇が飛び出して来た。
「マサカーサーペントだぁぁぁぁぁぁ!」
四十メートルに達しようかという全長の体が素早く振られ、冒険者や衛兵たちごとそばにいた魔造人形五体を弾き飛ばす。それを見ただけで大半の闘士たちは戦意を失った。
この大蛇の登場に闘士たちの半数は持ち場を離れて逃げ出していく。それもそのはず、マサカーサーペントの強さは先日エリオが倒したグレートウルフェンの比ではないからだ。
ギラつく鱗は並みの刃など跳ね返し、鋭い牙は鋼も貫く。人など丸飲みにしてしまう口と極太の体をムチのように振る大蛇に、一般の冒険者や町の衛兵が抗う術はない。
「最近何度か目撃されたって話があったけど本当にいたのかよ。それがこんなときに!」
遠間から見ていたセミールは膝を震わせ、加勢に向かおうなどという考えは起こらない。
「なんで魔獣がこんなところまで」
「黒の荒野の魔獣は結界の向こうじゃないのかよ」
逃げる者たちの言うとおり、この魔獣は本来このあたりには生息しない。魔族や魔獣が住まう黒の荒野と人族の領域は現在、結界によって隔離されているからだ。
「結界が張られる前にこちら側にいた個体なんだろ。だがなぜこんなところに」
大蛇を見るザックは歯を噛みしめた。
(あの魔獣はまずいわ!)
後衛で治療をしていたハルカが立ち上がったとき、その大蛇に向かっていく者がいた。
「みんな、いまのうちに町へ逃げろ」
叫ぶエリオに大蛇の牙が迫ったとき、その口に巨大な火球が飛び込んで燃え広がった。
たまらずのけ反り暴れる大蛇からエリオは大きく跳び下がると、近くにいた魔造人形たちは次々に倒されていく。
「ありがとうハルカ。助かったよ」
「そんな。いつもエリオさんには助けてもらっているじゃないですか」
(エリオさんにお礼言われちゃったわ)
緊迫したこの状況にあってもエリオの役に立てたことで、ハルカの中の恋する乙女は抑えが利かず弾けてしまう。
そんなハルカの魔法によってひとしきり苦しみ暴れたマサカーサーペントは、チロチロと舌を出しながらエリオとハルカを睨み、敵として認識した。
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