奪取してダッシュ
魔族の儀式を止めるために戦うことを決めたエリオに、レミが慌てて止めに入った。
「ちょっとエリオ待ってよ。魔造人形が三十体もいるのよ。それを操る魔族の力を考えたらやばいって」
レミが腕を掴んで止めると、エリオは彼女の目を見て言った。
「目の前で人族の脅威となり得ることが起きているんだ。それを見逃してしまうことはできないよ。あいつは儀式で動けない。だからこその魔造人形のはずだ」
しばし沈黙する仲間たち。どれほどの力を持っているかわからない魔族に対してへたに手を出すことは死を意味するからだ。
そんな緊迫した雰囲気の中で、ハルカが緊張感のない声で言う。
「なにも魔族と戦う必要はありません。あの魔道具を奪って逃げましょうよ」
「え?」
どう戦って勝つかということを検討していた中で、ハルカは皆が考えもしなかった当たり前の提案をした。
「だけどそれじゃ根本的な解決には」
「儀式で動けない今しか勝てるチャンスはないかもしれないんだぞ」
そういった意見に対して、ハルカは再び言葉を返す。
「戦って勝てるかという心配もあり、見逃すこともできないんですよね? だったらそのあいだを取って、この儀式を止めましょう」
「あいだをって……」
「それに、あの魔族は人族に対してまだなにもしていません。なのに儀式で動けない人を殺すなんて酷いじゃないですか」
結果、ハルカの提案はエリオによって受理され、魔道具奪取作戦が実行された。
「いくよ」
エリオたちが跳び出したと同時に魔造人形も動き出す。その半数は術者を守り、半数は魔道具のある陣の前に集まってエリオたちに向かってきた。
レミとマルクスが左右に広がって数体を引きつけ、わずかに手薄になった魔造人形の群にザックが大盾を構えて突撃する。四体を受け止めたところで彼の突進は止まるのだが、ハルカは不自然にならない程度の力でザックの背中を支えて押し返した。
「エリオ!」
ザックの合図を受けて彼の肩を踏み台にエリオが跳び出した。
「グレン、リリース・トゥルーアビリティー」
エリオは群の後方にいる二体を蹴散らして残りの魔造人形の隙間をぬっていくのだが、魔術陣の中央に浮かぶ魔道具まであと数メートルというところで阻まれてしまう。すると、ザックに群がる魔造人形たちの一部がエリオを追うために振り返った。
(前後から挟まれたらエリオさんが危ないわ)
「ザックさん。全力で押してください!」
ハルカの激を受けてザックが叫ぶ。
「ボアランジ!」
脚力の強化によって押し返そうとするザックの背をハルカが後押すると、十体もの魔造人形を物ともせずに彼の足は踏み出された。そのままエリオのもとまで突き進んだザックは、魔造人形と共にエリオを魔術陣の中に押し込んだ。
「貴様ら!」
動けない魔族の叫びにマルクスとレミは身を固めるが、ザックとエリオは止まらない。魔造人形に組み付かれて団子状態ながらも、陣の中に入ったエリオは腕を伸ばして魔道具を掴み取った。
「よし、撤退だ!」
エリオの指示を受けてレミとマルクスは身をひるがえして逃亡を開始。ハルカとザックも身を引き、エリオは魔造人形を引きはがして揉みくちゃの状態から抜け出すと、その脚力にものを言わせて走り出す。
魔術陣が消失して儀式が中断されると、その影響なのか儀式のために使われていた魔力が暴走して魔族は酷く苦しみだした。そして、陣の中心に膝を突く。
「あいつら……ゆるさんぞ!」
震える拳で地面を叩く魔族は逃げていくエリオたちを睨み、魔造人形を操って彼らを追わせる。しかし、エリオたちは魔造人形の行動範囲外まで逃げきり、追跡を振り切って山を下りた。
エリオが脇に抱えている魔道具は膨大な魔力を蓄えていたのだが、魔族からの逃走に全精力をつぎ込んでいたため、その内在する魔力を実感するのは山を下りてからであった。
「この魔道具ヤバい……」
「よね……」
ひと息ついたときにマルクスとレミが言った言葉には、山で魔族を見たときよりも驚きの感情が込められていた。それは、個人が持ち得ない魔力の量を感じたからだ。
下山してきたエリオたちが持つ魔道具の異常さを感じた他のギルドパーティーたちに事情を説明し、魔族の追撃の警戒を要請し身構えてから半日が過ぎた。
夜を迎え、交代で夜間の任務と警戒をおこなっていたのだが、恐れていた魔族は現れないまま朝を迎える。
魔族の追撃がないことに少々疑問を感じていたエリオたちは、冒険者の大部隊を見て魔族は諦めたのだと判断した。その本当の理由が多大な魔力の消耗と儀式による負荷によって動けなくなっていたからだとは知らないままに、さらに三日が過ぎる。
ヴィオレントガリルは山の中腹を越えて元の生息域に戻ったことが確認され、エリオのパーティーも依頼完了報告のために拠点であるビギーナの町へと戻ることになった。
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